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そうして蘭と別れて宿へと戻った。
夕食はビーフカレーだった。オニオンスープにポテトサラダ付き。
「いやぁ、いっぱい歩いて足がパンパンだわ」
「そりゃそうだよねぇ。工場勤めの社会人は基本運動しないもんねぇ」
座り仕事が多く、運動不足ぎみの俺とは対照的に、少し前まで部活をしていた妹はなんともないようだ。
露天風呂で汗を流し、そのまま布団へと潜ると、気が付いたら翌朝だった。
朝食はトーストに瓶詰のジャムが4種類ほど。全部手作りジャムだそうだ。
ベリーのジャムがとても美味しく、トーストを3枚もおかわりした。
「とくにやることもないんだよな」
「昨日行った資料館と体育館でも見に行く?」
「そうするか」
朝から露天風呂に一回浸かって、そして2人で資料館と体育館へと向かった。
両方とも宿から徒歩で10分ほどのところにある。まずは資料館だ。
「なになに? この村、真流戸は木炭の製造で栄えた村です、だって」
「へー、そんでこれが作るための炭窯ってやつか」
子供の頃はまるで興味を持たなかったものだが、大人になると思ったより興味をそそられる。
小一時間ほどかけて資料館を見て、いったん宿で昼食を済ませてから、次はまたすぐ近くの体育館へ。
昨日、蘭に紹介された公民館兼体育館。
昨日は閉館時間だったので入れなかったが、13時というこの時間ならば開いていた。
一応、入口の部屋には女性がいたのだが、テレビに集中していたので声を掛けなかった。
『入退館は自由です。体育館はみんなのものです、ケンカしないできれいに使いましょう』
わざわざ声を掛けなかった理由はこの張り紙で、自由に使うことができるらしい。
中はとても広く、バレーボールコート2面くらいの広さはある。
小中学生だろうか? 2人の男の子がネットを張ってバドミントンをしていた。
目の前に飛んできた、鋭い弾道だが大幅にアウト気味のシャトルを瑠璃が素手でキャッチする。
「よっと。こんにちは、ここって勝手に好きなもの使って運動していいの?」
「あ、ありがとう。そうだよ。お姉ちゃんたちは旅行でもしに来たの?」
瑠璃が黒い長袖シャツの子にシャトルを返して、ついでに話しかけた。
俺たちが見慣れない人だからなのだろうか、コートの向こうにいたオレンジ色の半袖を着た子もこちらへと駆け寄ってくる。
「そうだけど、せっかくだから私と兄ちゃんもバドに混ぜてくれる?」
「いいよ。僕は慎太郎で、こっちが智也ね」
「私は瑠璃、兄ちゃんは亮二」
「そこの扉の奥に色々入ってます、ラケットもそこに」
オレンジの半袖が智也で、黒の長袖が慎太郎らしい。
瑠璃と2人で道具箱からラケットを取り出し、チーム分けをする。
瑠璃の回転させたラケットが倒れたほうのチームに入るという、テニスでコート決めをするようなやり方だ。
結果、俺と智也、瑠璃と慎太郎のチームになった。
「ダブルスのルールって知ってる?」
「うん。私バド部だから」
「俺はよくわからん」
シングルスならばギリギリわかるかもだが、俺は子供の頃に家族と公園でシャトルを打ち合った程度の経験しかない。
「えっと、難しいのは無しで、対角線にサーブを打つのとレシーブは交互にするんだけど・・・・・・」
俺は3人からルールを簡単に説明してもらって、コートに入る。
「いくよ~」
「ほい」
瑠璃は俺に向かってサーブをする。ちゃんとシャトルを放り投げて左手の下からで打った。
(あいつ手加減しやがって)
そもそも瑠璃は右利きだし、わざと予備動作が大きい振り方で打ってきた。明らかに手をぬくつもりだ。
俺は、そんな必要はないと言う代わりに瑠璃の顔へと向けてシャトルを打ち返す。
一応、俺は中高時代スポーツ万能だったのだ。狙い打つこと程度ならばできる。
ダブルスのルール上、当然瑠璃は避けて、慎太郎が返さなければならないのだが、慎太郎は取れなかった。
「はぇ~、やるじゃん」
「すげー。シャトル見えないくらい早いじゃん」
瑠璃はやる気が出たのか、ラケットを右手に持ち替える。
そうして、ちゃんとやる気のでた瑠璃と4人で試合をする。
30分くらいで2ゲーム先取したのは瑠璃と慎太郎のチームだった。
「ちょっと休憩するわ、3人で打って」
「あ、じゃあ僕も休みで。2人で打っていいよ」
俺は慣れない運動からか、疲れたのでコートから横に出る。
続いて慎太郎もコートから出て、俺の横に座った。
(家に問題があるのか? それともただの怪我か?)
智也の半袖の袖口からチラチラと青あざが見える。
(しかし、現状俺ができることはなにもないか・・・・・・)
結局、夕方の遅い時間まで小学生の2人とバドミントンなどを楽しみ、宿へと戻ったのだった。
「いい休みになったなぁ」
「そうだねぇ。勝負じゃないバドは久しぶりにやったかも」
ゆっくり露天風呂へと浸かり、汗をしっかり流して夕食を食べて就寝した。




