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【書籍化決定】シドはC級冒険者『ランクアップは遠慮する』~稀少なスキルを持つ男は、目立たず静かに暮らしたい~  作者: 盛嵜 柊 @ 書籍化進行中
【第四章】この途の行方

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78. 巣穴

シドとリュウは足音を響かせ、ハーピーの巣へ近付いた。

すると崖上の穴から1羽のハーピーが姿を現す。

『キュイーッ!』

ハーピーの警告音であろうか、大声を出しこちらを注視する目と視線がぶつかる。


「来るぞ」

「了解」


2人はそこから駆け出して、穴の下へ出る。穴からは更にもう1羽が出て来て、空に舞い上がった。


風の刃(ウインドブレード)

シドは先制で魔法を放つも、それが到達する前にひらりと回避されてしまう。


「むぅ…」

それを見ていたリュウも、その動きに渋い顔をした。

「速いね…」

「思ったより、な」


上空で旋回しながら、2羽の魔物がこちらの様子を見ている。


「距離を取られると、魔法が回避されるな。では…」

そう言ったシドはその場から消えると、上空のハーピーの前に転移し、剣を振う。


―― ザクッ ――

『ピキィィー!』


シドの剣は1羽のハーピーの肩に当たり、それが悲鳴を上げた。

シドはそこから消えると、地面へと戻る。


「上は俺が対応する。援護を頼む」

「了解」


シドが転移し剣を振って、戻り際にリュウが魔法を放つというサイクルを繰り返し、攻撃を仕掛ける。

だが、魔物も同じ動作では対応し始め、シドの転移先からスルリと距離を取ると、大きな爪のある足で、シドを掴まえようとする。

それをシドは剣で往なし、至近距離から魔法を打ち込む。


―― ドンッ!! ――

『ヒキャウ!』


顔面に当たった魔法に怯み、1羽が降下を始めた。

「リュウ!」

そこへシドが声を掛けると、リュウがそれに向けて魔法を放つ。


氷針筵(アイスニードル)


リュウの放った魔法は、広げているハーピーの翼に穴を開け、落下しつつも魔物は体に刺さる氷柱に、身をよじって悶えている。


「落ちるぞ、そっちは任せる!」

シドはそう声を掛けると、リュウと離れた場所へ降り立つ。落下する魔物をリュウへ任せ、シドは上空に居る魔物へと狙いを定めた。


シドは又上空へ転移し、一太刀を浴びせる。ハーピーもそれを足で往なして距離を取ろうとするが、シドもそこは魔法で追い詰める。


風の刃(ウインドブレード)


至近距離からの魔法をもろに受けたハーピーは、胸元に大きな傷を作る。

『ピキィィー!』

血を流しながら後退する魔物に、シドは地面へと戻る。


「キャー!」


リュウの声にそちらを向けば、ボロボロな翼を羽ばたいて上昇する魔物の足に、リュウの姿を捉えた。

そこへ視線を向けたシドへ、もう1羽が急降下してシドを捕捉しようと足を向ける。


それに剣で応えて間合いを取ると、リュウを捕まえている魔物の足元へ転移し、リュウを掴んでいる脚の付け根へ向け、大きく剣を薙ぐ。


―― ズバッ! ――


その片足が飛び、リュウが落下を始めると、シドは浮遊(リビテーション)を使いそこでリュウを受け止めて地上へ転移する。今の一刀は一撃(ヤーク)だった様だ。


ハーピーの太い脚が地面に落ちた。

―― ドサッ ――

『ピギャー!』

足を切られた物も、血をまき散らしながら落下を始めた。


「ごめん!油断した!」

シドから地に下ろされたリュウは、ひどい怪我も無さそうで体勢を立て直す。

「そいつは頼む」

「はい!」


片足の無くなった魔物に、リュウは魔法を放つ。


水槍(アクアランス)


