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【書籍化決定】シドはC級冒険者『ランクアップは遠慮する』~稀少なスキルを持つ男は、目立たず静かに暮らしたい~  作者: 盛嵜 柊 @ 書籍化進行中
【第五章-終章】シドという名の冒険者

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98. 捜索

シドとC級冒険者6人は、エガニ村での朝を迎えていた。


空が明るくなり始めた頃、その6人は誰に言われずとも火の始末を終え、身支度を始めた。

シドとリュウはそれを確認してから、ゆっくりと腰を上げてそこへ足を向ける。

皆の顔色を見れば、少しは眠れた様で、概ね問題はなさそうである。


6人が出発の準備が整ったのを見て、シドは皆に声を掛ける。

「俺達は、残る4人を探しに森へ入る。6人でも戻れるな?」


シドはそう言って、最後に神官のユリアンと目を合わせる。

この中では彼が一番、常識ある行動を取る人物だと、見越しての事である。


「はい」

ユリアンがそう声を発して、皆が頷く。

「魔物が出た場合は、状況をよく見ろ。C級だから、当然出来るな?」


シドもC級だが、シド達のランクは今回彼らに伝えてはいない。

そしてこれは、シドが事実確認をしているだけだが、皆は釘を刺されたと思ったらしいと、リュウはシドの隣で苦笑する。


「はい。全員でも手に負えない魔物が出た場合、戦闘は避け街へと走り、ギルドに救援を要請します」

ユリアンの返事に、シドとリュウは頷く。


「パーティ関係なく、戦闘職を前後にして戻れ。歩いて2時間で街へは着くが、何かあれば走れよ」

「はい」


そう返事をしたユリアンから視線を移し、今度はローブのカリストを見据える。

「お前の火魔法は皆を援護できるが、自分も皆と一緒に帰るという事を、忘れるな」


シドは、捨て身で行動を起こすなよと、念を押す。彼が一番熱くなりそうである為、一言添えたのである。


「ああ、分かってる」

カリストは、苦笑を浮かべてシドに返した。


「気を付けて帰ってね」

リュウもそこで、皆に声を掛けた。

皆がそれに会釈で返すと、村から続く道を辿り、6人は街へと戻って行ったのだった。



6人を村の入口で見送ったシドとリュウは、彼らが見えなくなるとそこでやっと息を吐く。


「無事に、街まで帰って欲しいね」

「ああ。まぁ問題はないだろう」


2人はそこで踵を返し、村の中を又戻っていく。


「村の人達は皆、避難済みで良かったね」

「そうだな。村人がいる時にアントが出ていれば、大変な事になっただろうしな」


2人は歩きながら、その先の話に移る。

「野営したところの奥から、4人を追うか」

「足跡が、残っていると良いんだけど…」


シドとリュウは、ハンスの家まで戻ると、その裏手へと回り込む。

裏には手入れされたチーピの木が並び、その木の奥から、大森林へと続いている様である。


2人は足元を見ながら、チーピの木の中を歩く。

「この奥だね」

「そうだな」


シドとリュウは頷き合うと、足を踏み出して大森林へと進んで行った。


ここへ来る前に、残りの4人については判る事を聞いておいたのだが、彼らの話では、その4人もC級のパーティで、年齢も皆同じ位の二十歳前という事であった。


1人は赤髪の剣士(ソード)、1人は翠髪の槍使い(ランサー)、そして黒髪の弓使い(アーチャー)に、もう1人は駱駝色(らくだいろ)の髪をした魔術師(ウィッチ)であるという事だった。


「1人は女性なの?」

その時にリュウがユリアンに聞くと、“はい、1人は女性です”との返事があり、リュウは暫く、泣きそうな顔をしていたのであった。




落ちた葉はサクサクと音を立て、シド達の足元を鳴らす。

シド達が今いる場所は、言ってしまえば大森林の中ではあるが、エガニ村はその広大な大森林の西端にあり、その西から東へ向かって、彼らは進んでいる様であった。


このまま進めば、村へ戻る方角も分からなくなる。

村から少し大森林に入っただけで、道もなく木々に囲まれる以外は何も見えない。太陽もチラリと見えてはいるが、鬱蒼と茂る森の中では人間の方向感覚などは、全く当てにはならないだろう。


