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【第5話】来訪者(1)

 勾配の激しい山道を進む、一つの集団。


「はぁ……、しんどい…。………ご厚意で国境を越える前に宿泊させてもらえるのは嬉しいです、…けど! ちょっと遠すぎやしませんかっ!? ねえ、小隊長!?」

「…口を慎め。もうすぐ村の入口だ」


 喚く部下の一人をなだめる、十数人の隊員を率いる小隊長__香月(かげつ)千蔭(ちかげ)は、下り坂の先に民家が点々と見える辺りにその視線を落とす。

 そこには既に数人の人影が見え、部下に注意を促しつつ、自身も戦闘の疲労が残るその身を引き締めなおした。






朔望(さくぼう)の皆さま。ようこそ、おいでくださいました」


 目的地である村の入口に着くと、長老と見られる腰の曲がった老人と数人の男女が出迎えた。


「急な申し出に応えてくださり、感謝いたします。私が小隊長の香月千蔭です」

「お会いできて光栄です。私がこの村の村長です。このたびは、赤烏(せきう)軍と合同での戦闘、お疲れ様でございました。…何もない村ですが、どうぞごゆっくり過ごされてください」

 

 柔らかい言葉の裏で、品定めをするような村長の鋭い視線を感じた千蔭は身を引き締める。

 この村が属する赤烏国との同盟国から来た者だからといって、余所者を心から受け入れようとしているわけではないようだ。


「…さて、宿にご案内しましょう。すでに準備は整っております」

「お気遣い感謝いたします」


 村長の案内のもと、千蔭とその部下、十数名は用意された宿へと歩を進める。


「……と、それにしても珍しく随分とお若い小隊長様ですな。さぞ実力をお持ちの方とお見受けします」

「いえ。まだまだ未熟者で…」

「そうなんです! 小隊長はすごいんですよ!! 今回の戦闘だって、次々と現れる敵に物ともせず立ち向かってですね…」


井丸(いまる)…)


 言葉を遮ってきた部下の一人に、千蔭は心の中で睨みをきかせる。

 彼__井丸はどうも千蔭を過剰に慕っている節があるようで、こうなるとその口は止まらない。

 そんなことはないだろうと思いたいが、いまだ青臭さのある彼がどこかで口を滑らせて軍の機密事項を漏らしてしまうのではないかと若干の緊張感を覚える。




 対邪霊特殊部隊。

 これが表向きには朔望(さくぼう)陸軍一般部隊所属とされる千蔭たちが、実際に所属する組織の名だ。

 この世に存在する神々は永遠ともされる命を持つとされるが、何らかの事情で命を落とし、亡骸を現世に残してゆくことがある。特に、信仰や力の弱い神々によく起こることで、それ自体に大きな問題はない。

 しかし、その亡骸に人間の怨念が宿ると、“邪霊”と呼ばれる、神々の残滓を源に人間を害なす存在へと変貌する。

 これら邪霊への対処にあたる部隊が、対邪霊特殊部隊である。

 邪霊とはいえ、元神にまつわる案件を請け負うという特殊性から、公には知れ渡っていない組織なのだ。




 村長は、井丸の話を微笑んで聞いている。

 しかし、まだ信頼しきれないこの相手に対して、井丸が余計なことを言わないうちに話を変えなくては。


「そういえば、この村の梅は咲くのが早いようで…とても美しいですね」


 何でもよいので話を変えようとし、ここまで歩く中で何度も見かけた梅の木についての話をふった。

 まだ年明けてすぐだというのに見事に咲き誇っている木ばかりで、話を変えるという目的もありながら、純粋に尋ねてみたいという気持ちがあった。


 その言葉にやっと井丸も口を止めて、近くに咲く梅の木に視線を移す。

 井丸にはあとで説教だな、などと考えながら返答を待っていると、村長は意外なことを聞かれた、とでもいうように目を2,3回瞬かせた後、口元をゆっくりと引き上げていく。


「ほっほっほ、……えぇ、この村では梅を大切にする習わしがありましてね」


 梅の木を見つめる村長。

 どこか虚ろで、まるで何かを妄信しているような、そんな得体のしれない気味悪さを感じさせるその瞳に、思わず肌が粟立つのを感じる。


「__きっとこの村の梅の木は、私たち村人の思いに応えて、美しい姿を長く見せようとしているのでしょうね…。ふふっ、ほっほっ…。あぁ、ありがたいことですなぁ……」

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