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【書籍化決定】シドはC級冒険者『ランクアップは遠慮する』~稀少なスキルを持つ男は、目立たず静かに暮らしたい~  作者: 盛嵜 柊 @ 書籍化進行中
【第五章-終章】シドという名の冒険者

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93. エウロパの招集

部屋へ戻ったシドとリュウは、テーブル席へ腰を掛けると、リュウがお茶を入れてくれた。


「はい」

「ああ…助かる」


そう言ったシドは、受け取ったお茶を一気に飲み干す。余程喉が乾いていたのかと、リュウは御代わりを注ぐ。


「結局、ウロボロスの事は、誰も知らない魔物の様だな」

シドは再度入れてもらったお茶を、口に運んでからそう話した。


「そうみたいだね。その魔物がどうやって現れるとか、話に上らなかった処を見ると、本当に何も分からない魔物みたいだよね」

「ああ…」


「そんな魔物、仮令“英雄”でも、倒せるのかな…」

「……」

「というか、アルフォルト公は“英雄”って、凄い渾名が付いているんだね…」

リュウは、彼が現役の冒険者だった時には、冒険者ではなかった為、詳しくは知らないのである。


アルフォルト公とは“ネレイド・アルフォルト公爵”の事で、以前、冒険者として名を馳せた“英雄”と呼ばれる人物だ。今は冒険者としての活動はしておらず、公爵となって、ここスチュワート領の南にある“アルフォルト領”を治めている。


「…そうだな。凄い“二つ名”である事は確かだな。ただ“英雄”とは、スキルの名前だったはずだが」

「スキルの名前なの?…そんなスキルがあるんだね」


「俺も、そのスキルがある事を知らずに、ただ凄い人だから、“英雄”と呼ばれているのかと思っていたんだ」

「そう思った方が自然だよね?」


「でも、本人に会った時に、それはスキルの名前だと、教えてもらった…」

「え?アルフォルト公と、会った事があるの?」


「ああ。俺がまだ10歳にもならない頃だ。その後俺は、あの人に憧れて冒険者になると決めた…」

「兄さんも、だったんだね…」


「ああ。俺が魔物に襲われている時に、助けてもらった。もう随分と昔の話だが、俺はそれを一生忘れないだろう」

「…そんな事があったんだね…」

自分の事を、ここまで話すシドも珍しい。リュウはその流れを止める事無く、続けて問いかける。


「アルフォルト公は、最初は貴族ではなかった人なんでしょう?」

そのリュウの問いを聞いたシドは、渋面を作った。

「昔は、ただの冒険者だった…」

そう言ってシドは、奥歯をかみしめる。


「え?平民から公爵になった、と言う事?」

リュウはシドのそれに気付かず、話を続けた。


「ああ…そのスキルの事が、王家に伝わったんだろう…。後に王族と結婚して、公爵になったと聞いた…俺が12の頃の事だ」

シドは言葉を発しながら、顔を俯かせて拳を握った。


シドが頑なに昇級しない理由の根本には、アルフォルト公の件に衝撃を受けた事に関係する。

王族や貴族が、希少なスキルを持つ者を囲い込み、自分達の都合の良い様に利用しようとしているとしか、シドには思えなかった。それに周りの大人達も、その様な事を言って、話しているのを聴いた。

だから、自分がそんな者達に利用されるのは、どうしても我慢ならないのである。


「それで公爵…凄い事だね。その“英雄”のスキルって、そんなに凄い物なの?」


「…ああ。英雄というスキルは稀少なものだ。戦闘では負けなしだと聞く。そのスキルを使えば、武器は何でも使いこなし、身の熟しも格段に良くなる。そして体力、腕力、跳躍力等、全ての戦闘能力が上がるというスキルだと。まさにその動きは、“英雄”と呼ぶに相応しいものだった…」


シドはそう言うと、遠い眼をして虚空を仰ぐ。リュウはただそんな彼を、見つめていた。

今ここで話してくれた事は、シドの根本に繋がっている気がして、リュウは静かにお茶を口へ入れると、ゆっくりと嚥下しシドの次を待った。


深い思考から戻ったシドが、リュウへ顔を向ける。どうやらシドは、思考を切り替えたらしい。


「明日の昼に、ここを出ようと思う」

「わかった。ノックス領に向かうんだね?」

「ああ」


明日の話へ移行したシドとリュウは、そこで話を終えると、それぞれが明日の用意に取り掛かったのだった。



-----



翌日のダイモスの街中は、まだ浮足立っている様には見えない。皆いつもの日常を、過ごすかのような雰囲気であった。

しかし一部の者達は、慌ただしい朝となっていた。


シドとリュウは、朝の時間に余裕を持たせて宿を出ると、そのまま冒険者ギルドへと向かった。

昨日の内にデュラハンの兜から、ギルドの場所は聞いてある。

2人は冒険者ギルドの大きな扉を開け、中へと入って行った。


冒険者ギルドの中は、人で溢れている。ダンジョンの崩落の事で、騒ぎになっているのだろう。

しかしその中でも、デュラハンの兜は存在感を放ち、直ぐに見付ける事が出来る程であった。


シドとリュウが室内に入ってきた事を見付けた3人は、2人を見て頷いた。

そして、そこからスルリとアドニスが、気配を消してこちらにやって来た。


シドとリュウは、まぎれる様に壁際まで行って、そこへアドニスが合流する。3人は頷き合うと、小声で話し始める。


「昨日の夕刻、国王から工事の中止が発表された」

アドニスの言葉に、シドとリュウは苦笑する。

「まぁ今更だがな」

と、アドニスが2人の心中を代弁すれば、2人は頷く。


「それから王都の冒険者ギルドが、警戒レベルを最大値にして、B級以上を招集した」

「王都はそんなに、被害が出ているのか?」

シドの問いかけに、今度はアドニスが苦笑する。


「いいや、まだ自分達で何とか出来る位だったらしいが、昨日の奴が出てくると伝わるや否や、王都に人を集めろという話になったんだと。まぁ、王都から遠い所にいるA級もいるからな。早目に集めて安心したいって、処だろうな」

