表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化決定】シドはC級冒険者『ランクアップは遠慮する』~稀少なスキルを持つ男は、目立たず静かに暮らしたい~  作者: 盛嵜 柊 @ 書籍化進行中
【第五章-終章】シドという名の冒険者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

91/108

91. A級冒険者

ザクッザクッと音を立て、5人は土の剥き出した道を歩いている。暫くすると歩きながら、アドニスがシド達に話し掛けた。


「2人は、何処の街の所属なんだ?」

アドニスの問いかけに、他の2人もシド達へ顔を向ける。

「俺達は、固定の街には所属していない」

シドはありのまま、そう話す。


「へえ。じゃあ色々な街に行って、ダンジョンに潜っているのか?」

と、今度はボーナムが聞いてきた。

先程シド達がダンジョンへ潜っていた為、いつもダンジョンを渡り歩いている者だと、勘違いをしたのだろう。


「別にいつも潜っている訳ではない。今日は、偶々…だな」

シドは慎重にそう返した。


「そうだったか。俺達も、いつも潜っている訳ではないんだよな。俺達も今日は、偶々なんだ」

そう言ってブライアンは笑う。

「こんな日に、“偶々”な奴が多いな」

ブライアンに続けて、ボーナムが突っ込む。


「では3人は、いつも外なのか?」

シドの言う“外”とは、ダンジョンではない依頼の事である。


「ああ。俺達はいつも、外の依頼を受ける事が多いな。こうやって偶に潜る位だ」

「そうか」

「ああ。今日はその依頼で、偶々潜っていた、と言う訳だな」

と、ブライアンは続けた。


他の2人も頷いて、今度はボーナムが訳を話す。

「今日は、ダンジョン内の調査依頼だったんだ」

そう言って3人は、苦笑を浮かべた。


「調査?」

「ああ。ここ数日、<フェイゲン>の様子が変わってきていると、報告が上がっていたらしい。俺達は、“ちょっと様子を見てきてくれ”と頼まれた、と言う話さ」


そうボーナムが言えば、他の2人は又苦笑している。


「それで?」

シドはその先を促す。

「まぁこれは様子見ってところだろう。暫くは潜らない方が良いと、俺達は進言するつもりだ」

ボーナムの言葉に、シドは真っ直ぐに目を向け、真剣に耳を傾ける。


「今回のものは“消滅の予兆”ではないと、俺達は考えている。通常、ダンジョンが消滅するならば、魔物が全く出なくなった後だろうし、今回の崩落は、それには該当しない。それに、最近は復調するダンジョンもあると聞く。様子を見てから、ギルドに判断してもらった方が良いだろうな」


