86. 買取とギルドカード
翌日は雨が嘘の様に上がり、一転して晴天となった。但し、気温が低い事もあり寒さを伴った朝となっている。
2人は予備の外套を羽織り、街中を歩きつつ、冒険者ギルドを探している。
今は朝と言っても少し遅い時間で、冒険者ギルドの混雑時間は既に過ぎているだろうと、初めに冒険者ギルドへ行く事にしたのだ。
そして、道を歩いている冒険者を捉まえて場所を教えてもらい、シドとリュウは冒険者ギルドに入る。
混雑時間をずらしてはいるが、中にはまだ人がいて、その者達が立っている掲示板の前へ、2人も移動する。
そこで、一枚の掲示物が目に付いた。
『ウィルコック・冒険者ギルドより通達~ウィルコックに古のダンジョン<ガニメテ>が復活した。それはウィルコックを見渡す山にあり。集え、冒険者達よ~』
淡泊ながらそそる文言である。これはあの受付が考えた文章かも知れないなと、漠然と思ったシドである。
それを隣で見ていたリュウも、ニッコリと笑ってシドを見上げる。
2人は笑みを交わすと、依頼書の確認も始めた。
ざっと見れば、薬草採取や手紙の配達などはF級E級に。ダンジョンで採れる魔石の買取依頼はE級D級に。魔物討伐は多数残っていて、それはC級以上からとなっている。護衛依頼の紙を貼っていないところを見ると、既に定員となっているのだろう。
護衛依頼は安全な依頼である為、掲示されると直ぐに掃けるとみえる。
この街からの護衛だとすれば、主に王都までであろう。王都までの往復依頼であれば、拘束は3~5日となるはずだ。効率よく稼げる護衛は、やはり人気なのであろうと推測できた。
「D級は魔石の買取?」
リュウが掲示板を見ながら、呟いている。
「そうみたいだな。外の魔物では滅多に魔石は出ないが、ダンジョン内であれば、魔物を倒すと割と魔石をドロップする事が多いみたいだぞ。それはゴブリンの様な低レベルの魔物でも出るから、E級D級の冒険者が、浅い階層で潜って取ってくる事が出来るという事だな」
「そうだったね。(ネッサ)の街でも、こんな感じの依頼書貼ってあったよ、そう言えば」
リュウは小声で街の名を出す。それに気付いたシドは、苦笑を浮かべた。
「リュウは、ダンジョンに潜らなかったのか?」
「小さい頃に潜ったよ。それこそ、ハケットにくっ付いて行ってた」
それを聞いたシドは笑う。ハケットは御守り役だったんだな、と。
「でもそんなに滞在しないから、数週間位の間だけかな。その後に行った時はもう潜らなかったから、ダンジョンは初心者の部類だね」
「あの時は、随分と詳しい様に感じたが」
「あのダンジョンだけは、知識があったからね。偉そうだったかな?」
「そうでもなかったぞ?」
「じゃあ良かったよ。へへ」
2人は話がそれつつ、また掲示板を見る。
「俺達が受けるなら、この魔石だな」
「D級だもんね…。そう言えば今までの魔石って、ずっと持ったままなんだけど、買取してくれるのかな?」
リュウにそう言われて、シドも魔石を持っていた事を思い出す。
「俺もだな…」
そんな話を2人がしていれば、受付職員の女性に聞こえていた様で、こちらに笑みを向けていた。
シドとリュウは、この際ついでに聞いてみようと、そのまま受付まで行って尋ねる。
「魔石の買取は、どこでも出来るのか?」
と、シドがストレートに聞いた。
「ちょっと…兄さん、いきなりは失礼でしょう…」
小声でリュウが言っている。
「どうせ聞こえていた様だし、大丈夫だろう?」
後半の問いは、受付けの職員に向けての言葉である。
それに笑った職員は、頷いた。
「はい。聞こえていましたので、構いませんよ。魔石の買取は、冒険者ギルドと商業ギルドで行っています。そしてそこから、魔道具製作のギルドへと卸されています」
それを聞いたシドとリュウは、顔を見合わせて頷いた。
「そうか。では後で持って来ても良いか?」
シドは亜空間保存に放り込んだままなので、一度宿に帰って、確認作業が必要なのである。
「はい。では後程お持ちください。お待ちしております」
そう言った受付職員に見送られ、2人は冒険者ギルドを出た。
「良い事聞いたね、僕も後で確認してみるよ。大きい物はないけど、確か少しは持っていたはずなんだ」
「そうだな、後で宿に着いたら確認してみよう。それでは先に、街の観光だな」
「うん、そうしよう」
シドとリュウは、そこから色々な道に入って街中を練り歩くと、食堂で昼食を摂ってから一旦宿へと戻った。
部屋に戻った2人は、リュウは鞄の中を確認して魔石を出し、シドは亜空間保存を開き、魔石を取り出した。
