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【第13話】炎纏う鹿の霊

 炎の広がり方は異様なものだった。

 強風が吹き荒れるわけでもないのに、火の進む速度が尋常ではない。


 その異様さを纏う火の中心から感じる気配。

 __そこには炎を率いて天を駆ける邪霊(じゃれい)の姿があった。


「小隊長! 急にいなくなったから吃驚しましたよ!」


 宿と村の中心部を結ぶ通り。

 そこまで戻った千蔭(ちかげ)のもとへ、頬に煤をつけた井丸(いまる)が駆け寄ってくる。

 村の中心地から外れたこの辺りはまだ火の手は回っていないが、あちこちから逃げ惑う村人の悲鳴や鳴き声が聞こえ、まるで地獄絵図だ。民家から民家へと移り行く炎は、その速度を緩めることはなく、村人たちを追い立てる。邪霊が見えていない彼らにとって、異常な速度で拡大する炎は対処不可能な恐怖以外の何物でもない。

 

「状況は」

「ご覧の通り、邪霊による出火です。現在、隊員の半数が邪霊との交戦に、残りは各方面から村人の救出・避難誘導に当たっています。村と連携を図るために村長を探しているのですが、中心付近では見つからず、小隊のみで動いている状態です」


 ここに来るまで、村長の姿は見ていない。被害を最小限に抑えるため、逃げ遅れがないようにするために、村全体の情報や連絡手段を確認したいところだが、村の中心に位置する集会所も炎に包まれた今、それは叶わないだろう。

 だとしたら、一刻も早く邪霊を討伐して火災の範囲をくい止め、救助活動に早急に移るのみ。

 

「私たちも邪霊の対処へ向かうぞ」

「はい!」


 炎の核に迫るにつれ、邪霊の姿かたちがはっきりとしてきた。

 真紅の肢体に、天を貫くような堂々たる角。その境界からとめどなく火焔が溢れ出ている。

 害を与える邪霊特有の空気が澱むような気配がある。この村に来たときには感じれられなかったものだ。

 つまり、村に潜んでいたわけではない、急に発生した邪霊。

 千蔭は冷静な頭で分析をしつつ、巨大な炎を纏う邪霊に近づけず周囲に散っていた隊員へ声を張って指示を出す。


「総員、邪霊の西側へ布陣!」


 千蔭は民家の屋根に飛びのり、刀を抜く。

 炎塊へ向かって飛ばされた一太刀は、熱を、そしてその先にいる邪霊を切り裂いた。

 地響きのような咆哮を上げた邪霊はその身を巨大な炎の渦から引きはがし、地面へ降りたって逃走を図る。


「囲みこめ!!」


 邪霊の逃げ込んだ先には、井丸を含む隊員たちが待ち構えていた。

 包囲されて逃げ道を失った邪霊は再び熱を帯び始め、炎を纏った身体で直接攻撃をしかけてくる。

 しかし、もはや先ほどの火力は出せない様子だ。


「小隊長っ!!」


 足止めをする隊員に集中する邪霊の背後へ追い付いた千蔭が、走る勢いをのせてその体躯に刀を下ろした。

 直接斬撃を受けた邪霊はその肢体を崩し、切り裂かれた体躯からは黒い霧が溢れ出ていく。徐々に崩壊するその身体は、霧となって暗闇へと紛れ、最後には完全に消滅した。

 

 しかし、邪霊が消えても依然、村を焼き尽くす火は消えずに残っている。


「邪霊の消滅を確認した! これより、避難・救護活動にあたる!」


 火災の規模と隊員の数から考えて、消火よりも逃げ遅れた村人の救出が最優先だ。

 各隊員は割り振られた役割のもと、それぞれ駆け出していく。


「井丸」

「はい!」

「お前は風下の南の方角へ行って、全体の__」


「う、うあぁぁっっ………!!!」


 突如、近くから高い叫び声が聞こえて話を止める。

 その声がする方向へ向けた視線が捉えたのは、小さな民家だった。

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