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【書籍化決定】シドはC級冒険者『ランクアップは遠慮する』~稀少なスキルを持つ男は、目立たず静かに暮らしたい~  作者: 盛嵜 柊 @ 書籍化進行中
【第五章-終章】シドという名の冒険者

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85/108

85. 想定外に

翌日、ベスクの町を出たシドとリュウは、今日は次の“ウドの街”まで行く予定で出発していた。


その“ウドの街”と、ウドの南に位置する“ダイモスの街”の間にダンジョンがある為、ウドの街へ行った翌日に、ダンジョンへ潜る事にしたのである。


シドはそのウドには一度、昔寄った事がある。それは冒険者になる前の事であった為、記憶として薄っすらとではあるが、その街での事は覚えている。


当時、まだシドは少年と呼べる年齢であった為、街中では一生懸命大人に見せようと、背筋を伸ばして歩いていた事を思い出して、シドは苦笑を浮かべた。


「どうかした?」

その表情に気付いたリュウが、シドを見上げる。


「いや、ウドの街の事を、思い出していただけだ」

「兄さんは、ウドを知っているという事?」

「知っているという程ではない。昔に一度寄った事がある街でな、その時の自分を思い出していた」



「いくつ位の時?」

「15に成りたてだった」

「へぇ。兄さんにも、それ位の時があったんだね」


端から聞いていたら、意味の分からない会話になっているが、今は傍には誰もいないので、問題はない。


「リュウだって、小さい頃はあったろう?」

「そっか、そうだったね」


2人は心の隅にある不安を表に出さぬ様、互いに気軽な会話を楽しんでいる。


「じゃあ、ウドの街に詳しい?」

「詳しくはないな。もう余り覚えてもいない」

「そっか。じゃあまた、宿探しだね?」

「頼んだぞ?」

シドは口角を上げ、リュウを見る。


「わかってるって。任せてよ」

リュウも口角を上げてそれに応えながら、雲の広がってきた街道を、歩いている2人であった。


そして昼頃、シドとリュウは道の分岐へと差し掛かった。

「この道は、右だね?」

「そうだな。では丁度昼でもあるし、飯でも食うか」

「やっとだー」


少々お腹を空かせていたらしいリュウは、即答する。

そこから道の脇にある拓けた場所に座ると、誰もいない事を確認し、亜空間保存(アイテムボックス)から昼食を取り出した。


昼食は、今朝ベスクで買ってきた“肉巻き”だ。カルー味のついたライスを、濃い目の甘辛味で焼いたブウの薄切り肉で包んである物である。

店の前を通った時にカルーの匂いに気付いた2人が、それを笑顔で購入した事は言うまでもない。

畑仕事をする者や、冒険者にも喜ばれそうな一品である。


2人は温かいままのそれを、口に入れる。

「ん~!やっぱりカルーにハズレはないね」

「ああ。旨いな」


歩き続けている事もあり、濃い目の味が体に染みる。途中、茶を一口のんで口の中をリセットさせて、またそれを食べる。これは無限に入りそうだなと、シドは笑った。


シドとリュウは昼食と軽い休憩を終え、街道の右の道を進む。

暫くすれば次の分岐の手前で、空から雨粒が落ちてきた。


「あっ!降ってきちゃったね」

「その様だな。どうやら街までは持たなかったらしい」


2人は外套の上にもう一枚、雨用の外套を羽織ると、ウド迄の道を急いだ。

そして程なくすれば雨は本降りとなり、周りも暗くなる。シドとリュウは、黙々と街道を歩いていた。



「リュウ、大丈夫か?」

「うん。何とかね…ちょっと寒いけど」

「今日は宿で、熱い風呂にでも入ろう」

「そうしよう…クシュッ」


リュウが、答えながらクシャミをした。

シドがリュウの顔を見れば、少々顔が赤い気もする。


「リュウ、体が辛そうだな…」

「ちょっと…寒いから体が動かないよ」


目の前に迫る最後の分岐の所で、リュウの歩くペースが遅くなった。

シドはリュウを見て思案する。今ここで“回復(ヒール)”を掛けても良いのだが、結局その後また濡れる為に、同じことを繰り返す事となる。


「宿に付いたら回復(ヒール)を掛けてやる。それまで頑張ってくれ」

「自分でできるよ?」

「体調が悪いんだから、俺に任せてくれ」

「じゃあ、お言葉に甘えるよ」


後2時間弱で、ウドの街へは着くだろう。しかし、後2時間もあるのだ。

シドは立ち止まってしゃがみ込むと、リュウへ背中を向けた。


「乗ってくれ」

リュウは目を瞬かせてそれを見た。

「え?おんぶ?」

「ああ、自分で歩くよりは良いだろう」


濡れているシドが背負っては、更に濡れる事にはなるが、2人は既に濡れそぼっている為、今さらそれは心配していない。


