【第0話】序幕
雪のように透き通った肌。
鮮やかな赤い着物。
結い上げられた艶やかな黒髪に、川のように波打つ水引に散りばめられた梅飾り。
紅に囲われ、すべてを見通すかのように澄んだ瞳。
__そこに映るのは、息を忘れて横たわる男。
炎が爆ぜ、森を浸食している音が、だんだんと近づいてくる。
もうじきこの建物も、一瞬のうちに熱に飲み込まれるだろう。
それでも、少女は動かなかった。
迫る暑さと息苦しさ、身体の痛みに顔を歪めることもなかった。
ただただ、淡々と男に向き合い、その身に宿るすべての力を注がんとしていた。
火の粉が散るような不規則な音の大きさが増す。
それは少女の命を狙わんとする炎が、建物へ到達したことを示していた。
少女は瞳を閉じる。
(…やっと、この役目から解放される)
最後まで、村のために尽くした。
そう語り継がれるであろう自分の未来を想像しながら、少女は美しく微笑んだ。
「__…き! 梅雪!!」
ぼうっとする少女の意識の中に、力強い声が流れ込んでくる。
そんなわけはない。少女はゆっくりと瞳を開けて、誰もいない建物の入口に視線をやる。
(この村に、私の身を案じる人など、いるわけが__)
「梅雪!!」
バンッという衝撃とともに破られ崩れた扉の先に、一人の青年の姿が現れる。
「…千蔭さん?」
その姿に驚いた気配を見せつつも、依然淡々とした表情の少女は言う。
「ここは危ないですよ」
むせかえるような熱の中、眉を寄せて震える青年が目にしたのは、まるで女神のように落ち着き払った__。
人間であることを捨てた少女の姿だった。




