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「すみませ~ん」
妹が家の中に向かって声を掛けている。
「は~い、今行きま~す」
少し高い男性の声が返ってくる。
おそらく作業か何かで手が離せないのだろう。
玄関からぐるりと見まわすと、右手には厨房だろうか、いい匂いがしてくる。
目の前はカウンター、その奥に何人かが座れる和室の席がある。
左手側には上に上がる階段があるようだ。
「いやー忙しくて、すいません。今日から泊まる方だよね?」
「はい。竜前亮二、それと妹の竜前瑠璃です」
「ほいほい、・・・・・・じゃあ今日から3泊、3食付きですね」
ひょろっとした受付のおじさんはカウンターに置いてあったパソコンで、俺たちの情報を確認している。
ずいぶんと年季の入ったデスクトップのパソコンだ。
「では、上の部屋を使ってください。他の設備はトイレは1階、部屋には露天風呂があります」
「ご飯はどうすればいいですか?」
「このカウンター後ろにある和室か、お部屋で食べてもらうことになります。もう少ししたらご用意いたします」
まだ11時過ぎだったので、とりあえず荷物を上階の俺たちの部屋へ運ぶ。
「荷物持ちましょうか?」
「いや、軽いんで自分たちで持ってきます」
おじさんの助けを断り、部屋のドアを開けてもらい、入口で靴を脱ぎ、部屋にバッグを置く。
部屋の間取りは、テーブルに座椅子が2つ。
押し入れと冷蔵庫と金庫にテレビ、それにエアコンだ。入口近くの扉はトイレだろう。
そこまでは普通の安宿っぽい一室。
しかし、一番奥のドアからは外の露店風呂につながっている。
「・・・・・・おい」
「何? 兄ちゃん?」
「これ、中からも外の露天風呂丸見えじゃん」
「あ、ほんとだ」
外からも丸見えな気がするが、山奥だし見る人もいないのだろう。
これに関しては事前に調べなかったのが悪いな。
別に見るのも、見られるのも恥ずかしくない仲だから気にしないが、体裁は大事だ。
「すいません、どこかほかに風呂に入れる場所ないですか?」
部屋の説明をしていたおじさんに割って聞く。
交互に入って、出るまで片方は待ちでもいいのだが、一応聞いてみる。
「ああ、隣の部屋も使っていいですよ」
「いいんですか?」
「予約も入ってないし、どうせ誰も来ないから使っていいですよ」
めちゃくちゃ親切だし融通利くな。
もうレビュー☆5つけたい。
「これ、この部屋と隣の部屋の鍵ね」
「はい」
「冷蔵庫の飲み物は自由に飲んでもらって構わないから」
おじさんは2つの赤と青のキーホルダー付きの鍵をテーブルに置いていく。
「ご飯は時間になったら呼びに来ます。一応、部屋にも持って来れるけど、どうします?」
「下のカウンターのところで大丈夫です」
「わかりました。では、時間を気にせず露天風呂にゆっくり浸かっていってください。よい休暇を」
そう言っておじさんは戻っていった。
「隣の部屋も使えるらしいけど、どうする?」
「うーん、とりあえず荷物はまとめておこうよ」
2人分の荷物をまとめて部屋の隅に。
金庫に財布を入れておく。
金庫のカギはリストバンド付きだ。
「あ、やっぱり電波来てないよ」
妹がスマホを見ながら言う。
俺もスマホを見て電波が圏外なことを確認する。
「本格的に文明から遮断されてるんな」
「まあ下にパソコンあったけどね。お客さんは風呂入ってゆっくりしていけってことじゃない?」
「そういうことだろうな」
流石に最低限のインフラはある。
俺たち客は、何もせず風呂に入って飯を食って寝る、そういう贅沢をしろってことだろう。
コンコンコンと部屋が3回ノックされる。