第4話:「楕円の軌道」
昼休みの校庭で、ふとボールが空を切った。
放物線を描いて飛んでいき、地面に落ちる。
ただそれだけの光景に、主人公は目を離せなくなった。
教科書にはこう書いてあった。
「地球の引力に従えば、物体は円運動するか、放物線を描いて落ちる」
だが、じっと見ているとどうしても違和感が拭えなかった。
ボールの軌道は、円でも放物線でもない。
何か、もっと複雑な曲線に見える。
「(自分で考えること)」
その言葉が頭に浮かんだ瞬間、胸の奥がざわついた。
夜、自分の部屋でノートを広げる。
太陽の周りをまわる惑星の軌道は、円ではなく楕円だとケプラーは言った。
円は完全だ。
けれど、現実は少しずつずれている。
「完全さは幻だ。
引力に従う運動は、歪みを含む。時間でさえ」
主人公はそう書きつけて、しばらくペンを握ったまま固まった。
自分がいま見つめているものは、もはや単なるボールの軌道ではない。
楕円によるずれ――そのわずかな歪みこそ、世界の理を暴く手がかりかもしれない。
だが同時に思う。
この歪みは、どこまで行ってもなくならないのではないか。
宇宙の果てに近づいても、真の円に到達することはないのではないか。
その考えに行き着いたとき、ぞっとした。
「終わりのない歪み」――それこそが、この世界の姿なのかもしれなかった。