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紅葉の村  作者: GANON
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「久しぶりに食べる気がする」

「私も」


 1人暮らしだと、ご飯をちょっと卵で巻くのもおっくうになるものだ。


「マンガもひと区切りついたし、ちょっとその辺歩きに行こうぜ」

「いいね、行こうよ」

「あんまり山の深くまで行かないでくださいね。それと夕食は19時なので、それまでには戻ってらしてください」


 山の中を散策でもしようと、2人で外へ出た時だった。

 袋を持った、明るい髪の色の女の人と入れ違いになる。彼女は俺よりも少し年上に見える。


(一応、他に人は居るんだな)


 そんなことを思った直後、


「お2人さん、旅行ですか? よければ近くを案内しますけど?」


 パタパタと駆け寄ってきた、さきほどの女性が追い付いてきて声を掛けてくる。

 俺たちの返事も待たずに、


「私、これからちょっと暇なもので。どうですか? 案内料とか取りませんし」


 チラと瑠璃のほうを見やるが、肩をすくめるだけで別に構わないらしい。


「じゃあ夕方くらいまで、案内してくれますか?」

「よし、これで言い訳・・・・・・じゃなかった、とりあえず上まで行きましょ、空気がおいしいからね」


 女性は何か言いかけたようだったが、俺たちに後ろをついてくるように言ってくる。


「2人はお付き合い中? それとも結婚してる?」

「いえ。兄妹です」

「ほぇ~。若いのに兄妹旅行するんだ。あ、もしかして聞いちゃまずいやつでした?」

「全然平気ですよ。本当にゆっくりしに来ただけなので。お姉さんはどうして宿へ?」 

「私は薬を届けに来たんです。帰ってもコキ・・・・・・じゃなかった、一応村の人間だからね。外の人にはPRしてかないと!」

 

 若干心の声が漏れ気味の人だったが、悪い人ではなさそうだ。


「はい。じゃあ、今日のご案内は宇佐美うさみ らんが務めます。お2人のお名前は?」

「俺は竜前亮二、妹は瑠璃です」


 隣を歩く瑠璃も少し頭を下げている。


「よろしく~。こう見えても私は村唯一の医者だから。もし怪我でもしたらウチにくるといいよ。まあ診療所自体は父さんのだけど」


 この人は医者らしい。こんなにハイテンション気味な医者には掛かりたくないかもしれない。


「2人ともここよりは都会の人でしょ。頂上からの眺めはすごいよ」

「はぁ」


 後に着いて行くのに精いっぱいで、返事が適当になってしまう。

 道中、守り神なのだろうか、石像があった。高さは腰くらい。

 横に看板のようなものが立っているが、書かれている文字はかすれていて読めない。

 ボロボロの看板に対して、石像自体は手入れされているようで比較的綺麗だ。


「とうちゃ~く。お疲れさま」


 小一時間山道を登り、俺は肩で息をしている一方、女性陣2人はケロッとした顔で景色を眺めている。

 森を見渡す感じで開けた山の頂上には、転落防止の柵と木のベンチが置かれていた。

 眼前に見える木々は一面色づいて、見渡す限り赤や黄の絨毯のようになっていた。


「すごいでしょ? 大自然って感じで」

「確かに」


 こんな景色初めて見た。

 感動? 驚き? この気持ちはよくわからないけれども、普段感じたことのないものだった。

 普段の生活で自然に触れることが少ないし、自然に触れたのは学校の遠足以来な気がする。


「ちょっと休憩したら飲み物でも買いに行きません? 流石に疲れましたけど」

「あ、それなら私が買ってくるよ。じっくり景色を見てね~」


 蘭が飲み物を買いに行き、俺たち2人で景色を眺めることになった。


「こんな自然の中に来たのいつぶりだろ? アタシは中学校で行った林間学校以来かな」

「俺もそうだな」

 

 他愛のない会話をしつつ、蘭を待つ。


「おぉ~。何あれ? ムササビ、モモンガ?」


 ちょうど目の前の木々から鳥ではなさそうな動物が滑空して、木から木へと移っていくのが見えた。

 

「ちょっと待てよ・・・・・・そういえば電波は入らないんだった」


 ズボンのポケットから取り出したスマホで調べようとして、携帯の電波は圏外だったことに気づく。

 これでは携帯電話が役割を果たしていない。まあどうしようもないのだが。

 

「おまたせ~。ん? なんかあった?」

「ムササビだかモモンガだかが飛んでたんで。初めて見ました」

「この辺にはよくいるよ。大きいのがムササビで小さいのがモモンガだね」

「へ~」


 蘭が持ってきた飲み物を飲んで一息つく。


「この後だけどさ、見てみたいところとかあるかな? と言っても、この展望台が一番の見どころで他は大したものはないんだけども」


 展望台から村に戻り、蘭の案内で地元ではあまり見ないような場所を見て回った。

 広い川に水車、村の資料館、それに体育館。

 体育館と言っても一般的な学校のそれよりも天井は低い感じだ。


「田舎の村にしては大きいでしょ? ここでお祭りの準備したり、なんやかんやするんだよ。今日はもう時間だから入れないけど」

「意外と使う人がいるんですか?」

「けっこういるよ。普段はまあ村の人たちの交流所って感じかな。誰でも使える運動場って感じ。平日はお年寄りがゲートボールしたり、日曜日は子供たちとかでドッジボールしたり」


 という感じであっという間に時間は過ぎ、蘭と別れる時間になった。


「お休みのところ余計なおせっかいかけてごめんね~」

「いえ、案内ありがとうございました。ちょうどよかったんで」

「あ、コレ名刺。裏に地図も書いてあるから。もし怪我とかしたら来てね」


 別れ際に蘭から名刺をもらった。だが、あいにくと俺は返す名刺を持ち合わせていない。

 とりあえず礼を言って、2つ折り財布の中に入れておく。


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