魂になりたい少女〈つゆこヤンデレ〉
とあるVチューバ―のそのうち行うであろうボイスドラマの原作になりそうな話です。ヤンデレになっていればいいのですが…?
「今日、小説を読んだんだ」
「うん」と頷く。
「そこにね、人間は死んだら魂になってどんなところにも行けるって書いてあったの」
「そうなんだ」荷物を置きながら適当な相槌を打つ。
ふと肩に重みを感じた。
つゆこの手だった。
「それでね、人と人との距離もね、体が無いから今よりもずっと近くで感じられるんだって」
「そっか」つゆこの方に体を向ける。
「今日のご飯は?」
「ハンバーグ作ったよ。特製ソースの」
「美味しそうだ」
「ね、さっきの話の続き」
ハンバーグを食べきるとつゆこは口を拭きながらそう言った。
「私たち魂だけにならない。そうすれば」
「そうすれば?」
「もっと近くであなたを感じられる」
「今で十分だと思うんだけど」
「だめ!」
机に手をつき勢いよく立ち上がる。椅子は大きな音をたてて倒れた。
「ご、ごめん」
椅子を直して座りなおしたつゆこは申し訳なさそうな顔をしていた。
「私はずっとあなたといたい。仕事に行ってほしくない。こうやって二人でご飯を食べられなくなるのは嫌だけど、魂だけになったら解放されるのよ」
「だから」
「死のう」
僕は椅子をゆっくりと引き、彼女の隣に座る。
そして、ゆっくりと確実につゆこを抱きしめた。
「何?」
「君が死んじゃうと思うと、さびしくなって。ダメだった?」
「別に」
つゆこの呼吸が胸を伝って僕に伝わる。その呼吸はだんだんと乱れてきた。
つゆこは泣き出した。
「私はもっとあなたと一緒に居たい。死んだら、全てから解放されてあなたと居られる。一緒に死にたい……。でも嫌なの?」
「僕は今のままがいいな。愛してるよつゆこ」
「愛してる……。どうせ! 他の子にも言ってるんでしょ! 知ってるよ私! 嘘ついても証拠あるから」
抱きしめていた僕を突き放すと、テーブルに置いてあったスマホの写真をみせられた。そこには僕のスマホの画面が映っていた。
「ほらこの人いつも連絡とってる!」
「その人は……」
「チョコありがとうって何? バレンタインもらったんでしょ。私以外から!」
「それは……もちろん義理に決まってるよ」
「分かんないじゃん! 義理じゃないかもなんだよ! あなたの体にこの子の一部が入ってるってのを想像するだけで虫唾が走る」
「ごめん」
「ほんとに思ってる⁉ もう私分からない……ほんとに愛されているのか、あなたから」
つゆこはしばらく大きな声を上げていたが、次第に静かになり再び泣き出した。
「愛してるよ。それは本当だから」
「それは?」
「それはじゃないね。愛してるよ」
つゆこの手をぎゅっと、いつもより強めに握った。
つゆこは僕の顔を見た。涙は頬を伝って目から離れていく。僕とつゆこの手に垂れた涙は生暖かった。
「その人は職場の人で、人伝いでチョコをもらったから、連絡したんだ。絶対にそういうのではない」
「うん」
「混乱させちゃったね、本当にごめん」
「うん」
すんすんとすすり泣きになった。
「そのチョコは食べたの?」
「もちろん食べてないよ。そこにとってある」
「よかった。でもなんで取ってあるの?」
「捨てようと思ったよ、けど捨てづらくて」
「じゃあ、私が捨ててあげる」
「わかった後で渡すね」
「うん」
しばらくつゆこの手を握っていた。
つゆこの流れる涙は止まり、呼吸もゆっくりとなった。
「落ち着いてきたかな」
「うん」
「じゃあ、食器片しちゃおうか」
「うん」
立ち上がるために手を離そうとしたが、つゆこの手に力が込められ離れそうになかった。
「つゆこは座ってていいよ」
「あなたとずっと居たい。あなたに触れていたい」
「わかった。立てる?」
「うん」
手を握ったままつゆこと立ち上がる。
「でもこれじゃお皿持てないね」
「うん」
そう言うとつゆこは僕の背中に抱きついてきた。
「これで大丈夫」
「そうだね」
「じゃあ片そうか」
「うん。絶対離さない」