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【書籍化決定】シドはC級冒険者『ランクアップは遠慮する』~稀少なスキルを持つ男は、目立たず静かに暮らしたい~  作者: 盛嵜 柊 @ 書籍化進行中
【第四章】この途の行方

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82. 繋がる点

ジョー達から別れたシドとリュウは、再び見晴らしの良い街道を歩く。そして数時間もすればシムノンの街の隔壁が見えてきた。


「大きいね」

「ああ。大きいな」


2人はその街の大きさに声を上げる。

視界を遮る木々もない為、街の大きさが良く分かるのである。


「サトリアーネでは一番大きな街だもんね」

「そうだな」


程なくしてシドとリュウは、街の門前に到着する。

少し寄り道をした割に陽はまだ高いが、闇雲に街中を歩けば直ぐに暗くなってしまうであろう事は、目に見えている。


ここには門前に自警団らしき人が立っている為、その人へ尋ねる事にした。


「すまないが、街の地図は何処で貰えるだろうか」

シドはその在り処を尋ねる。

するとその人物は、シド達を見て一つ頷いた。怪しい者ではないなと、チェックをしたのだろう。


「役場の窓口で貰うと良い。ここからであれば、門を入って左手を進むと直ぐに分かる」

「わかった。助かった」

「いいや。楽しんで行ってくれ」


門番と別れ街の門を潜ると、教えられた通りに左の道を歩けば、直ぐにそれらしい、しっかりとした造りの建物が見えてくる。


「あれだね」

「その様だな」


2人は開いている扉の前へ来ると、中へと入った。

中は冒険者ギルドよりも机や椅子が多く置かれ、花も飾ってある様だが、その割に無駄のない事務的な場所である。

2人は受付まで行って声を掛けた。


「街の地図は、ここで貰えるか?」

シドが受付に居た女性に声を掛ければ、その者は頬に赤みを帯びて返事をする。


「こんにちは。街の地図ですね?はい、こちらになります」

その女性は街の地図を、シドへ手渡す。

「助かる」

シドが受け取った地図をそのままリュウへ渡せば、リュウはそれを繁々と覗き込んでいる。


そしてシドは他の情報も、ついでに尋ねる事にする。

「この街で人員を募集していると聞いたが、何をする仕事なんだ?」

シドの問いに受付の女性は“ああ”という顔をした。


「人員募集の件でいらした方ですか?」

そう言う事ではないが、情報は欲しい。

「今は考え中だ。内容によれば…と思ってな」

シドは、話の流れを止めない様に話す。


「そうでしたか。人員の募集は“男性”で、体を使う仕事になります。ここから王都まで行って頂き、王都で正式な契約となります。業務内容は王都の拡張工事で、大森林地区側を広げる為の作業ですね」

とその者は教えてくれた。


「大森林を、削るのか?」

「ええ、その様ですね。王都を広げて、更に快適な街とするらしいですよ。王太子殿下のご指示の下、推進されている様です」


その言葉にシドとリュウは顔を見合わせる。それはどういう事だと、渋面を作った。


「その募集はいつからだ?」

「3ヶ月位前からですが、1か月前に一度、受付けを締め切っていました。ですが、近日からまた再開された模様です。お二人は運が良かったですね、今なら受け付けてもらえるでしょう」


そう言って受付の女性はニコニコと笑っている。

「そう…だな。助かった」

そう言って会釈すると、シドとリュウは建物を出た。



「ねえ、先に宿を取ろうよ。取れるか不安だし」

リュウは役場から出ると、すぐにシドへ提案をする。

「そうだったな。取ったら宿で少し休憩でもするか」


2人は貰った地図を頼りに、宿のあるエリアに向かう。

このシムノンでは宿屋は3か所に別れて区画がある様で、街の南東側と南西側、北西側にそれぞれ固まっているらしい。

流石に大きな街の為、ここは宿も多そうである。

シド達はシムノンへは東側から入った為、まずは近くの南東側のエリアを当たる事にした。



「う…」

リュウは歩きながら呻き声を出す。

「そう気を落とすな。まだ1区画目だ。次のエリアに行けば見付かるかも知れない」


シドは苦笑しつつも、内心はヒヤヒヤしている。やはりノラの宿屋が言った通り、街には若い女性も目立ち、南東側の宿は満室であったのだ。


2人は南西側のエリアに移動すると、ここにも10軒程の宿が建ち並んでいた。1軒1軒の規模は小さいが、数は多い。だがここでも2人は、扉を開き、直ぐに出てくるという動作を繰り返したのであった。



