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【第10話】出会い(2)

 彼は怪訝な顔をしながらも、梅雪(みゆき)のあとをついてきた。

 なぜ、去ろうとした青年を咄嗟に呼び止めてしまったのか。梅雪はそんな後悔を抱えながら、虫の鳴き声と葉と葉の触れ合う音しか聞こえない暗い森の中を、二人でひたすら無言で進んでいく。


 びゅうっ、と強い風が頬を打ち付けた後、その沈黙を破ったのは青年の低く短い声だった。


「その」


 歯切れの悪い、戸惑いを感じさせる声。


「すみません、目的地はもうすぐそこです。神社の者に見つからない場所がよいと思って……」

「いや、そうではなく」


 ちらりと梅雪の羽織の下に見える水を含んだ重々しい衣を捉えた青年が言う。


「…そのままでは、風邪をひいてしまう」


 その発言に目を少しばかり見開いた梅雪は、青年の先を進んでいた歩を止めた。


「……お気になさらないでください。もしそうなってしまったとしても、問題はないので」


 病にかかり、苦しむことはあれど、常人より回復は早い。

 これも、梅雪がもつ一般の人間とは異なる性質のひとつだった。

 それに、明日に病を引きずったとしても、参拝者の前で苦悶の表情など見せることはない。そんなことはこれまでの経験で慣れたことで、梅雪には“我慢”にも当たらないようなことだった。

 梅雪に近しい人間だってそれを知っているから、彼女の体調を気遣う言葉をかけることなどない。

 それに、彼らを含む村人にとって神は全能であり、常に落ち着き払った姿を見せる完璧な存在でなければならなかった。


 そんな境遇にいたため、自分を案じる言葉を秋人(あきひと)以外の人間から聞くことは久方ぶりだった。

 動揺を抑え、すぐに平静を取り戻して再度先へ進もうとする。

 そのとき、肩に柔らかい重みがかかり、背から温かさを感じた。


「そんなふうに自分を無碍にするのは良くない。君が問題ないとしても、私は気にするんだ」


 青年が、自らの外套をを梅雪にかけてくれたのだ。


「え…あの、これは……」

「いいから、かけておいてくれ。……目的地というのは、あの洞窟なのか?」


 戸惑いつつも青年の視線の先を捉えると、森の開けた先にある秘密の場所は、すでに目視できる距離にあった。

 頷く梅雪に対して、これまで後ろを歩いていた青年は、一人分の間を開けながらも今度は梅雪と並ぶようにして歩き出す。

 人の温もりに包まれる慣れない感覚によるぎこちなさが拭われる間もなく、目的の場所まで辿り着いた。




「それで、こんなところで何を__っ!?」




 少女の手は、迷うことなく青年の首筋へと伸ばされた。


 ぱしっ、という音とともに、反射的にそれを強く打ち払った青年は、その衝撃で地面へと身を打ち付けて倒れ込んだ少女に眉をしかめ、素早く臨戦態勢をとる。


「動くな」


 ゆっくりと身を起こす少女に向けられたのは、鈍く光る刃だった。

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