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【書籍化決定】シドはC級冒険者『ランクアップは遠慮する』~稀少なスキルを持つ男は、目立たず静かに暮らしたい~  作者: 盛嵜 柊 @ 書籍化進行中
【第五章-終章】シドという名の冒険者

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89. その地に眠る物

本日は88話と併せ、2話を更新しております。

この頁からお入りになった方は、前頁からお読みくださると幸いです。

シドは立ち上がってから漸く、<フェイゲン>を見た。


先程まで儚く揺れていた白いモヤは、気のせいか、少し明るくなった様だ。

そこでシドは<フェイゲン>に問うた。


「どうだ?」

≪ああ…。魔素(マナ)の流れを、感じる事が出来る様になった。これは以前の感覚に近いものだ。礼を言おうぞ、再生者よ≫


「そうか。成功したならば良かった」

シドはそう言うと、更に言葉を紡ぐ。


「先程、大地の魔素マナが薄いと言っていたが、それは時々ある事なのか?」

≪否。我は初めての事。400年程ここにおるが、今までには一度たりとも経験した事はないの≫


それを聴き、シドは眉間のシワを作る。

では魔素(マナ)が薄くなっているというのは、ダンジョンのせいでは無いのだろう…とすると。

シドはそこで思考を切って、<フェイゲン>に確認(・・)をする。


魔素(マナ)が薄くなったのは、いつからだ?」


≪ふむ…人で言う処の3ヶ月程前からじゃの。我には昨日の事の様に感じるが、言葉で表すならばそれ位じゃな。その頃から、大地の魔素(マナ)が、何処かに吸い取られているかの如く、入って来る魔素(マナ)が薄くなっていった≫


「3カ月前…」

シドがポツリと零せば、リュシアンもその言葉に反応した様で、シドの隣へ来て並んだ。


「3カ月前?」

リュシアンがシドに問う。

「ああ。<フェイゲン>の周りの魔素(マナ)が、3ヶ月前から薄くなっていったと言っている。先程まではそのせいで、迷宮(ダンジョン)の維持が難しくなっていた様だった」


シドのそれに、リュシアンは目を見張る。

「それって…」

「ああ。また一つ、符合する物が出たな」


その言葉に、リュシアンは泣きそうな顔を見せて黙り込んだ。

リュシアンの頭にシドが手を乗せると、<フェイゲン>が話す。


≪何か思い当たる節でもありそうじゃの≫

シドは<フェイゲン>を見て頷いた。


「ああ。大森林で何かあるのかも知れない…」

≪ふむ。それならば魔素(マナ)を取られる事もありうるじゃろう。そう言われれば、確かにあちら側が騒がしいかの…≫


<フェイゲン>の言う“あちら側”とは、大森林の方角だろう。ここにきて迷宮(ダンジョン)にまで被害が出ている事を、シドは知ったのである。


「では、他のダンジョンも困っていると?」

シドは大森林の近くに、<ウラノス>がある事を思い出す。


≪否。他も又、薄いと感じておる迷宮(ダンジョン)もいる様ではあるが…。我は魔素(マナ)の供給が元々薄かった故、ここまでの影響となったが、今おぬしが広げてくれた供給口以上を持つ迷宮(ダンジョン)であれば、耐えられるであろう。今の処は…だがの≫

「そうか…」


結局今のままでは、この国からダンジョンすら、消滅する事になるのかも知れないと、シドは背筋が寒くなる思いがした。


≪ではシドよ。礼をせねばならぬ故スキルを渡すが、今は魔素(マナ)を維持へ回しておる故、大したものは出せぬ事を先に伝える≫


そう言って<フェイゲン>は言葉を切ると、白いモヤが揺れた。

反射(レフレックス)を渡した。使うてくれ≫


反射(レフレックス)…」

≪うむ。然様≫


「それで、それはどんなものだ?」

≪それは反射させるスキル。炎を放ったものには炎を還し、水を放ってくるものには水を還す。それを出したものにそれを送り還してやるスキルじゃな≫


「これは、魔法で放たれた物に限る?」

≪否。力であれば、力も還す事になる≫


「では、全ての物を跳ね還す?」

≪そう言えるやも知れん≫


「これは、連続して使えるのか?」

≪可能。じゃが、魔力を使うもの故、魔力が無くなれば使えなくなると、覚えると良い≫


「魔力使用量は?」

≪多少…と言えるのか。その受けたものに比例する。相手の放つ魔力量と同量となる故、大きな魔法を受けた時にそれを使用すれば、その分おぬしの魔力もなくなるであろう。力であれば、その重さに値する魔力を使用する事となる。要は還すときに同等の、魔力(ちから)を使うという事じゃな≫


