第2話:「測れない落下」
時間が落ちているのなら、その速度はどれほどだろう。
そう考えた瞬間から、主人公は奇妙な実験を思いついた。
机の上に、二つの目覚まし時計を並べる。
そして一方を秒単位まで正確に合わせ、もう一方は少しだけ進めておく。
「落下しているのなら、どちらかが先に底へ着くんじゃないか?」
子どものいたずらのような発想だった。
だが、結果は当たり前すぎるほど当たり前だった。
両方の時計は、同じように針を動かし続ける。
落下の差など、どこにも見えない。
それでも主人公はしばらく時計をにらみ続けた。
「もし、ぼく自身も同じ落下の中にいるとしたら?」
その考えが頭に浮かんだ瞬間、背筋がぞくりとした。
測定者が、測ろうとする対象と同じ運動をしている。
川に流されながら「水の速度」を測ることができないのと同じだ。
観測者が水の外にいない限り、ただ一緒に流されるしかない。
時間もまたそうなのだろう。
ぼくは、時計も、世界そのものも、同じ落下の内部にいる。
だからこそ、その速度を測ることなどできないのだ。
その夜、主人公は「時間の落下は測れない――
なぜなら観測者も落ちているからだ。」とノートに一行だけ書き残した。
書き終えた瞬間、不思議な安堵が胸に広がった。
(この後の展開を自分で考えること)