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「はーい、どうぞ~」
妹が返事をする。
「昼食ができたので呼びに来ました」
部屋のドアが開き、中背の中年の女性が入ってくる。
さっきのおじさんではなかった。たぶん夫婦なのだろう。
「わかりました、すぐ行きます」
「昼食は蕎麦なんですけど、もしかしてアレルギーだったりします?」
「いや2人とも平気ですよ」
そこまで気を使ってくれるとは。
出されたものはなんでも食べろ、の家だったので俺たちは好き嫌いがほぼないといっていい。
世の中には冷食やカップ麺が不可の家があるらしい、信じられない。
適当に準備して、下に降りる。
カウンター後ろの部屋の座敷に靴を脱いでテーブルをはさんで妹と向かい合って座る。
「先にお茶ね」
温かいほうじ茶が湯呑に入って2つ置かれる。
「すぐお蕎麦持ってくるから」
「ありがとうございます」
何もしなくても自動で飯が出てくるのは実家を思い・・・・・・ださない。
大体、親が家にいないから自分で調達したり作っていた。
楽をしているのは初めてかもしれない。
「はい、おまちどうさま」
出てきたのは、かき揚げと稲荷揚げの乗った、たぬきつね蕎麦だった。
蕎麦が見えないくらい大きなかき揚げが乗っている。
「このあとお風呂入るでしょう? あんまり重たくないのがいいと思って、お昼はお蕎麦なの」
「泊ってる間のメニューは決まってないんですか?」
「ええ。その日の手に入った物で、おすすめが出ます。嫌いなものがあるなら今聞いておきますよ」
「特にないよな?」
「うん、お任せします」
言えば嫌いなものが出てこないなんて、毎食楽しみになるな。
そもそも俺たちはわざわざ宿にきておいて、よほどのことがなければ文句は言わないだろう。
「夕食は3日とも豪華にしますからね。お腹を空かせておいてください」
今から夕食が楽しみだ。
部屋に戻って、着替えを取り出し、別々の部屋で露天風呂に入る。
外からは丸見えなのだが、人っ子一人いない。のどかな森林が広がっていた。
カラカラという戸を開ける音がして、隣の瑠璃も露天風呂へと入ってきたようだった。
流石に隣室とは仕切りがあって姿を見ることはできない。
「そっちの湯加減はどうよ~?」
もうもうと湯気が立つなか、風呂に浸かりながら隣へと声を掛ける。
「ちょうどいいよ~」
風呂のあとは、冷蔵庫から冷たい缶の麦茶を出して一気に煽る。
ビールもあったのだが、夕食後にしよう。
そして、夕食は山菜の天ぷら盛り合わせに刺身盛り合わせ。それに大盛りのご飯に豆腐の味噌汁と佃煮だ。
山奥だが刺身というのはどうやって調達しているのだろう?
部屋へ戻ると、布団が敷いてあった。
冷蔵庫からビールを取り出し、テレビを眺めて、23時には消灯して寝た。
翌朝のご飯は、ご飯、梅干しになめこの味噌汁、キュウリの浅漬けに主菜は焼いた紅鮭。
「梅干し苦手ではないですか?」
「大丈夫です。食べられます」
結構酸っぱい梅干しは、これでご飯を食べられるか好みが出るところなので苦手だと別のメニューにしてくれるそうだ。
「そこのマンガは部屋に持っていって読んで構いませんから」
料理待ち用のために置いてあるマンガは部屋へ持ち込み可らしい。
棚にいっぱい、全部で300冊くらいはあるのではないだろうか?
さっそく5冊くらい持って部屋へ戻る。
部屋でマンガを読みながらゆっくり過ごしていると、あっという間に昼ごはんのお呼びがかかる。
そして、昼ご飯は大盛りオムライス。




