素敵な隣猫、黒猫のミイコ
ミイコは本当に不思議な猫だと思う。
我が家の飼い猫ではなくて、私の住む集落の端っこの家で暮らしている猫だ。その方の畑を通って50メートルも真西に進むと私の実家の真ん前にたどり着く。
別に近くもない……はずなのだが、ミイコはなぜか我が家の庭にはよく来る。黒猫でかつ長毛種。なかなか珍しい気がする。体格が結構いいところをみると海外の血が強いのか。でも歩くところはなんというか、しゃなりしゃなりという感じで美しく、気品がある。雪が降ったりするとミイコの足跡は他の猫と違って左右にヨレることなく真っすぐに残っていて、それがまた不思議だった。
ミイコはまた人間を好む猫でもある。
私なんかミイコがこの村で暮らし始めてから2年も後に介護を理由に戻ってきたのだ。なのに初めてミイコと会ったとき、ミイコは親しげなウィスパーボイスで、ミャ、と囁くように鳴いて見せた。オノレは人たらしか。私も精一杯のコミュニケーションとして、膝をかがめ敵でないことの証として、目をゆっくり閉じた。目を開いたときミイコは、私を眺めながらくるん、と尻尾を振って自分の家に帰っていった。
ミイコがうちに来る理由はよくわからない。天気が良くて、風がなるべくない日。わざわざうちに来てブロック塀の上で寝ていたり、寒くなれば寝る場所は一番日当たりの良い物干し台の上になったりする。
いつ来たってメシも何も出さねーよ?とミイコに声をかけるがミイコは聞いているのかいないのかもわからない。夏に死にかけたアメリカハナフヨウに水をやっている時も、深刻な柿の落葉病で私がブチキレながら落葉を集めて感染源を焼却処分している時も、若いキンモクセイの木が満開に花をつけ、私がひとりで嬉しがってキンモクセイの匂いを堪能しているときも、ミイコは私の行き来しない場所を選んで寝転び、私をただ見ている。
俺の何が面白いかよくわかんねーな?と言ってミイコに答えを求めるとまた聞こえるか聞こえないかの声で、ミャ、と囁いた。
今日もミイコはうちに来る。私とミイコは、お互いに何かをするわけでもなくただ互いにそこにいる。玉ねぎ苗の準備をする私に、手伝ってくれやミイコもよぉ。と八つ当たりされると、相変わらず感情の読めない目で私を一瞥し、聞こえるか聞こえないかの声で、ミャ。と鳴いた。
本当に不思議な、猫との話。敵対でもなく友好でもないこの関係を、文章で書けるか気になって書いた実験作。




