藤色の中で
シリーズ化する話で、下坂芽衣という女の子の独白に似た文章です。これからぼんやりと女子校の百合が書けたらなと思います。
いつ、私はあなたを好きになったのかはもう覚えてない。
私はとにかくあなたが好きで、いつも、あなたの事しか考えていないのです。
日に焼けて黒くなった肌も、その日に焼けた肌にできたそばかすも、男の子のように短い髪も、スラリとし長い筋肉質な手足も、男の子の平均よりも少し高い身長も、困ったように、でも照れくさそうに笑うその顔が、私は好き。
けれども私は女の子。そしてあなたも女の子。
同性なのです。
まして、あなたは所謂“ノンケ”というもので、異性愛者。私は女性ではあなただけが好きなだけあって、レズビアン、同性愛者ではないのです。きっと。
そして、あなたへのこの思いは未だにわからないのです。これが愛なのか、それとも友情なのか。
わかっていないのです。
さて、これから私と彼女について少し紹介しましょうか。
私は下坂芽衣。藤永女子学校高等部に通う2年生。
身長は女子の平均くらいでしょうね。色が白いことが少し自慢で、よく他人からは眠そうな顔だねと言われる私です。
さておき。この藤永学校というものは、女子校で中等部と高等部が存在する学校であり、高校受験というものはありません。
そして学校名にあるとおり、この学校には様々な種類の藤が咲いていて、とても綺麗な薄紫の藤の花が見ることができます。
まあ、女子高ということもあり、その藤の中で愛を睦み合う女生徒は少なくありません。その姿を藤がそっと隠してくれますからね。
他にもルピナス、所謂昇り藤といったものがあるけれども、この学校の花の話はこれくらいで。
彼女との出会いはもう小学校入学する前、この女子校に通う前からの付き合いで、世間ではこれを幼馴染と言うのでしょう。
もう10年くらいの仲でしょうか。
彼女の名前は上嶋悠希。同じ学校に通う私の幼馴染であり、クラスメイトです。
ぼんやりとこのお話で冒頭で想いを吐露したように、彼女はバスケットボール部なのですが日に焼けて浅黒い肌に、鼻の頭と頬にそばかす、そして髪はベリーショート、身長はおそらく170cm後半で男子平均より少し高いくらいでしょうか。傍から見たら男の子に見える女の子です。
こんな男女と、よく言われる彼女ですが、彼女はとても女の子らしいものが好きで、少女趣味と言われるようなものが好きな女の子でした。
それでもその趣味をさらけ出せず、ひた隠しにします。自分の容姿、性格では他人に笑われる、と彼女は思っているのです。
そんな悩みさえも愛おしいと思う私はもうよくわかりません。
彼女へのこういった思いに気づいたのは中学2年生の頃でした。
私は今まで男の子を好きになったことはなく、いつも傍らの彼女がいればいいと思ってました。
彼女さえいれば、男の子はいらない。女の子のお友達も好きだけれども、彼女はそんなお友達の中でも一等に好きで、特別な存在でした。
しかし一方、彼女は昔からボーイッシュ、男の子に混じって遊ぶような女の子で、生傷耐えない女の子でしたが、私とは違ってちゃんと男の子に恋をしていたのです。
それが実ったのかは私にはわかりませんが。
中学生になって私たちはこの藤永学校に入学します。勿論、この学校は女子校。男子は一人もいません。いるとしたら教諭、そう先生しかいないのです。
ですが、彼女は近くの学校、共学に通うとある男の子に恋をしました。
学校は違えど、彼女はバスケットボール部。どこかの公園でバスケをするのでしょう。
そこで知り合った同じバスケ部の男の子に恋をしたのでした。
嬉しそうに彼への想いを私に話す彼女。
私はこの時嫉妬にも似たどす黒い感情を初めて抱いたのです。
私の知らない男の子の話をする彼女。私には見せたことのない、恋をしている顔を見せつけられて、私はこの時初めて、彼女が好きなのだと気づいたのです。
それから、その思いを彼女は彼に告げたのです。
彼女の一世一代の告白の次の日、私が結果を聞いたところ見事に玉砕。
振られたその日、わんわんと泣いて夜を明かしたのでしょう。瞼を腫れ上がらせ、そして私への報告のときにも彼女はぼろぼろと涙を流しながら話していたのを覚えています。
そのときの彼女の言葉を今でもよく覚えています。
「芽衣、あのね、わたし」
「うん」
「ひっく…好きだった男子に、俺と同じくらいの男女なんてぜってー好きになれない、無理って言われて振られたんだ…」
「…うん」
「私も芽衣みたいに小さくてっ、色白で、ふ、わふわで、ピ、ピンク色がっ…ひっく、よく、似合う女の子になりたかった…っく」
「…私は今の悠希がとても大好きよ。悠希がかわいいもの好きだっていいじゃない、ピンクが好きだっていいじゃない」
「ぐすっ…、で、でもわたしは似合わないもん」
「男の子の言葉なんて無視すればいいよ」
「うん…ひっく。私には芽衣がいるもんね。芽衣は私の理想、私のお姫様だよ」
「…ありがとう、だったら、悠希は私の王子様でいてね、ずっと」
「…うんっ」
涙でぐしょぐしょになった顔を笑顔にし、私に彼女はこう言ったのでした。
それから私は彼女の願望を、理想を、私で叶えるのです。
それがとても心地よく、私は彼女の理想で有り続けようと思うようになりました。
しかし、未だに彼女にとって私は“幼馴染”、もしくは“親友”なのです。
彼女は私を永遠に“恋人”と思う日はないのです。
とても虚しいものですが、仕方ありません。彼女は同性愛者ではないのですから。
私のことを“親友”以上に思うことはないでしょう。
ですが、彼女が振られたことを悲しむ反面、安堵した自分もいるのです。
彼女が男の子に恋をするだなんて、私が知らない人を好きになるなんて。
とても嫉妬したことを今でも覚えています。
彼女に悟られぬよう、ひた隠しにして。
彼女は異性愛者。彼女はいつか私から離れて、私と知らない男と結婚し、子供を授かり、家庭を作るでしょう。
私もいつか男性に恋をし、子供を授かるのでしょうか。想像できません。
これから私が綴るのは、私と彼女の学校生活、それから何人かの友達との女子校生活。
百合ではなく藤の花が咲き乱れるこの学校で、私は彼女への想いを募らせるのです。