その槍はハーピーの胸へと吸い込まれると、それは一声鳴いて落ちてきた。


―― ドンッ! ――


シドは視線の隅でそれを見届けると、上空の魔物の前に転移して両手を右上から振り下ろす。

『ギャピー!』

シドの剣は魔物の胸を切り裂き、続けざまにそこへ突き立てた。


『ピギィィー!!』


魔物とシドは一緒に落下し始めると、シドは転移で地に降り立つ。そして一拍遅れてハーピーも地に沈む。



―― ドーンッ!! ――


シドとリュウはそれを見届けるが、まだ剣は握ったままである。

土煙が収まり周りが見える様になってから、そっと気配を探る。


「もう…出てこない?」

「2匹だったみたいだな…」


2人は顔を見合わせ、息を吐いた。

そして倒れているハーピーへ近付くと、それらを早々に亜空間保存(アイテムボックス)へ放り込んだ。ここに放置するには大きすぎる魔物だった為である。


「巣穴も確認するんでしょう?」

「ああ。転移するから掴まってくれ」


シドとリュウは5m程の高さにある巣穴の入口へ転移する。外もすっかり薄暗くなっている為、中は更に真っ暗であった。

シドは小さく亜空間保存(アイテムボックス)を開くとカンテラを取り出す。

そして一歩ずつ、中へと入って行った。


「少し籠ってるね」

「ああ、魔物だからな」

オーク程ではないが、巣穴には動物の様な匂いが籠っている。だが冒険者ならば耐えられる程度なので、問題はない。


奥へ進むと突き当りは少し広くなっており、そこには枝や葉が積まれた寝床の様な物があって、そこにカンテラの灯りを受けて小さく動く影があった。


シドとリュウはその動く物を見付けると、剣に手を添えてゆっくりと近付く。

するとそこには、人間の赤ん坊の様な姿をしたものが、手足を動かしているのが見えた。


「え?魔物?」

「いやこれは…人間だろうな…」

ゆっくりとそこへ近付いて光を当てれば、赤子が目を瞬かせてカンテラの灯りを追っていた。


「何てこと…」

「さっき戻ってきた物が、連れ帰ったのかも知れないな。まだ衰弱している様子も見られない…」


シドが言えば、リュウはその赤子にそっと手を伸ばして抱き上げる。その赤子には、破れた布が巻き付いていた。


「完全に人間の赤ちゃんよ…」

「んま…」

その子が声を上げる。


「お腹が空いているのかしら…」

「確かモウの乳が少しあるが…」

先日のカフェスに入れる為、少しミルクを買ってあったのである。

「だが、飲ませる入れ物がないぞ…」

「う…確かに…」

と2人は苦笑する。


取り敢えずは赤子に新しく布を纏わせ、リュウが抱いている。

「布にミルクを吸わせて、それを含ませれば飲ませられるかも知れないな…」

「やってみる」


亜空間保存(アイテムボックス)から清潔な布とミルクを出し、布の角にミルクを浸すと口元へ持って行く。

すると赤子はそれをしゃぶる様にして口に含んだ。

2人はホッとしてそれを数回繰り返してやれば、赤子も落ち着いた様で瞼を閉じた。


「眠ったね」

「そうだな。では今日はもう外も暗いし、ここで一泊しよう。ここであれば中までは風も入らず、寒さも凌げる」

そう言ってシドは、リュウと赤子を見る。


「俺は見張りをする。まだ他にも個体が来ないとも限らないからな。赤子はリュウへ任せるが、良いか?」

「うん。赤ちゃんは任せて」


そう言って2人は、巣の確認を終えると入口近くまで戻り、そこで火を熾す。

そして買ったばかりの厚手のシャツで更に赤子を(くる)むと、敷物を広げ野営の準備をする。

リュウは水を出し、火にかけておく。そうすればいつでも赤子の為に、温かい湯が使えるからである。


「早く戻らなくても大丈夫?」

「戻りたいのはやまやまだが、“巣へ戻る個体がない”事の確認と、それに早く戻れば、戻りが早い事を街の者に怪しまれるかも知れない」

「そうだね。偵察だけだったらまだしも、巣迄行って赤ん坊を連れ帰ったと言ったら、変に思われるかもね」

リュウがそう言えば、隣で赤子がモゾモゾと動き出した。


「んま…」

赤子は目を開けて、灯りの方を見ている。


「リュウは今夜、大変そうだが頼んだぞ…」

「…そうだね。ミルクを出しておいてくれる?それから、布も沢山欲しいかな…」

リュウがそう言えば、シドが頷いてそれらを用意する。


今日は2人共眠る事は出来ないなと、気を引き締めたシドとリュウであった。



-----



翌朝2人は、陽が昇り始めてからもう一度巣穴の中を確認して、入口に立つ。

明るくなってきた空に眼下に広がる街は、今日の訪れを歓迎している様にキラキラと瞬いていた。


「綺麗だね」

「ああ。見晴らしが良いから、これなら距離感も掴みやすいな」


リュウは、綺麗な景色の感想を言ったはずだが、シドは目標地点が見易い事に、感心している様だ。

リュウは何とも言えない顔をして、そっと息を吐いた。


それに気付かぬシドは、リュウへ声を掛ける。

「では転移(テレポート)するが良いか?赤子はしっかりと抱いていてくれ」

「了解。準備は出来てるよ」


リュウがそう話すと、3人はハーピーの巣穴から消えたのであった。



シドとリュウが移動した場所は、街から転移をした地点、アンガスの南門近くの林である。

2人は辺りの様子を窺うと、ゆっくりと街の門へ向けて歩き出した。


「赤ちゃんって、見た目より重たいんだね」

ぐっすりと眠っている赤子を見ながら、リュウは感慨深げにそう言った。

「腕が疲れたなら、変わるぞ?」


「兄さんは、抱っこができるの?」

リュウが上目遣いにニッコリと笑う。

「う…抱いたことはないが…」 


「じゃあ、このままで大丈夫。赤ちゃんって抱き方にコツがあるからね」

リュウはそう言って、前を向いて歩いて行く。

「では任せた。落とすなよ?」

「兄さんじゃないから、大丈夫だよ」


2人は気軽な会話を続け冒険者ギルドの前に来ると、颯爽と扉を開けたのだった。


ご注意:現実では乳児へ、牛乳を飲ませてはいけないらしいです。

これはお話の中での事であり、実際にはまねをしない様ご注意下さい。

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― 新着の感想 ―
[一言] 赤ちゃんにハチミツも駄目らしいですね あー、浮遊かー。そうすれば安全に高所から彼方を見通せますね 最初の空中転移→地上転移で、特に踏ん張るような描写がなかったから、転移すれば移動の慣性は無…
[一言] 牛は体の成長優先な栄養価で人間に必要なのは脳への栄養 飲ませるなら山羊乳の方が良いらしい
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