第3話:奇妙な感覚
もしかしたら主人公の僻みかもしれない
奇妙な感覚が続いた。
友人と並んで歩いていると、ふと自分の一歩が妙に早すぎるように感じる。
けれど歩幅は変えていない。
ただ、友人の歩調とずれるのだ。
「おまえ、今日はせっかちだな」
そう言われて、主人公は苦笑した。
急いでいるつもりはない。ただ、世界が少しだけ速く進んでいる――そんな気がした。
別の日には、会話のテンポが乱れた。
言葉を投げかけられてから、返事をするまでの間がどうにも合わない。
自分だけが遅れているのか、相手だけが速くなっているのか。
どちらにしても、歯車が噛み合わないような違和感が残った。
夢の中では、その感覚はさらに鮮明になった。
朝から夜へ、そしてまた朝へ。
時間は押し流すというより、落下に加速がついていくように、矢継ぎ早に場面を切り替えていった。
夢の中の自分は、それを止められなかった。
目が覚めると、主人公の頭には一つの仮説が浮かんでいた。
「相対性理論……速く動く者にとって、時間は遅れる。
もしそうなら、時間の落下速度も、人によって違うんじゃないか?」
落下は普遍であるはずなのに、観測する立場によってその速さは変わるかもしれない。
自分の時間と他人の時間は、完全には重なっていないのかもしれない。
その夜、ノートには新しい一文が刻まれた。
「時間の落下は、観測者ごとに歪む。」
文字を見つめると、またあのぞくりとした感覚が背を走った。