アドニスはそう続けた。


「そんな事なんで、分かってはいたが、俺達は王都へ行く事になった」

シドとリュウはアドニスに、しっかりと頷いた。


「王都以外、A級B級の居ない所での対応となるだろう。よろしく頼む」

「ああ」


3人はそれだけ話し、アドニスはまた皆に紛れてメンバーの下へ戻ると、その存在感を表へと出した。

流石にA級だけの事はあり、気配の使い処が絶妙であった。

3人と2人は遠くから頷き合うと、シドとリュウは冒険者ギルドの扉を開き、再び街へと紛れて行った。


そのままシド達は街の中を歩き、冒険者ギルドの傍で薬屋を見付けると、そこでポーションと魔力ポーションを買う。しかし既に一部の冒険者達が、それらを買い占める者も出始めている為、1人1本までという制限が付いていたのだった。


シドとリュウは各1本ずつの薬を買うと、屋台などで買い出しを済ませ、ダイモスの街を後にした。




2人はダイモスの東門から街を出る。この道は真っ直ぐに王都へと続く道である。


「ねえ、こっちは王都に行く道じゃないの?ノックス領に入るなら、アルフォルト領から回ると思ったんだけど…」

リュウは困惑気味に、シドへ問いかける。


「王都へは行かないぞ。リュウ、こっちだ」


シドはそう言うと、リュウを道から逸れた林の中へと誘導する。リュウは分からぬまま、シドに付いて林の中に入って行った。

林の奥へ向かいながら、黙って歩くシドにリュウが付いて行くと、暫くすればシドは立ち止まる。

そしてシドはリュウに向かって振り返ると、リュウの前へ手を出した。


「ここから移動する。掴まってくれ」

その声にリュウは目を見開く。

「え?転移(テレポート)?」

やっとシドの意図に気が付いたリュウが、驚いて問い返した。


「ああ。ゆっくり歩いていく暇はなさそうだ。今日にも上級冒険者が、南部の街から居なくなる。俺達は直接、キリルの傍へ出る」

「でも、行った事がない場所には、行けないんじゃ…」

「それは問題ない。キリル周辺までは、行った事がある」

「じゃあ、止めても無駄だね?」


リュウの言葉に、シドは苦笑を零す。

シドは、リュウが自分を心配してくれている事は解っているが、事をここまで大きくした責任を密かに感じている事もあり、何か少しでも出来る事をするのだと、覚悟を決めていた。


シドがもし、あの時“マンイーターの種”を出していなければ、王太子は亡くなっていたかもしれない。

だが彼が助かった事で、今度はウロボロスという厄災が出て来るかも知れないのだ。それをシドは、どちらとも取れない、苦い想いを抱えていたのであった。


リュウは泣きそうな顔をシドに向けると、何も言わずにシドの手を取った。

シドは集中(フォーカス)を入れると、2人の姿は瞬く間に、林の中から消えたのであった。




シドとリュウは、森の中へと出た。

地に足が着くと、シドはその場で片膝をつく。


シド(・・)!」


リュウはシドに手を伸ばし、その顔を覗き込んだ。

「大丈夫?」

「ああ…大丈夫だ。今回は今までで一番使ったな…」

そう言ってシドは、鞄から魔力ポーションを出して飲む。


今までの転移(テレポート)では、ラウカンの外の森からウィルコックの森へ飛んだ時が、最大の距離で、その時は魔力の半分程を消費する事となった。そして今回はそれよりも遠く、その分魔力を多く使った為に、体内から魔力がごっそりと抜けた感覚に、体をふらつかせてしまったのだった。


シドはそこで、魔力ポーションを3本取り出すと、リュウへ差しだした。

「これを渡しておく。俺はあと3本持っているが、リュウは2本しか持っていなかっただろう?」


リュウの目の前に差し出された魔力ポーションを、リュウは眉を下げて見ている。


「俺の方が、魔力保有量も多いんだ。リュウが持っていてくれ」

シドの念押しに、リュウは頷いてそれを受け取った。


「わかったよ。でも兄さんが足りなかったら、絶対に言ってよね?」

「ああ。わかった」


2人はそう話すと、立ち上がって周辺を確認した。


「ここは何処なの?」

リュウにはここが、ただの森の中だとしか分からないのである。


「ここは<ウラノス>の近くだ」

「<ウラノス>?…ああ、キリルの近くで見つかったダンジョンだったね」

「そうだ。少々<ウラノス>の事も気になっていたから、寄ってみようと思う」

「そういう事だったんだね。了解」


それからシドとリュウは、冒険者が作っただけの獣道を、<ウラノス>へ向けて歩き出したのであった。


いつも拙作をお読みいただきありがとうございます。

誤字報告も、重ねて感謝申し上げます。


また、“ブックマーク・☆☆☆☆☆・いいね”を頂きます事、モチベーション維持に繋がりとても感謝しております。


いつも皆さまが応援して下さって、こうして続ける事が出来ております。

最後まで、C級冒険者のシドにお付合い頂けますと、幸いと存じます。

盛嵜 柊

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― 新着の感想 ―
[気になる点] そうとしか思えなかった、周りもそう言ってた うーん、思い込みを拗らせてるね。その通りかもしれないし、違うかもしれない 降格もあるから、一度Bに上がって様子見してたら少しは違っていたかも…
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