表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅葉の村  作者: GANON
1/7

1

 バタン、という音と共に助手席のドアが閉まる。

 関東の某県某所の駅近く、俺は借りたセダンのレンタカーで隣に妹を乗せて目的地へと走りだした。

 一通りの荷物はバッグに入れて後ろの席に積んでいる。


「どの辺まで行くの?」

「ナビに入ってる通りに行くからわからん、電波も入るかどうかの山奥みたいだぞ」

「まあ、たまには俗世から離れるのもいいよね」


 なんとわかったような口を聞く、4つ下の妹だこと。

 行先が不明でも、助手席の妹は運転手の俺と違って気楽なものだ。

 一応ネット上でも場所は確認済みなのだが、周りには目立つものが何もなかった。


「兄ちゃんと会うの久しぶりだねぇ」

「そうだな」

「彼女とかできた?」

「できてたらお前と行かねーよ」

「だぁよねぇ」


 もうすぐ冬も迫った秋のはじめの10月。母親が懸賞で当てた旅行券、3万円分の期限が今月に迫っていた。

 しかし、期限に気が付いたはいいが両親は仕事で忙しい。

 と、いうことで妹が勝手に使うことになったようで、俺は足扱いのついでで呼び出された。

 どこでも使えるらしいので、少し遠いが安い宿をとったらしい。 

 下道から高速へ入り、快調に進む。

 今は午前8時過ぎ、カーナビの目標への到着は11時頃となっている。


「そういえば、お前は大学行くのか?」

「うーん、まだ考え中。高校はもうちょっとあるし」


 そう答える妹はスマホをポチポチしている。


「後悔のないように好きにしたらいいさ。俺は就職して後悔してる」

「いいじゃん一人暮らし」

「思ったより暇な時間がねーんだよ、もうちょい遊んどけばよかった」

「そう言いつつ車出してくれるの好き」

「はいはい、いつでも足になりますよっと」


 そんな軽口を交わしながら車は進む。

 明るく振舞っているが、まだ本調子ではないだろう。

 高校生の妹は、部活が引退前の大きな大会の直前で他部員が飲酒、および暴力行為の不祥事をして棄権、停部となっていた。

 さぞ無念だったろう。自分は何も悪くないのに、チャレンジすることすらできなかったのだから。

 俺も妹が2年以上部活に打ち込んでいたのは知っているから、この旅行で切り替えをしてほしいと思っていた。


「3泊なんだっけ?」

「そうだよ。土日月火の連休、なんかあってもいいように1日おまけのとき」

「1泊で豪華にすればよかったのに」

「2人で3食付き、29800円だったからちょうどいかな~って」

「ほぼピッタリ使いきれるならいいか・・・・・・」


 それにしても、連休でちょうどよかった。日程に余裕があるのは楽だ。

 とりあえず道中のSAで休憩を入れる。


「なんか買ってく?」

「別にいらないんじゃないか? いくら山奥でも現地で暮らしてる人はいるんだし」

「それもそっか。お金もそんなに持ってきてないしね」


 一応自販機で道中用の飲み物は買った。

 宿の徒歩圏内にコンビニすらなかったのは気がかりだが、まあ平気だろう。

 さらに1時間ほど高速を走らせて、下道に降りる。


「あれ? 電波無くなっちゃった」


 助手席でスマホをいじっていた妹は言う。

 俺はどんな田舎だよ、とは思いつつ、道なり10分くらい走った山中、ダッシュボードから紙の地図を出して妹へ渡す。


「地図くらい読めるよな? 現役高校生」

「当たり前じゃん」


更にしばらく走ると、山の中で完全に電波が無くなったらしく、カーナビの現在地が宇宙へと飛び立っていた。

 若干の不安はあるがナビは隣に任せるとしよう。


「・・・・・・たぶん登っていけば着くんじゃない?」

「ほんとかよ」

「うん。分かれ道は全部北側行けばいいと思う」


 遭難しなきゃなんでもいいか。

 2車線しかない山道を登る、適当っぽいナビされて。


「この先がわかりにくいとこっぽい。・・・・・・これ!」


 助手席の妹が未舗装の道を指さす。


「もう一回、右に曲がってあとは道なりみたい」

「森じゃん」


 色とりどりの紅葉がきれいな道を走らせる。

 すると急に視界に家らしきものが見えてくる。

 妹がとった宿は民宿だった。


「ここか?」

「そうみたい」


 宿、田造、という看板が出ている。

 地面に黄色いロープが張ってある。車はここに停めればよいのだろう。

 バックで駐車し、後ろの席から荷物を下ろす。

 目の前にはこれから泊まるであろう、合掌造りの古そうな家屋だ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