ボーナムがそう言えば、シドは頷いて返す。リュウも隣で少しホッとした顔をしている。

シドとリュウは、先程まで話していた<フェイゲン>が、このまま封鎖されてしまうのかと、実は気をもんでいたのである。


彼らの報告によっては、ダンジョンの入洞は今後一切できなくなるだろう。

暫く様子を見てもらって、<フェイゲン>が安定した後に又確認してもらえば、<フェイゲン>は迷宮で或り続ける事ができるだろう。


だがその前に、大森林の問題が残っているのであるが…。

そこでシドは、3人へ尋ねる。


「魔物の事で教えてもらいたい事があるが、聴いても良いか?」

「ん?俺達で分かる事なら、知識の共有はするぞ」

ボーナムは当然だ、という様に話す。


「では“ウロボロス”という名の魔物を、知っているか?」

シドは3人へそう聞いた。

すると3人の顔色が、変わったように見えた。それを見たシドは、その続きを待って黙っている。


「シド…と言ったか。それは何処で聴いたんだ?」

ボーナムが慎重に返してきた。これは何かあるのかと、シドも言葉を選ぶ。


「誰かに直接、聴いた訳では無い。以前読んだ書物にその名を見たから、少し気になっていたんだ」


まさか<フェイゲン>から聴いたとも言えず、当たり障りなく話す。

リュウは沈黙を守っているが、リュウもその答えを知りたい様で、真剣な眼差しを3人へと向けている。


「これは…随分と勉強熱心な者も、いたもんだ…」

そう言って、3人が顔を見合わせ頷く。そして声を落として、ボーナムは続けた。


「その魔物の名は、A級昇級時に聴く事が出来るものだ。だからA級以外の者は、知らないと思っていた」

そう言ってからボーナムは、2人を見据える。


「君達はCとD、だよな?」

「ああ、そうだ」

「だから本来ならば知らない魔物のはずだ。それを聴いてどうするつもりだ?興味本位で聴く者に、気軽に教える事は出来ない」


シドとリュウは、その答えに顔を見合わせる。

この言葉を聞いただけで<フェイゲン>の言った言葉が、繋がったように感じたのである。

シドとリュウは互いに頷くと、3人の冒険者へ視線を転じた。


「それが、動き出すかも知れない…」


シドは、この3人に賭けてみる事にした。

知り合って直ぐとは言え、曲がりなりにもA級パーティである。冒険者ギルド組合から、人格や能力等に問題はないと、信頼を得ている者達なのだ。


「おいっ何を言っている」

ブライアンが、焦ったように返す。


「その書物にはこうも書いてあった。“大森林の眠れる魔物ウロボロスが目覚める時、大地の魔素(マナ)を吸い取り生気を満たす”と。だから大森林に近いここのダンジョンは、その魔素(マナ)の影響を受けたのではないかと、そう思ったんだが」


ダンジョンが大地の魔素(マナ)を使い活きている事は、当然この者達は知らない。だが、その話の大筋は、ズレてはいないはずである。


シドの言葉を聞いた3人は、酷い顔色となる。少なからず、その可能性に気付いたのであろうと、推測できた。

「復活が近いと…ウロボロスが復活するならば、それはこの街どころのレベルではないぞ…」


驚愕とも取れる声で、ボーナムは呟いた。これで多分彼らにも、事の重大さは伝わっただろう。


「なぁ、それが出てくるとは、契約の破棄を意味するという事か?」

そのブライアンの声に、答える者は誰もいなかった。


確かに、そのウロボロスが出たからと言って、それが契約の破棄となるのかは解らない。

もしもその契約に猶予と言うものがあるとすれば、契約を破れば大災害をもたらすぞという、最終の警告とも取れるのである。

此ればかりは契約当事者ではない為、誰一人として理解している者はいないであろう。


「おい、ボーナム。それならば全ての辻褄が合うな」

アドニスはそう言って、真摯な眼差しをボーナムへ向けた。


「ああ…。崩れるダンジョン。そしてウロボロスの気配を感じ始めた大森林の魔物達が、森の外へ移動をする事で、魔物の出現が多くなっている…という事だな」

3人は互いに頷き合うと、シド達へと視線を向けた。


「シドとリュウは、街の宿を決めているのか?」

いきなり話が変わった事に、言われた2人は顔を見合わせる。

「いや、まだ何も決まってはいないが…」


そうシドが話すと、ボーナムが続けた。

「では、俺達と同じ宿にすると良い。何かあれば、話もできるしな」

「そうか。そうだな」

シドは、その提案に乗る返事をする。


「では“虹色の雨”という宿にしてくれ。街の中心近くへ行けば、わかるはずだ。俺達は、冒険者ギルドへダンジョンの報告と、この件を伝えて来る。事は急いだ方が良さそうだからな」