「では大きな魔力を使った魔法に、俺が集中(フォーカス)を掛けて還せば?」

≪ふむ…。結果が同等となるもの故、“集中(フォーカス)”を使えばおぬしの魔力消費は、その半分程となろう≫


“反射”と言えばただそれだけと思いきや、こちらから打ち還す為には、同等の魔力を使う事になるらしい。


先日の“サラマンダー”位であれば、然程の消費量ではないとは思うが、回数を重ねられれば、こちらの魔力が尽きる事になるという事らしい。

それに火の魔物に火をぶつけても、ダメージは殆ど与えられないのであろう、と考えられた。


「その反射させる相手は、選べるのか?」

≪それはその時次第。受けた魔法や力は、もらったものへ還すのみ。じゃが、それ以外であれば可能であろう≫


「それ以外…?」

≪然様、例をあげるならば。…森の中でそれを使えば、一時的に周りの景色を反射させて、己を隠すという使い方もできるであろう。この時は、魔力は微量で済むはずじゃ≫


「そうなのか…解った。礼を言う」


≪ふむ、礼は要らぬの。それにしても大森林とはまた、厄介な物が動こうとしておるようじゃな≫

その言に、シドは引っ掛かりを覚えた。


「動く…とは?」

≪大森林には“ウロボロス”が眠っておろう。それが動きだす為、魔素(マナ)に影響を及ぼしておるとしか思えぬが、おぬしは知らぬのか?≫


「ウロボロス?いいや、大森林にウロボロスが眠っているとは、聴いた事がない。そのウロボロスとは、何だ?」


≪うむ。我も見た事がある訳でも、ましてや迷宮(ワレ)の内で出現させる事は出来ぬ物じゃが…一言でいえば、“ドラゴン”かの≫

「ウロボロスは、ドラゴン?」


シドはリュシアンにも話が解るように、復唱する。


「は?」

隣でリュシアンが声を出した。


「では、そのウロボロスが魔素(マナ)を吸収して、動き出すと?」

≪その可能性もある、という事じゃ。それは“確実”ではなく、可能性の一つとして告げておる。我も詳細に、大地を覗ける訳ではないからの≫


<フェイゲン>はそう言って、モヤを揺らした。

その可能性があるだけでも、とんでもない事が起こりそうであることは解る。


「そのウロボロスとは、飛翔する物か?」

≪否。翼は持たぬ故、常には大森林を守護する物として、そこに或る。故に、何かしらの危険が大森林に及べば、それは眠りから覚める事となろう≫


「大森林に手を出せば、出現するドラゴン…」

「大きいのかしら?」

リュシアンがポツリと零す。


≪うむ。小さくはなかろうな。我には入りきらぬ大きさ故、随分と大きかろうて≫

「このダンジョンには入りきらない大きさ、らしいぞ」


「それは最下層の部屋に、と言う事?」

≪是≫

シドはその答えに、リュシアンを見て頷いた。


シドとリュシアンは、先日の<ボズ>の最下層の部屋を思い出し、50mはあったよなと遠い目をする。

そのシドの思考に気付いた<フェイゲン>は、それに答える。


≪我はそれよりも小さいで、もう少し小振りであると思うぞ?≫

と、慰めにはならないフォローをしてくれた。


それに苦笑したシドは、そのフォローに礼を言うと、リュシアンへ向き直り声を掛けた。


「これは思っていた以上に、拙い事になりそうだな。このままでは伝承で聴いた通り、安定が覆され国が亡ぶかも知れない」

シドの言葉にリュシアンは深く頷くと、2人は<フェイゲン>に向き直った。


「<フェイゲン>色々と助かった。貴重な情報に、感謝する」


≪ふむ。我も再生を頼んだ故、礼は不要であるの。今後、おぬしらの動きに因っては迷宮(ワレラ)も亡ぶやも知れん。しかしそれは、その運命(さだめ)であったと、おぬしらを見て覚悟を決める事も出来た≫

そう言って白いモヤが揺れた。


迷宮(ワレラ)は、おぬしと共に或る事を努々(ゆめゆめ)忘れぬよう。いつでも迷宮(ワレラ)はおぬしの声に、応えるであろう≫


<フェイゲン>の言葉に、シドは深く頷き返すと“感謝する”と呟く。


≪では上まで送ろう。もう内部も崩壊の恐れはないはずじゃ。まだ数日は安定せぬであろうが、以前程度には我は回復するであろう≫


「ああ。上まで送ってもらえると助かる」

≪では後ほど、“リュシアン”にもよろしく伝えてくれ。ではな、シドよ。幸運を祈っておる≫


<フェイゲン>のそれで、シドとリュシアンの姿は、その空間から消えたのであった。


いつも拙作をお読みいただきありがとうございます。

誤字報告も、重ねて感謝申し上げます。


また、“ブックマーク・☆☆☆☆☆・いいね”を頂きます事、モチベーション維持に繋がりとても感謝しております。


いつも皆さまが応援して下さって、こうして続ける事が出来ております。

まだまだ不慣れな筆者ではございますが、最後まで、シドにお付合い下さいますと幸いです。

盛嵜 柊

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― 新着の感想 ―
[一言] 虎の尾では無くガチに龍の尾を踏んじまったのか…
[一言] いわゆる光学迷彩ほどじゃないけど周囲の光景反射は便利だな 空中にいるときはほぼ完全に光学迷彩
[良い点] 反射…転移以来のやべースキル入手。さらにしれっとヤバい情報入手。しかし、一端の冒険者が情報源じゃなぁ [気になる点] 反射の挙動…具体的には発動時に動けるのかが気になる。動けた場合、対人戦…
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