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【書籍化決定】シドはC級冒険者『ランクアップは遠慮する』~稀少なスキルを持つ男は、目立たず静かに暮らしたい~  作者: 盛嵜 柊 @ 書籍化進行中
【第四章】この途の行方

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81. 情報の授受

翌日、宿を出ようと受付まで行くと、店主が出迎えてくれた。

「また来てくださいね」

と笑う店主に、2人は会釈を返す。


「ああ、そう言えば昨日の話なんですがね」

と話し始めた人物を見て、この人は話好きなのだろうなとシドは苦笑する。


「今年は帰って来ないらしいですよ。あの後、別のお客様から聞いたんですが」

何の事であろうかと、シドは次の言葉を待つ。


「ご領主のご子息は副団長でしょう?何やら王都で大変な事があったらしいんで、それで帰って来れなくなったみたいです。もし見に行こうとされていたらと思って、一応お話したのですけどね」

と店主は言う。


話を聞けば、昨日の“副団長話”の続報であるらしい。

「そうか分かった。世話になったな」

と、シドは無難にそう返事をすると、2人はノラの町を出発したのだった。



「ねぇさっきの話だと、さほど街は賑やかではないのかも知れないね。行ってみる?」

リュウも聞いた話の事を考えていたのかと、返事を返す。

「そうだな…シムノンに行っても良いかも知れないと、俺も考えていたところだ」


「じゃあ今日は、シムノンだね?」

「ああ、そうするか」

こうして今日の行先は、シムノンへと決まったのだった。結構適当な、シドとリュウなのである。


ノラからシムノンの街道は木立が少なく見晴らしが良い、所謂視界の開けた道なのである。だが小さな村は所々で点在し、人の気配は余り途切れない道でもあった。

そして、アンガスからノラへ行くより距離は短く、ノラからシムノン迄は、約5時間の道のりで到着する予定である。


その為2人はのんびりと、村々が続く景色を眺めながら歩いている。

すると道の先にある村から柵を越え、メエが飛び出して来たのを見付けた。


「何か出てきたね」

「その様だな」


2人はそれを景色の一部と捉え、のんびり観察をしている。ある意味、のどかな時間であった。


しかし、その飛び出してきたメエに向かって、村とは逆方向の遠くに見える木々の間から、何かが猛スピードで迫ってきた。

2人は顔を見合わせて頷くと、シドは集中(フォーカス)を入れてそれを視た。そしてその視界の先に見えたものは、またしてもヘルハウンドである。


「ヘルハウンドだな…2匹…3匹だ」

シドがスキルを切ってそう言えば、リュウは頷いて剣に手を添えていた。シドが何を言わなくとも、やる気の様である。

幸い今は、周辺には誰もいない。


「では、メエとの間に転移(テレポート)する。掴まってくれ」

そう言って、2人はメエとヘルハウンドの間へ転移すると、剣を抜いてヘルハウンドへ突っ込んで行ったのだった。



程なくして3匹のへルハウンドは、地に倒れる。

シドとリュウは周辺を確認し、他に気配がないと知ると剣を収めた。


「こんな村の傍に出て、危ないね…」

「そうだな」

2人が村の方角へ振り返ると、怯えたメエが途中で固まっていた。


「この魔物は、回収した方が良さそうだな」

シドはヘルハウンドを亜空間保存(アイテムボックス)へ入れると、リュウと並んでメエへ向かって歩き出した。


2人がメエに近付くと『メー』と怯えた声を上げる。

「もう大丈夫だよ。家に帰ろうね」


リュウがそっとメエに近付き、背を撫でてやる。

そして『メー』と返事をする様に鳴くと、2人と一緒に、メエは素直に村の方角へ歩き出した。



村の柵の前までメエを連れて行くと、村の中から誰かが近付いてくるのが見えた。

「こいつ又逃げ出しやがって…すまねぇ、捕まえてくれて助かったよ」


そう話をしている人物は、40代位で動き易そうな服を着た男性で、そばかすのある顔に笑みを浮かべていた。


「急に飛び出して来たので、ビックリしました」

リュウは少し盛って話す。普通の人ならビックリしただろうなぁ、と思っての事である。


「そうかーすまんかったな。じゃあ詫びに、一緒に飯でも食っていかねぇか?今から昼メシなんだ。メエの肉を焼いてるんだよ」


それを言った途端、足元のメエが鳴いた。

『メー!』


一瞬の沈黙から、哄笑が起こる。

「だからお前は食わねえって、何度言やーわかるんだよ…」


いや、人の言葉は通じないので、それもどうかと思うが…と、シドは心の中で突っ込みを入れたのだった。



シドとリュウは男性に促されるまま、村の中へと進む。

隣ではメエが大人しく歩いている。かなり賢いメエであるらしい。


「本当に、ご一緒しても良いんですか?」

「ああ、構わねぇよ。昼はいつも家族揃って、外で食べてるんだ。2人増えたところで変わらねぇから、気にしないでくれ」