「そうだな。了解した」


それから “デュラハンの兜”とは街の入口で別れると、シドとリュウは、ダイモスの街の中心へと向かって行ったのだった。



-----



大きな窓に背を向けて、重厚な机の上に目を落としている国王は、持っていたペンの動きを止めると、一つ息を吐いた。

王太子との会話の後も不安は絶えず、彼を飲み込もうとしていた。


コン コン


そこへ扉をノックする音が聞こえ、荘厳な扉が近衛によって開かれる。

入ってきた者はこの国の宰相で、国王の親友であり永い付き合いの、“スコルド・ファイゼル侯爵”であった。


「失礼いたします。陛下、ご報告とご相談が…」


鬱金色(うこんいろ)の髪に切れ長の翠眼を真っすぐに向け、言葉を切ったスコルドに、国王は一つ頷くと、片手を上げて掌を上下に振った。

それを見た部屋の者全員が、静かに部屋を出て行く。その扉が閉まった音と共に、スコルドが机の前まで出て一礼する。


「貴重なお時間をいただきまして、ありがとうございます」

「よい、スコルド。楽にしろ」


国王メルクリウスはそう言うと、深いため息を吐いた。

それを聞いたスコルドは、真面目な顔が消え、苦笑する。


「人払いしてくれて助かる。余り他の奴らには聞かせられん」

その言葉に、国王はスコルドを注視して、次の言葉を待つ。


「例の事業計画を再開した途端、魔物が街々に溢れ出したようだ。今までの比ではないらしい。これでもう契約とは無関係と、言い張る事は出来ないぞ」

「それ程酷いのか?」


「ああ。北部はまだ然程影響を受けていない様だが、大森林に面している領地では、洒落にならない様だ。毎日大量の、被害報告が上がっている。もはや国の存続に係わるレベルと言って良い」

「そんなに、か…」

「お前がそうやって、息子の様子を見守っている間に、国が亡ぶぞ?」


スコルドの発言はいくら親友と言えど、一国の主に対する言葉ではない。だが国王は、それを咎める事無く、諫言として聴いているのであった。


「国が亡べば“国王”も“王太子”も必要ないな。だったら今からでも、辞めてもらって構わないぞ」

スコルドは、本気とも冗談とも取れる事を言った。

「そうだな」

国王はそれにも怒る事はしない。


ある意味でこのスコルドは、国王の頼みの綱であり、こうして自分の弱い所を度々指摘しては協力して、今まで乗り越えてきた謂わば“戦友”なのである。


「ではいい加減に、勅命で計画を中止しろ。そうでなくば、アレが出て来るぞ」

「まさか…今ならばまだ、そこまでは行くまい…」

「何を言っている。今まで3ヶ月も、お前は何もしなかった。その3ヶ月は誰にとっても同じ時間(とき)。その意味する処を考えれば、既にアレが出て来ていても、私は驚かないぞ」


スコルドの言葉に、国王は二の句が継げず視線を落とす。

仮令議会で承認されていたとしても、国王が中止と宣言を出していれば、それは、ここまで大きくなっていなかった事である。


それを思って国王は、自分の愚かさを呪った。そして俯いていた顔を上げれば、それは毅然とした、国王としての顔に戻っていたのだった。


「宰相よ。もう手遅れかも知れぬが、我は勅命で命ずる。直ちに王都拡張計画を中止し、今後一切、大森林に手を出す事を禁ずる。その旨、早急に手配せよ」


スコルドは、国王に戻った親友に敬意をこめて拝礼をする。

「畏まりました。勅書(ちょくしょ)を速やかに発行し、計画の中止を発表致します」


そう言ってファイゼル宰相は、踵を返すと自ら扉を開き、王の執務室を後にする。


そして残された国王は、まだ誰も戻らぬ部屋で独り目を瞑ると、大きく息を吐いたのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 「宰相よ。もう手遅れかも知れぬが、我は勅命で命ずる。直ちに王都拡張計画を中止し、今後一切、大森林に手を出す事を禁ずる。その旨、早急に手配せよ」 約束を守らない者が王をしていたら、国が滅んで…
[一言] ボーナム氏、残念だがそれは当たっている おぉう。臣下とは中々いい関係を築いているようだけど、ちょっと遅いかな…
[一言] 一歩遅かったぞ愚王
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