「うう…」

リュウの声に流石のシドも、返す言葉が見付からなくなってきたのだった。

2人は夕陽の中、足取り重く今度は北西エリアへと向かった。


ここのエリアは商店や飲食店等から少し離れ、住宅街に近い為か閑静な佇まいとなっている。

こちらの宿は少し大きめの建物で、高さもある。雰囲気からすると、先程まで見てきた宿より少々高級感があった。


「こっちの宿はモダンな建物だね」

「ああ。他に比べて高そうだな」

リュウは外観を、シドは値段の話をしている。


2人は顔を見合わせて笑みを交わすと、その中でも小さめの“白鱗閣(びゃくりんかく)”という名の宿へと足を踏み入れた。



門を潜り建物に辿り着く為の小径を歩く。足元には小さな灯りが灯されていて、小径の木々が映し出されている。

2人は建物の扉を開けて中へ入った。


その入口付近はゆったりとした空間があり、その奥に受付らしきものが見えた。


「いらっしゃいませ。ご予約ですか?」

受付にいた男性に、そう声を掛けられる。

「いや。…予約をしていないと、泊まれないか?」

シドはそう返した。


すると受付は謝罪する。

「いいえ、そう言う事ではございません。大変失礼をいたしました。お部屋が空いていれば、当日でもお泊り頂けます」

そう言って頭を下げた。


「そうか。それで部屋は空いているか?」

シドは気にした素振りもなく、それに続けた。


「本日はあと1室のみ、空いております。そちらは最上階となっており、お一人様1泊銀貨10枚となります」


リュウはそれに驚いてシドを見上げた。他の宿をまだ見ていない事でもあるし、もう少し安くても良いのでは?と眉を下げる。


「ああ、それで構わない。1泊で頼む」

リュウの心配をよそに、シドはそう答えた。

「畏まりました。ではこちらへご記入をお願いいたします」


どんどんと話が進む中、リュウは1人オロオロとしている。家族とこういった宿に泊まる事はあれど、冒険者では中々手の出せない宿である。


「いいの?」

「ああ」

2人はそれだけ言葉を交わすと、宿からの説明を受ける。


「夜もお食事をお出しいたします。その際お部屋とお食事処とで場所が選べますが、いかがいたしますか?」

シドはそれをリュウの顔で判断する。

リュウの顔は“宿の中も出歩きたい”と書いてあった。


「食堂で良い」

「畏まりました。後1時間程でご用意ができますので、それ以降でお願いいたします。お部屋に浴室もございますので、それまでごゆっくりとお寛ぎ下さい。それではご案内いたします」


シドとリュウは宿の従業員に案内され、3階へと上る。その階段も広さがあり、人が5人はすれ違えるほどであった。

リュウは目を輝かせて、キョロキョロと周りを見ている。壁にも所々に花や絵が飾られており、花の香りもふわりと感じられた。


「こちらになります」

そう言われて案内されたのは、3階へ上って直ぐにある扉だ。そしてこの階に扉は、ここしか見えなかった。

促され2人は、室内へ入る。

入口すぐは何もない余白の空間になっており、その先に扉が続く。そしてその扉を開けると、広い居室にテーブルとソファーが置かれていて、切り花も添えてある。

その部屋からも扉が4つ見え、そこからもその先に、広々とした部屋が想像できた。


「それではごゆっくりとお寛ぎ下さい」

そう言って頭を下げて、従業員は静かに出て行った。

それを見送った2人は顔を見合わせる。


「やっぱりお高い宿だったね」

「そうみたいだな」

シドとリュウは、そう言って笑った。


「まぁ外で寝るよりは良いだろう。このエリアは高そうな宿ばかりだから、他を見ても同じだろうしな。ここでは気に入らなかったか?」

シドはリュウへ確認をした。するとリュウは頭をブンブンと振って答える。


「そんな訳ないでしょ。家族以外とはこういう宿には泊まらないから、ちょっとびっくりしただけだよ。食事も期待できそうだし、ご褒美みたい」

と言って笑った。


2人はテーブルまで行くとソファーに座り、置いてあるポットから茶を入れてまったりとする。

「はー生き返る…」

リュウの言葉にシドは微笑むと、“それで”と話を切り出す。


「先程の役場の窓口の事だが、気が付いたか?」

「ん…。確か王太子は病気だったよね?」

リュウは眉根を寄せる。


「あっそうか。ここの息子の副団長は、受付けが止まった1ヶ月前から王太子が寝込んでいたから、今年は帰って来れなかったって事?」

「ノラの宿屋が、大変な事があって副団長は帰れなくなった、と言っていた。多分、そう言う事だろう」


「そして、また話が進み始めたという事は…」

「ああ、あの薬が出来たという事だろうな」

「早かったね」

「あの薬屋が早々に手配をしてくれたんだろう。特急便で大金を払えば、数日でやり取りが出来るからな」


「あの素材待ちで、準備万端だったみたいだね…」

「まあ一応、王太子の事だからな。王家も全力で対応したんだろう」

王家の為に、振り回される者達は大変だなと、シドは心の中で苦笑する。


「それで、その王太子が都を広げているんだってね」

「そうらしいな。どうやら大森林を侵食するつもりらしいが…あれは手を出してはいけない物ではなかったか…」


「僕も家庭教師に聞いた事がある。確かこの国の成り立ちで、何か聞いたかも」

聞いたという割に、覚えていないリュウであった。


「この国の建国時に、あの大森林の傍へ街を作り、そこから国が広がって行ったという話だな。確か、大森林に住む森の精霊との契約で、国に安定をもたらす代わりに、森を侵してはならない…と契約を結んだと聞いているな」

「そうそう、そんな感じ」

リュウは適当である。


「だがその話を、王太子が知らないはずはない、よな…」

「そうだよね。ちゃんと勉強していれば、知っている事だもんね」


お前が言うなよという突っ込みは、受付けないリュウなのである。


シドとリュウはそこで思考に埋まる。


するとその時、部屋にある時計が“リーン”と音を鳴らした。

その時計を見れば、夜の6時になっている。


従業員の告げた時間になった為、そこで思考を打ち切ると、一旦それは保留にして、2人は部屋を後にしたのだった。


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