表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/18

電子回路が動かない

作者の経験を元に、エンジニア、会社員の苦労や葛藤を書きたいと思っています。

専門的で分かりづらい部分もあるかもしれません。また、文章が稚拙で読みづらいと思います。

ただ、これからエンジニアを目指す人、エンジニアに興味のある人、エンジニアのことをよく知らない人、そして現在エンジニアの人に読んでいただけたら嬉しく思います。



序章


世間では年末年始の休みだというのに、私はまだ会社で仕事をしている。

明日は大晦日だ。家庭のことは、何もしていないのでおそらく妻は不機嫌なことだろう。

正月の予定も何も考えていない。そういえばゴールデンウィーク、盆休みもこんな状態だったな。いつからこんな仕事人間になったのだろう。いや、仕事人間になったつもりは無いのだが…。

兎に角この仕事を片付けないことには休みどころか今日帰宅できるかも怪しいところだ。


私の名は秋村圭介。年齢は35歳で妻と二人暮らしである。私の勤務する会社はマックワールド電子設計という大げさな名前の小さな会社である。従業員は約100名なので俗に言う中小企業に分類される会社である。

私は受託開発部の主任という肩書きであるが、まあ待遇は平社員と同じである。

私の仕事は主に大手メーカーの産業機器の請負設計で、私はハードウェア、つまり電子回路設計を担当している。つまり俗に言うエンジニアという職業である。エンジニアと言えば格好いいというイメージがあるが、実情は泥臭く残業も多いという好きでなければ務まらない仕事だ。

私も、モノづくりが好きでこの仕事を選んだし、他のエンジニアも同じであろう。ただ格好良さそうであるとか安易な気持ちでこの仕事に就いだものはほとんど二、三年で辞めてゆく現実がある。また、鬱病の人間が多い業種でもある。何故かというと、新しいものを開発する、つまり世の中に無い物を作る上に仕事であるために必ず納期があるため、このプレッシャーは相当なもので多くのエンジニアが精神的にまいってしまうのだ。自分で作った電子回路は、物が出来上がっても、すんなりとは設計通りに動いてくれないことが多い。もちろん設計の段階で慎重に不具合のないように細心の注意を払ってはいるのだか、近年の膨大な集積度の回路を全て確認するのは容易なことではないのだ。設計時の小さなミスは回路基板が出来上がった時にときに大きな不具合となりエンジニアに襲いかかるのである。

私も今、まさにそんな状況なのだ。どうしても設計通りに動作しない箇所があるのだが、原因がわからず既に二週間経過しているのだ。この回路を正常に動かさなければ年末年始の休みも吹き飛んでしまう。休み明けにはクライアントに出荷しなければならないという予定が組まれている。納期を守れなければ、その先の作業は会社の損失となる。請負の開発は納期までの工数分の賃金をクライアントいただくという仕組みになっている。

納期を過ぎてからの作業分の賃金までは普通支払ってくれるクライアントは稀で、会社としてはエンジニアはタダ働きをさせることになってしまう。大幅に納期を過ぎてしまえば当然赤字の仕事となり、エンジニアへの会社の評価も下がる、つまり査定が悪くなり給料に跳ね返ってくるのだ。

エンジニアは、とりあえず現場で仕事をしているときは給料のことなど考える余裕もなく、ただひたすら電子回路と格闘するのだ。

どんなに一生懸命やってもうまくいかないことが多いのがエンジニアの仕事の宿命なのかもしれない。


時間は既に夜の11時を過ぎている。しかし私の回路は正常に動作する気配をみせなかった。

私は今日の作業を諦めて終電で帰宅することにした。




第一章 電子回路が動かない。



次の日、つまり大晦日だか、私は朝の9時に出社した。今日こそ回路を動かさなければ、正月すら休めない状況に追い込まれていた。とりあえず私は直属の上司に状況を報告するため電話をかけることにした。

上司の原田はすぐに電話に出た。

「状況はどうなんだ?」

「はい…まだ不具合の原因がつかめなくて…」

と、ここまで言いかけたところで原田は電話口で怒鳴り声をあげた。

「おまえは休み明けに出荷ということをわかってんのか?!いままで何をやってたんだ??」

「……」

そんなこと言われても困ってしまう。

私も休みを返上してこんなに頑張っているつもりなのだが…。

「て、見込みはどうなんだ?」

「はあ、見込みと言われましても…」

「なんでそんな回路が簡単に動かないんだ?」

それがわかれば問題は解決しているだろう。

私が答えに窮していると原田は立て続けに電話口でまくしたてた。

「とりあえず今日一日頑張ってくれ。正月の三が日は出勤禁止日だから、四日に俺も出社する。その時に状況を報告してくれ。」

「はい、わかりました…」


電話を切って私はしばらく考えた。

はたして四日までにこの回路を動かすことができるのであろうか…。

設計図を何度見直しても、悪い箇所はなさそうである。それなのに仕様通りに動いてくれない…。ほかに調べるところがあるのではないだろうか。

私はこれまでの作業をすべて見直し、今日の作業プランを立てた。

回路基板そのものではなく、元々の仕様に問題があるのではないだろうか。

ちなみに元々の仕様はクライアントとうちの会社の営業担当と上司の原田課長が決めたものだ。もしかしたら、その時点で問題があったのかもしれない。私に手渡された仕様書も、クライアントと原田課長が作成したものだそうだ。

今までは信じて疑いもしなかったところではあるが、今日はこの部分を集中的に調べてみることにした。

私の設計した回路基板はその前段にある基板から制御信号とデータ信号を受け取って動作する。相手基板との信号のやり取りが仕様書通りでなければ当然、正常には動作しないのだ。

しかし、これらの信号を調査するのは、かなりの労力が必要だ。専用の測定器を使って、おそらく今日一日の作業はこれだけで終わってしまうだろう。

もし不具合が見つからなければまた課長にこっぴどく文句を言われるであろうことは目に見えている。一日何をやってたのだ?と必ず言われるだろう。でも、もう他に調べるところがないのだ。

やるしかない!

そう思って私はおもむろに作業にとりかかった。


結局今日ももう夜九時を過ぎてしまった。

このままでは除夜の鐘を職場で聞くことになるな…と思ったときに私は測定器を見ておかしなことに気がついた。

ん?

私は測定器の画面を今一度よく見直した。

相手基板からの制御信号とデータ信号が私がもらっている仕様書とは違うではないか。

これではまともに動くわけがない。

でも、前回のクライアントと課長との作業進捗を確認するためのミーティングで、私が仕様の確認をお願いしたら、仕様には不備がないことは確認済みだということで、私はかなり責められたのだが…。

そのとき原田はこう言ったのだ。

「自分のミスで動かないものを仕様のせいにするな!」


こんなことがあったからこれまで仕様書に関しては疑わず、(いや、疑うことを許されずと言った方が的確だろう。)これまで作業してきたのに…。


私はそれを思い出し、少々腹がたったのだが、まあ原因さえ解ればそんなことはどうでもいい。

早く今の状況から逃れたい。


とりあえず年明けの四日には原田課長に報告できるネタができたと少しばかり安堵して、私は年内の作業を終えて帰宅することにした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