「5個だよ」
と言って、リュウは5cm位のものを5個テーブルへ置く。
「随分と、数を持っていたんだな」
「うん。何かの討伐で、だったかな…忘れちゃった」
と苦笑している。
リュウはダンジョンには潜らないので、この魔石は外の魔物の物であろう。
ダンジョンの魔物と違い、外の魔物は、余り魔石を持っている物がいない。たまたま見付けるのは、解体して食べる時に出てくる位で、討伐で魔物を解体する事はまずないので、魔石を見付ければ“おまけ”という感覚になる。
その点ダンジョン内の魔物は、魔物を倒した対価として魔石のドロップが多く、5体倒せば2個位は必ず出てくるものだ。魔石を取りたいのであれば、ダンジョンは一番効率が良いのである。
「俺は7つだな」
シドが、出した魔石をテーブルへ置く。
「大きいね…」
リュウが大きいと言ったのは、7個の内の2個。他の5個は<イーリス>の起動時に出た、ゴブリンが落としたものなのでとても小さい。
そして、大きいと言われた2個は10cm位あり、その内1個はブリュー村の村長がくれた物で、それはアーマーベアの体内から、出てきたものであったはずだ。
「コレの内1つは、リュウが依頼を受けた、“アーマーベア”の体内から出てきた物だな」
「あっそうか。アレは兄さんにあげたもんね」
「ああ。その後、近くの村へ渡して食べてもらったんだが、コレを後でもらった」
「へぇ、わざわざ魔石を持って来てくれたの?」
「いや後日、経過確認で寄った時に、渡されたんだ」
「なるほどね。随分と律儀な村だったんだね」
「ああ。一緒に新鮮なトムトも貰った」
「あ~トムトは美味しいよね」
と話がそれつつシドは7個、リュウは5個の魔石を持って、冒険者ギルドへ行く為に再び部屋を出たのだった。
2人は冒険者ギルドの中へ入る。今の時間は昼も過ぎて、人は殆どいない頃であった。
シドとリュウはそのまま受付まで進み、声を掛ける。
「魔石の買取を頼む」
シドは受付の職員へ、そう言った。
その職員は、先程の職員とは違い男性である。
「こんにちは。魔石の買取ですね?」
シドの淡泊な言葉を受け流し、そう言って笑みを浮かべてシド達を見る。
リュウはそれに笑顔で答え、鞄から5個の魔石を出して、職員の前に置く。
「大きいですね。これ位のサイズですと、1個銀貨1枚となりますがよろしいですか?」
職員の言葉を聞いたシドは、やはりちょっとした小遣い位にはなるんだなと、心の中で感想をもらす。
「はい。それでお願いします」
リュウはその金額で了承し、ギルドカードを出して手続きをしてもらう。
それが終るとリュウは、シドの顔を仰ぎ見た。
それに頷いて、今度はシドも鞄から、7個の魔石を取り出し職員の前に置く。小さい物が5個と大きい物が2個である。
職員は目を瞬かせて、魔石を見ている。
「これも又、大きいですね…」
シドの出したものは、標準よりも少し大きいのかも知れないなと、職員の反応を見たリュウは思ったのであった。
「小さい魔石は、1個30ダラル、大きい魔石は、1個金貨2枚ですね」
職員の言葉に、シドとリュウは自分達が出した魔石を見比べた。
5cm位の魔石は銀貨1枚、10cm位の物は金貨2枚で、金額にかなりの差がある様に感じる。
シド達が、不思議に思っている事に気付いたらしい職員は、続けて説明をしてくれた。
「この5cm位のものは、ダンジョンで大きな物を倒せば、良く出てくる標準的な大きさなので、珍しい物ではありませんが、こちらの10cm程の物はダンジョン内でも滅多に取れる事がないサイズです。その割に、魔道具の製作では需要があるらしく、買取希望は多々ありまして、その為に金額が高く設定されております」
シドとリュウは、それを聞いて、そういう物なのかと納得する。シド達はダンジョンに潜る事もない為、魔石の相場も知らない。
シドは昔、先輩達とダンジョンに潜ってはいたが、それらのアイテムは、先輩がまとめて換金して分配してくれていた為、詳細などは全く知らなかったのである。
ここに来て、また一つ勉強になったシドとリュウであった。
その金額で買取をお願いしたシドは、ギルドカードを提示する。
手続きを終えた職員が、シドへカードを返す際、徐に話しかけた。
「貴方は、C級冒険者なのですね」
そう言った職員は困ったような笑顔を、シドへ向けたのだった。
【12月3日:修正】魔石の買取価格が安いのではと、アドバイスを頂きましたので、シドの魔石を(銀貨4枚→金貨2枚)へ修正いたしました。よろしくお願いいたします。