「恥ずかしいよ…」

「誰も見てはいない。気にするな」


どうやら、シドに折れる気はないらしい。それに諦めを見せたリュウは、外套を開けて待っているシドの背に、潜り込む様にして乗ると、首に手を回して目を閉じる。

シドは立ち上がり、リュウを背負ってそのまま黙々と、ウドの街へ向けて歩いて行ったのだった。



-----



リュウはベッドの上で目を開く。


「あれ?どこだっけ、ここ」

そう呟いて体を起こすと、辺りを見回した。

近くにはもう一つベッドが見え、その先にテーブルが置いてあるだけの部屋であった。


「目が覚めたか?」

その声に視線を転じれば、テーブルとは逆側にある扉から、シドが出てきたところだった。

どうやらシドはシャワーを浴びていた様で、ズボンの上に軽くシャツを羽織り、髪を拭いている。


「ごめん。寝ちゃってた」

それを聞いたシドは、この場所の説明をする。


「気にするな。それで、ここはウドの街の宿だ。リュウの外套の中は濡れていなかったから、上の服はそのままだが、下は脱がしてあるから、そのまま出て来るなよ?」

「あー。ズボンの裾が濡れていたからね…ありがとう…」


既に回復魔法は掛けてある為、熱の為ではないらしいリュウが、顔を赤くして礼を言う。


「風呂に入ると良い。俺は先に済ませたから、しっかり温まってくれ」

「うん。そうさせてもらうね」

リュウは、掛け布を体に巻き付けてベッドから降りると、鞄を持ってシドが出てきた扉の中へ入って行った。



あれからシドは、リュウを背負ったままウドの街に到着し、うろ覚えの記憶で宿の場所へ向かうと、“青鷺の道標(あおさぎのみちしるべ)”という一軒の宿に入ったのである。

その宿の店主は、ずぶ濡れの2人をみて目を見開くと、受付けもせず空いていた2人部屋へと、直ぐに案内してくれたのだった。


シドはリュウが入浴している間に、宿の受付に行く。

すると先程対応してくれた店主が、シドに笑顔を向けた。


「大丈夫だったかい?」

「ああ。助かった、感謝する」

「お連れさんは、目が覚めたかな?」

「目が覚めて、今風呂を使っている」

「そうか、それは良かった」


「それで、手続きがまだだったから、これから頼めるか?」

「ああ、それはお手数を掛けたね。わざわざありがとう」

「いいや」

そう言ってシドは、宿泊の手続きをする。


「あの部屋で大丈夫だったかい?」

「ああ、十分だ」

「そうか、それならばそのまま使ってくれるかな」


「ああ。それで…2泊で頼めるか?」

「ああ、大丈夫だよ。体調が戻るまで、ゆっくりしていって良いよ」

「助かる」


店主とシドはそう会話を交わし、“後で食事を持って行くよ”という店主と別れ、シドは部屋へ戻った。

シドは部屋に入るとテーブル席へ座り、剣を出し手入れを始めた所で、リュウが浴室から出てきた。


それを見たシドは又立ち上がると、リュウの下へ行く。


「風を出す。後ろを向いてくれ」

言われたリュウはシドに背を向けると、シドは風を出してリュウの髪から水分を飛ばした。


「ありがとう」

この動作はラウカンの街を出た後から始まり、風呂上りにリュウの髪を乾かすのは、シドの習慣となっていた。


それが終ると、シドは又椅子に腰かけて剣を手に取る。

リュウもシドの向かいに座り、お茶を飲む。そしてシドの作業を見ながら、徐に話しかけた。


「明日はダンジョンでしょ?」

リュウの言葉に、シドは動かしていた手を止めてリュウを見る。


「いや、明日は出掛けないで、ウドの街にいる事にした」

「え?もしかして僕のせい?」

「そう言う訳では無い。2人共疲れが溜まっているから、明日はのんびりしようと思ってな」

シドはそう言って、リュウに微笑む。


リュウはそれに眉を下げて笑うと、“ありがとう”と一言伝えた。


「明日は天気も回復するだろうし、街の中を見て回ろう。冒険者ギルドの様子も、見ておきたいと思っている」

「そうだね。観光してくれるのは嬉しいかな」

リュウは笑みを浮かべてシドを見る。


それに一つ頷くと、シドは剣の手入れを終えて、剣を鞘に納めたのだった。


【12月2日:修正】文中に「前ノリで」という表現を記載しておりましたが、解かり辛い言葉となっておりましたので、「即答で」に修正させていただきました。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >>ウドの街 コーヒー苦いし炎に沈みそう
[一言] 前ノリで答える。 見慣れない表現でした。 Z世代の言葉でしょうか? とか、考えたり。
[良い点] 丁寧にもどかしい距離感が良いですね [一言] いつも楽しく拝見させていただいてます
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