最終話(1):図書館
図書館で借りた天文学の本に、黒い図が描かれていた。
平らな布を想像し、その上に重い球を置く。
布はたわみ、周囲の小さな球はそこに引き寄せられていく――。
それを「重力井戸」と呼ぶらしい。
主人公はしばらくページを見つめ、息を呑んだ。
「落ちているのは、物ではなく空間そのもの……」
もし空間が井戸のように沈んでいるのなら、
その底に向かって落ちているのは物質だけではない。
時間さえも、井戸の形に従って流れを変えるだろう。
ノートを広げ、鉛筆を走らせる。
線を引いて、井戸の形を描く。
そこに「時」と書き込んだ。
「時間は、均一に流れてなんかいない。
深いところでは遅れ、浅いところでは速い。
僕らは同じ時計を持っていても、同じ速さで生きているとは限らない。」
鉛筆を置いた瞬間、背筋が寒くなった。
もし自分が深い井戸の底にいるのだとしたら――
そこから抜け出すことはできるのだろうか?
思い返せば、昼の光も夜の星も、すべては落ち続けているように見える。
それは単なる比喩ではなく、世界そのものの姿なのかもしれない。
主人公は窓の外を見た。
夕暮れの空に一番星が瞬いている。
あの星の光もまた、無数の井戸をかすめ、歪みながらここまで届いたのだ。
「ぼくたちは時間の井戸の中で、生きている。」
そうつぶやいたとき、
(自分で考えること)