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【書籍化決定】シドはC級冒険者『ランクアップは遠慮する』~稀少なスキルを持つ男は、目立たず静かに暮らしたい~  作者: 盛嵜 柊 @ 書籍化進行中
【第五章-終章】シドという名の冒険者

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97. 王都エウロパ

本日は、王都のお話です。

大きな窓に向かい、メルクリウスは城下を見ている。


ここからでは、一人一人の様子は窺い知る事は出来ないが、今王都エウロパでは、混乱が生じているのであろうという事は、感じ取る事が出来る。それは知っているから故の、事ではあるのだが。


スコルドと話した後直ぐに工事の中止を命じたが、上がってきている報告は、既に大森林の怒りを買ったとも取れる予兆が出ており、エウロパの冒険者ギルドからは、上級冒険者を招集したとも聴いた。


これは全て己のせいだ。

王家に生まれてしまったが為、これまでも色々な判断を迫られた事も多い。だが今回は、“大丈夫かも知れない”という判断での気の緩みが今の事態を招いてしまっていると、思い知らされる事となった。


この国の伝承は、子どもの頃、毎日のように聞かされて育つ。

そしてなぜ、王都の隣にある森に手を出してはならないのか、手を出せばどうなるのかという事を、子供にも解るように、話してくれるのだ。


学問などは、それこそ家庭教師が付き教えられていたが、この伝承の話だけは、必ず王家の者が話してくれていたなと、今更ながらにそれを思い出していた。



そこで国王の後ろで扉が開き、靴音が近くなる。

この音は息子であるクリストファの物だなと、メルクリウスはゆっくりと振り返る。


「陛下、工事の中止を発表したと伺いました。どういう事でしょうか」

このクリストファは、慌てる事はしない。今も淡々と、事実確認をしているという口調である。


「うむ。クリスは最近、王都の街には降りておるか?」

メルクリウスは、会話の接点を確認するように話す。だがクリストファからすれば、違う話にも聞こえる為に、困惑するかも知れないが。


案の定、クリストファは少し目を大きくすると、直ぐに表情を戻してそれに返す。

「工事の準備に忙しく、近頃は街への視察には出ておりません」

「そうか…。クリスの周りで、街の話をしてくれる者はおらんのか?」


話の流れが見えない展開で、クリストファは困惑する。

「…はい。私も、聞いている余裕はありませんでしたので」


直立不動とも言える姿勢で、クリストファは、執務机の前に立って話していた。

いつもであれば、クリストファが入ってくれば、国王はソファーへと座り話をしていたが、今日は何故か2人共、立って話をしていたのである。


国王は掌を振って、室内の者を下がらせると、そのままクリストファの目を見て話す。


「今この王都周辺では、大森林の異変を感じ緊急事態宣言を出して、大森林近くから避難を始めている。ここ王都エウロパの冒険者ギルドも、その対策の為、アルフォルト公を呼び寄せているそうだ」


その話を聞いたクリストファが瞠目する。

クリストファにもアルフォルト公が出てくる事は、国の緊急事態であるという認識を持っているのであった。


「叔父上まで、お出ましになるのですか?そんなに酷い事が起こると…」

「ウロボロスが出てしまえば、それは最終通告。これを乗り切らねば、真に大森林との契約は破棄され、大森林すら消滅するであろう」


「それは…ただのお伽噺ではないのですか?」

「我々王家の伝承は、ただのお伽噺ではない。国中にある話はお伽噺の様な物だが、我々が子供に伝え継ぐ事は、王家の始祖の話。クリスにも子供が出来れば、しっかりと語り聴かせると良い」


