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高校に入学して一ヶ月。街が変わっても、私を取り巻く環境は変わらなかった。相変わらず可愛いと言われ、敵のいない生活だった。それにこの街は何もなくて退屈で仕方なかったけど、自転車を数分走らせたら海が目の前に広がるのが唯一の前の街に勝るところだった。人生で初めて見る海にどこか懐かしさを感じて、私は暇さえあれば海に行って防波堤に座って無心になった。誰にも邪魔されず、ただ時がゆったりと流れていくのがたまらなく好きだった。
「お前、見ない顔やなあ。誰たい?」
少し色の抜けた茶髪が切れ長の目にほんの少しかかっている。白い肌と右手首の袖からちらつく花びらのようなタトゥーがよりコントラストを鮮明にさせる。彼のだらしなく着ている服が私と同じ高校の制服だと気がついたのは、彼が二言目を発したときだった。
「何黙ってみてるん?言葉、わからんの?」
棘のある彼の言葉と口調にイラッとした。それでも彼は変わらず防波堤に座る私をまっすぐ見上げる。
「あなたこそ、誰ですか。」
「俺のこと知らんと?お前旅行に来たやつか?」
「最近引っ越してきたんです。」
「だったら納得や。じゃあ教えちゃるけど、夜にここに来たらいかんとばい。きいつけや」
そう言うと彼は来た道を戻っていった。私はハッとして精一杯の声で叫んだ。
「ねえ!なんで!」
「俺がおるからや!」
私の声で振り向いた彼は笑顔でそう言った。そのまま小さくなっていく彼の背中からなんだか目が離せなくて、心臓のあたりが騒がしくなった。
その日は夜ご飯を残した。