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翌日、ついに家に帰る日がきてしまった。朝食を済ませ、10時にチェックアウト。
明日から仕事が始まるというのは憂鬱極まりないが、まだ今日の午後は帰って家でゆっくりできる。
荷物を積み、車に乗り込み、村から出て山道を少し下ったあたりで電信柱が倒れていて、通れない状態となっていた。
「戻ってどかしてもらわなきゃ帰るの無理くさいな」
「昨日の夜にでも地震かなにかあったのかな」
上に戻らないとどかしてもらうための連絡もできない。
スマホの電波も入らないし、俺たちに得られる情報は現状無い。
狭い道をなんとかUターンし、宿へと来た道を戻った。
「すいませ~ん、道が電信柱で通れなくなってて」
「どのあたり?」
「少し、5分くらい下ったところです」
「わかりました、下の消防に伝えてどかしてもらいましょう」
宿のおじさんが固定電話で連絡してくれている。
「今日中に帰れるんかな?」
「まあわかんねぇな」
最悪、夜までに帰ることができればよいという感じになってしまった。
「お昼すぎくらいまでにはどかすって。終わったら連絡いれるってさ」
「わかりました」
「そうだ、せっかくだからお昼も食べていってください。今日は特別なものが食べられる日なので、体育館の方へ行ってみては?」
勧められるがままに体育館の方へと向かうと、催事用のテントが出ていて、そこからは炭を焼くいい匂いがしてくる。鉄板もあるし、バーベキューでもするのだろうか?
近くには智也と慎太郎の姿もあった。
「あ、兄ちゃん達。今日は年に一回のもみじが食べられる~」
(もみじ、ねぇ? 紅葉おろしのことでもなさそうだし、他に何か郷土のものでもあるのかな?)
「おっちゃん、今日のもみじはどんな感じ?」
「おう、これだよ」
慎太郎が野菜をまな板で刻んでいたおじさんに聞く。
横に置いてあったクーラーボックスにドライアイスと一緒に入っていたのは、食料が入ってるには大仰な木の箱だ。
箱の木蓋がパカっと村人のおじさんによって開けられた。
(・・・・・・なんだ、これ?)
中から出てきたのは、どうみても人間の左手だった。
おじさんは、それがさも普通の食料だと言わんばかりに箱から取り出して、まな板に載せて指の間接の部分に包丁を当てて切断し始めた。
「・・・・・・」
横の瑠璃の顔を見ると青ざめた顔をしている。今にも倒れそうだ。
正直、俺も自分の目の前の光景を信じることができないでいる。
「おじさん、コレを食べるんですか?」
「もちろんだとも。今日しか食べられないごちそうだよ?」
口がカラカラに乾き、ついに俺は何も言えなくなっていた。
「兄ちゃん達んとこではもみじ食べないの?」
「え、ああ、うん。食べないけども」
「うまいのにもったいねーな~」
村の子供たちも当然食べるものだと疑っていないようだ。
「イヤ、これを食べるのはおかしいでしょ。普通に考えて」
当然のことを瑠璃が声に出してしまった。
「なんでぇ姉ちゃん、俺たちがおかしいってか?」
「おかしいでしょ。こんなもの共食いじゃん。アタシたちは食べません」
これをどこから入手したとかではない。こんなものを食べることに意義を申し立てた。
「ハロー、どうしました? あれ? お2人はまだお休みですか? 今日帰るって言ってたのに」
いつの間にか蘭が後ろにいた。
「ちょっと蘭ちゃん、この人達、せっかくもみじが食べられるってのに、こんなものとかいうんだぜ」
「あはは、へんな人達ですね」
俺たちがおかしい扱いだ。
ジュウジュウと焼かれていく指。
「ほれ、焼き立て」
鉄板でウインナーのように焼かれて焼き目のついた指を紙皿に乗せて瑠璃に渡してくる。
瑠璃は指の入った器を手で払ってしまった。
「そこまですることはねぇんじゃねーか? 食べ物を、しかも年に1度しか食べられないごちそうを無下にするなんて許さんぞ」
おじさんは明らかに怒っている。今にも掴みかかられそうな剣幕だ。
「これは何が起きているのですか?」
「ああ、村長。この旅行客がせっかく昼食をごちそうしてやろうというのに拒否するんですよ」
「そうなのか? お客人よ、なぜ食べないんだい?」
「共食いはしてはいけないってあたりまえでしょ!?」
瑠璃も当然の意見をぶつける。




