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原田と私

社長と専務の話を聞いて私は考え込んでしまった。

しかし、肝心の原田はどう思っているのか、私はやはりこれを聞かないことには収まりがつかないと感じていた。

長い沈黙の後、私は意を決して発言した。


「社長と専務のお言葉は大変ありがたく思います。私もこの会社やこの仕事自体が嫌だというわけではありません。ただ、今の私の置かれている環境がどうにも納得できないのです。私はこれまで必死になって納期を守ろうとしてきました。もちろん設計の品質にもこだわってきました。客先に常駐して徹夜の作業も何日もやりました。しかし、会社からの支援があるわけでもないし、それに対する評価もされていないように感じています。会社に戻ると文句ばかり言われ、心身ともに疲れ果てました。こんな気持ちで仕事を続けるのは難しい……いや、もう無理です。」


「ご苦労をかけているのはわかってます。ですから、そんな環境を変えようという会社の方針に協力して欲しいのです。そのような経験をしてきた秋村さんなら、いろいろな改善策を考えて、実践していけると期待しているのです。」


社長に続き、専務も発言した。


「秋村さん、もう無理とか言わないでくれよ。本当に我々の会社は秋村さんを必要としてるんだ。もう少しゆっくり休んでもらっても構わない。リフレッシュしてまた一緒に頑張ってくれよ。」


社長と専務にはなんの恨み辛みもないので、私はまたしても反論もできず黙ってしまった。

このまま押し切られそうな雰囲気になってきた。


いや、このまま会社に残ってもおそらく何も変わらないだろう。私が原田の部下である限りは……。

やはり原田の話を聞かなければ。


「社長と専務のお話は理解しました。大変有り難いと思っております。しかし私の今の環境を作っているのは上司の原田課長です。原田さんがどう思われているのかをお聞きしないと私自身納得して結論を出すことはできません。」


「無論、原田君ともよく話し合った上でこの話をしています。この場の話は会社としての総意として受け止めて欲しいのですが……。」


社長の言葉をそのまま鵜呑みにはできなかった私は言葉を続けた。


「それを原田さん自身の口からお聞きしないとどうにも納得できないのです。社長と専務のお言葉を信じない訳ではありませんが、現場に戻れば私と原田さんとの間の問題となる訳ですから。」


私の言葉を聞いて原田はうつむき加減で、すこし上目づかいで私の方を見た。その表情からでは原田が何を思っているのか私には想像ができなかった。

しかし、こんな会議に出席させられているのだから、決して良い気分では無いだろう。

どうしても原田の口から業務環境を改善するということを言わせないと、到底納得することなどできない。

私は原田の言葉を待った。

そしてひとしきりしてからようやく原田が口を開いた。


「秋村、今、会社は過渡期でいろいろ改善していかなくてはならない状況なのは理解してくれていると思う。その過程では理不尽なことも起こるだろうし、多少なりとも無理をお願いすることもあるだろう。そういうことを全てひっくるめて、一緒に会社を盛り上げていって欲しいというのが、我々の総意ということだ。」


「………。」


我々の総意…?。私が聞きたいのはそんなことではない。原田の言葉に、結局いつものようにまた歯痒さだけを感じている。

そんな私を尻目に原田が続けた。


「おまえだってこれからまだまだ覚えることもあるだろう。会社を中途半端な辞め方をしても、お前にとって良い事なんて一つも無いんじゃないか?」



原田と私の会話は、こんな会議の場でもこれまでと変わることは無かったようだ。

これ以上、この男に何を期待すれば良いのか…。

私は開いていたメモ用のノートを静かに閉じて、ペンを置いた。そして大きく深呼吸した。

立ち上がり、深々と社長と専務に頭をさげた。


「ありがとうございます。これまでお世話になりました。」


それだけ言い残して私は会議室を出た。

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