見えない
朝起きると、隣に血の気が無い女が寝ていた。
「くそっ」
俺はのろのろと起き上がる。
部屋の隅には若い男がゆらゆら浮いていた。
「ちっ」
バスルームの鏡で、自分の顔をじっと見る。
「酷いな、頬がげっそりだ。何か食えよ」
浴槽ではジジイがうずくまり、何かぶつぶつ言っている。
「どいつもこいつも馬鹿にしやがって」
冷蔵庫を開けて缶ビールを取り出すと、一気に飲み干した。
ベッドで寝ている女を押しのけて座り、ウイスキーを呷る。
若い男がそばに寄ってきた。
いつの間にか、ジジイも部屋を覗き込んでいる。
女が背中をなぜるように触ってきた。
「畜生、俺がアル中だと馬鹿にしやがって。手前らなんかな……」
ウイスキーをぐいっと胃に流し込む。
「こうすれば消えるんだよ」
――あの部屋に新しく入った人、出て行きませんね。
――だいたい三日もせずに引っ越すんだけどな。
――出ないんですかね?
――まあ、ありがたい事だよ。随分死んでるからね、あの部屋。
――そうですよね。睡眠薬自殺の女、受験ノイローゼの首吊り、風呂では老人の孤独死。
「くそっ、くそっ、今日はなかなか消えやがらねえ」