その返事にリュウは笑みを浮かべると、“ではお言葉に甘えて”と嬉しそうに言う。

そして連れて行かれたところは、メエを放牧している柵が目の前にある家で、その家の前には大きなテーブルが出され、横には3面を石で囲んだ焚火で竈を作っている。


やってきた3人を見た家族は、キョトンとした顔を男性に向けていた。

「又こいつが逃げ出したろ?その時に驚かせちまったみたいでな。詫びに昼メシを一緒にと思って、連れてきたんだ」


男性がそう家族へ話すと、皆ホッとした顔で頷いた。

リュウはこっそり“盛ってしまってごめんなさい”と心の中で呟いたのだった。


「それは済まなかったねぇ」

「こいつは常習犯なんだよ~」

「いつも脱走するんだぜ」

と、男性の妻らしき女性と12~15歳位の男の子2人が、口々にシドとリュウへ話しかけてくれる。


「すいません。突然お邪魔しちゃって…」


リュウが遠慮気味に伝えると、それまで黙っていた年配の男性が話す。

「いいや、構わんよ。賑やかで申し訳ないが、食べて行ってくれ。新鮮な肉は旨いぞ?」

「そうだぞ。おやじが言った通り、旨い肉だ。食って行ってくれな」


と年配に続いて、先程の男性が話した。

どうやらこの年配の人物は、この男性の父親であるらしい。こちらは5人家族の様である。


≪リュウ、お言葉に甘えて頂こう。まずは自己紹介だな≫

シドは声を出さず、そうリュウへ伝える。


シドは自分が話す事で、雰囲気を壊す恐れを考慮し会話を遠慮している。シドの言葉使いは淡泊であるが故に、ここは会話を任せたシドである。


それにリュウが頷くと、皆に向かって話す。

「ありがとうございます。僕はリュウと言います。こちらは兄のシドです」

すると皆がそれぞれ自己紹介をして、メエの肉を頂く事となった。


大き目の肉に棒を差し入れ、それを直火で焼きながら、焼けた所をそぎ落とし皿に盛る。

それを皆で取り合って、タレに付けて食べる。


「おいひー!」

リュウは熱さにハフハフしながら、余りの旨さに声を上げる。

「この前食べた“ジンギス”と少し違って、肉がとっても柔らかくて、肉の香りも全くしないですね」


頬を高揚させたリュウが、そう感想をもらす。

シドも“旨いな”と小声で言いながら、手を止める事無く食べていた。


「そうだろう、そうだろう。希少な部位だからな」

と、それを嬉しそうに見ている家族も、手を止める事無く焼けた肉を消費していったのだった。



「お前さん達は、シムノンへ向かっているのかい?」

先程の男性“ジョー”が、シド達に尋ねる。

「はい。シムノンに行く予定です」

口を動かしつつも、リュウが返答する。


「シムノンで人員を募集しているっていうのは、知ってるかい?」

シドとリュウはその話に、食事する手を止めた。


「いいえ、知りません。何の募集ですか?」

「俺も詳しくは知らねぇが、王都で働く人員を募っているらしいんだと」

「へえ随分と沢山、王都は人が必要なんですね」

「何でも、都の工事をするらしいから、人手が要るみたいだな。この辺りでも出稼ぎに出る奴がいてな」


シドとリュウは話を聴き、“そんな事があるのか”と心に書き留めたのだった。


「仕事を探してるなら、シムノンで聴いてみるといいよ」

ジョーは笑って話す。

「そうですね、ありがとうございます」


シドとリュウは顔を見合わせて、こっそり苦笑したのだった。


たらふく昼メシをご馳走になった2人は、家族にお礼を伝え、ジョーに村の外れまで送ってもらっている。


「じゃあな。気をつけてな」

ジョーが別れの挨拶をすれば、シドはそこで声を出した。


「メエは外に出さない方が良い。近くまで魔物が来ていたから、子供達も気を付けた方が良いだろう」


それを聞いたジョーの顔色が変わる。

「何だって…さっきはもしかして…」

「一応近くに来たものは、排除しておいたから問題はないが、今まで以上に注意をした方が良いだろう」

「…あぁ分かった。ありがとう…」


「皆の前で言うのも気が引けてな。伝えるのが遅くなってすまないが、そういう事だ」

「そうだな。気遣いに感謝するよ。気を引き締めておく」


「ああ。村の皆にもよろしく伝えてくれ。世話になった」

「ごちそうさまでした」

リュウもお礼を伝える。


「いいや、こちらこそありがとうな。道中、気を付けてくれ」


ジョーの言葉にシドとリュウは会釈で返すと、シムノンへ向けて再び歩き出したのであった。


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― 新着の感想 ―
[一言] >いや、人の言葉は通じないので、それもどうかと思うが 鯨偶蹄目は割と賢いから意味はなんとなく通じてるかも 早朝に食肉市場にドナドナされる牛の鳴き声の悲しげなことよ
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