シドとリュウは、辛うじて判る足跡を辿り進む。途中、落ち葉が積もったり、入り乱れたりして、見落としそうになる箇所もあるが、今は順調に後を追えているはずである。


「随分と奥まで、入ってしまったみたいだね」

リュウと2人で大森林に入って約4時間、もう昼も近い時間となっている。


「ここで一度、休憩にするか?」


シド達は、先程までレッドベアと戦っていたが、今はそれから魔物の気配もない為、一息吐こうと思っての事である。

そう声を掛けたシドがその場に立ち止まると、リュウがシドの隣にやって来た。


だがその時、地鳴りの音と共に、大きく大地が波打つ様に揺れた。


“グラリ”と眩暈の様な感覚に、シドとリュウは互いに支え合う。

周りの木々も葉が擦れ、ザワザワと音を鳴らしていた。そしてそれは直ぐに収まると、何事も無かったかの様に、静かになった。


シドとリュウは支え合ったまま、その場で緊張を張り巡らせる。


「今のは何?地震?」

「地震のようだが、何か嫌な予感がするな…」


リュウの問いにシドが答えれば、リュウは目を見開く。


「そんな…それって…」

「ああ。早く4人を見つけ出した方が良いだろう。このまま奥まで進まれてしまうと、相対(あいたい)する事になるかも知れないな」


シドの考えにリュウも頷いて返すと、シドとリュウは、取るはずだった休憩を諦めて、足跡を頼りに更に奥へと、駆け出して行ったのであった。



-----



“グラリ”


大きな揺れが、王都エウロパの冒険者ギルドにまで届いた。

ギルド内では今、これから取る行動の打ち合わせをしており、その揺れは、先に到着していたA級と、B級冒険者達の危機感を煽った。


「おい!今のは何だ!」

ガヤガヤとB級の冒険者達が口々に発する中、A級の冒険者達は、顔色は変えるが大声を発する者は、誰一人としていない。

そのA級同士が顔を見合わせて、小声で話す。


「今のはもしかして…」

「ああ、その線が濃厚だな…」

それだけ話すと、A級は皆、黙り込む。


その間にB級の者達が立ち上がり、ギルマスへ群がっていく。


この部屋は、いつも昇級試験時に利用する部屋で、武器の熟練度をみる為に、余裕を持った大きな部屋となっており、その広い空間に今は簡易の椅子が置かれ、ギルマスに向かってB級、A級と、50人程が並んで座っていたのである。


「ギルマス、今のは何ですか!」

「今回の招集と、何か関係が?」


口々に皆が発する為、ギルマスも伝える言葉が見付からず、眉間にシワを寄せている。現時点ではまだ、B級達にウロボロスの話まで伝えていた訳でなく、何処から説明して良いのかも、分からない状態なのだ。


その集団から離れて、座ったままのA級の者達は、小声で会話を続けた。


「思っていたよりも、時間がない様だな…」

「ああ。まだ全員は揃わないが、いる者達だけで先に出た方が良いだろうな」


そう結論を出した者達が、一斉に立ち上がった。

その離席音を聞いた皆の動きが止まって、騒がしかった室内が一瞬にして静寂に包まれた。


A級の冒険者達が、ギルマスに視線を向けると、大きく頷く。

「俺達は、先に森との境まで出る。B級は応援に欲しいが、ギルマスが指示を頼む」

「ああ」


A級冒険者の、冒険者ギルドからの信頼は“絶対”である。

そしてその者達は、冒険者ギルドの指示には従うが、立場的にはギルマスよりも、上なのであった。

言われたギルマスが肯定を返すと、A級冒険者達は次々と扉を抜け、冒険者ギルドを後にしたのだった。


今ギルドを出てきた者達は…。


ケディッシュ率いる“一角獣の角(ユニコーンのつの)”が4名。ディーコン率いる“天馬の眼(ペガサスのひとみ)”が4名。ボーナム率いる“デュラハンの兜”が3名。


それにもう一組、後から合流した“シュナイ領”の“ガーゴイルの翼”というパーティがいた。

リーダーは“リード・メイスン”。

このパーティは全員が“魔術師(ウィザード)”という異色のもので、その4名が加わり総勢15名が先行する事となった。


その者達は、人々が不安に怯える街中を、王都の大森林側へと急ぐようにして、足早に向かって行ったのである。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「ああ。早く4人を見つけ出した方が良いだろう。このまま奥まで進まれてしまうと、相対あいたいする事になるかも知れないな」 見捨てると言う判断もしっかり検討して欲しいね。
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