メルクリウスの顔には、一切の甘さも見られない。今は親としてではなく、国王として王太子と話をしているのだ。

国王もこれ以上間違いを犯さぬ様、自分を律して話をしていた。

そして国王はクリストファの目を、真っすぐに見つめて告げる。


「工事中止の理由を知りたくば、近衛と共に城下に下り、人々の様子を見てくると良い。そしてそれらの不安を少しでも取り除く様、暫くは騎士団と共に街の安定に努めよ」

そう言って国王は、目の力を強める。


「この事態は、私とお前のした事だ。私も騎士団と共に、大森林側に出る」


クリストファは、その言葉の意味にやっと気付いた。アルフォルト公が出る、そして国王も出る。


自分がやろうとしていた事が、この様な混乱を招くとは、クリストファは考えもしていなかった。

勿論伝承は知っているが、それは子供に“悪い事をしない様に”という譬話(たとえばなし)だと、捉えていたのであった。


自分は、“してはいけない事をしてしまったのだ”との思考に、やっと辿り着いたクリストファは、表情を引き締めると、深く頭を下げた。


「畏まりました。街へ下りて、騎士団と共に街の安定に努めます」

そう言ってから頭を戻すと、クリストファは直ぐに踵を返し、王の執務室から下がって行った。


それを見届けたメルクリウスは、また大きな窓に向き直ると顔を引き締め、国を守る為に覚悟を決めたのだった。



-----



「やあ、久しぶりだな」

そう声を掛けたディーコンは、王都の冒険者ギルドの応接室で、笑顔を見せた。


「ディーコンか、随分と早い到着だな。ファイゼルの俺より、早い到着とは」


そう話すのは 槍使い(ランサー)“ケディッシュ・マクリーズ”で、どちらも有名なA級冒険者であり、貴族の籍に名を置く者である。


「俺達は、大森林に隣接する“リュバルド領”に、応援を頼まれていたんだ。だからそこから来た、という事だ」

「そうか…リュバルド領も、酷いのか?」

「そうだな。魔物の数が増えていて、街の傍まで毎日何かしらが出てくるな」

「そこまでか…」


ディーコンと話している者は、ファイゼル領に属するA級パーティ“一角獣の角(ユニコーンのつの)”のリーダーで、長い銀髪と翠眼に、引き締まった体は均整が取れ、全身が魅力に溢れるイケメンである。


A級冒険者ともなれば、年に一度そのランクの者達が王城に呼ばれ、慰労会が催される。

そして国の安定のために努めてくれと、国王から直々に御言葉を賜るのである。

そこに出席する者達は、そういう意味でも顔見知りであり、気安く話せる仲間でもあったのだ。

しかしそれには、アルフォルト公は含まれてはいないと言うのは、余談である。


「ボーナム達は?」

ケディッシュがディーコンに聞く。

「俺はまだ見ていないが、あそこが今回の話の元だろう?色々とゴタゴタしているのじゃないか?」


ディーコンがそう話した処へ、丁度噂の“デュラハンの兜”が到着する。

「来たな…」

「その様だな」

ディーコンとケディッシュがそちらを見れば、ボーナム達3人が手を上げて挨拶をした。


その2人の下へ、3人が近付いて来た。

「久しぶりだな、2人共」

ボーナムの挨拶に、ディーコンとケディッシュが手を上げて返す。


「ボーナム達は、遅かったな」

ケディッシュの言葉に、ボーナム達3人が苦笑を浮かべた。


「これでも早目に出てきたつもりだったんだが、ディーコンより遅くなるとは、すっかり出遅れたな」

ブライアンが話す内容は、メンバーに向けてのものである。


それを受けてボーナムが、ケディッシュとディーコンへ向けて返事をする。


「うちの街のダンジョンが、崩落を起こしたんだ。大した事にはならなかったが、事後処理もあったし、それに、その事をアレの出現に結び付けた奴がいてな。随分と博識な印象で、能力も持ち合わせている者だったから、そちらへも接触してから出てきたんだ」


「そいつは、A級ではないのか?」

「ああ。C級だと言っていたな」

ボーナムがケディッシュにそう答えると、ケディッシュが眉を顰める。


「C級なのに、ダンジョンとアレを結び付けたのか?」

「ああ。知識は色々と、持ち合わせている様だったな。何故C級なのかは、分からないが」

今度はディーコンの問いに、ボーナムは返事をした。


「まぁ、俺達は招集されたから王都に来る事にはなったが、南に行くと言っていたから、そっちは彼らに任せてきたんだ」

ボーナムが、そう付け加えた。


「彼ら?…パーティなのか?」

「ああ、2人だな」

ケディッシュの疑問にはそう返答する。


「そうか…」

「こっちもこれから、どう動くのか…」

「そうだな…」



こうしてA級冒険者達は、続々と王都エウロパへと集まり、別の部屋にもB級冒険者が集められていて、王都の冒険者ギルドは、着々とその時を迎える為の準備を、進めていたのであった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] D級冒険者リュウとしてクエストを受けるのは問題無いかも知れないが、 B級以上に招集が係ってるという事はB級冒険者のリュシアンにも、 招集が係ってるが無視してるって事なのかな??
[一言] ここまで国を混乱させといて廃嫡とかではないんや。 失敗してもやり直しさせてあげる…めちゃ優しいお父さんやな。
[一言] ここで尚お伽話だ言わないだけマシか 手遅れの可能性はあるけど
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