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【書籍化決定】シドはC級冒険者『ランクアップは遠慮する』~稀少なスキルを持つ男は、目立たず静かに暮らしたい~  作者: 盛嵜 柊 @ 書籍化進行中
【第四章】この途の行方

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76. アンガスの街

「それでは…リュウさん、でしたね。準備が出来ましたので中へどうぞ」

先程の職員が戻ってきて、リュウへ声を掛ける。


「はい。じゃあ兄さん、行ってくるね」

「ああ。頑張れよ」

「うん」


リュウは元気な返事と共に、職員に続いて奥の扉へ入って行った。

リュウはこれからD級の昇級試験を受けるのである。その背中を見送りシドは踵を返すと、多数の目がシドを見ていた。

そして1人の男がシドへ声を掛ける。


「おい、あんちゃん。オークを倒してくれて、ありがとうな。助かったよ本当に…。あー俺は“エッジ”という者だ。C級でな」


そう言って頭を掻いている男は藍色の髪に藤色の眼、そばかすを付けた顔に苦笑を浮かべている180cm位の人物であった。年齢はシドより少し上位であろうか。


「俺はシドと言う」

シドはそう挨拶を返す。


「本当はオークを俺達が受ける予定だったんだが、何せ人数が揃わなくてな。どうしようかと思っていたんだ」

「そうか。アレは匂うからな…」

「そうなんだよ…今回は人的な被害が出ていなくて、然程緊急と言う訳でも無かったから皆、及び腰でな」

そう言って、エッジという男は苦笑する。


「俺達は、偶々目に付いたから対応したまでだ。それにあれは繁殖が早いから、(ほう)っておくと後が大変になる」

「そうそう。アレは“面倒()()”の最大級なんだよなー。はっはっは」

そうエッジが返すと、周りの者達も苦笑の声を上げた。


「「「助かったよー」」」

「「「ありがとうな」」」


続々と周りから声がする。

「いや…」

これには少々、シドも困惑する。本人は、そんなに大した事をしたつもりもないのである。

この街の冒険者達は人懐こいのかも知れないなと、人に囲まれているシドは斜め上に思考を飛ばしていたのだった。


「そう言えば、あんちゃんの連れは昇級試験か?何級に昇級するんだ?」

「D級への試験だ」


「は?オークの群れは2人でやったんだろう?なのにE級だったのか!そりゃ凄いな。じゃぁあんちゃんは、B級か?」

「いや俺はC級だ」

「…おいおい。そりゃー大変だったろう…オークを押しつけちまって、すまなかったな」

「いや…」


シド達の話を聞いていた周りの者も含め、皆今の話でしんみりしてしまった。

シドがC級である事は事実だが、リュウは本来B級である為そこまで大変では無かった。しかしそれを知らない者達からすれば、心配させてしまう事なのかも知れない。


「大丈夫だ。アレはそこまで強い群れではなかったからな。俺達に怪我もない。心配させてすまないな」

「そうかーそれなら良かった!じゃあ詫びに、酒でも驕るぞ?何でも飲んでくれ!」


エッジはそう言ってくれたが、まだ朝であるし、シドは酒を飲もうと思ってもいないのである。それに苦笑してシドは返す。


「気持ちだけ有難くもらっておく。それより皆、出掛けなくて良いのか?」

と、話の矛先を変えるシドであった。


「そうだな。もうダンジョンにも潜れるし皆、出掛けようぜ」

「「「おお、そうだな」」」

それを聞き、やっと解放されたと安堵の息を吐いたシドである。



シドは皆が出掛けるのを見送ってから、ギルド内の飲食スペースで茶を飲んでいる。リュウが奥に入ってから1時間を過ぎているので、そろそろ戻って来る時間であろう。


そう思って顔を上げた時、ギルドの奥の扉が開きリュウが出てきた。足取り軽くシドの下まで来たリュウは、ニッコリと笑顔を浮かべてシドを見た。


「終わったか?」

「うん。D級に昇級してきました」

「そうか。おめでとう」

「えへへ。ありがとう」


リュウは嬉しそうに笑う。そして受付に出てきた職員に呼ばれ、D級のカードを交付してもらうと、2人は職員に挨拶をしてギルドを後にしたのだった。


「これで次は、俺に追いつくな」

「でもC級はちょっと経験値が必要だから、大物を仕留めないと駄目だね」

「D級パーティに、大物依頼は出ないと思うがな」

シドがリュウに突っ込みを入れ、口角を上げる。

「あはは…そうだった…」


シドとリュウは話をしながら、アンガスのメイン通りを歩いて店々を覗いている。


「それで、どんな試験だったんだ?」

「他のギルドと一緒で、剣の扱いが主かな。剣の構えや受け流し方、回避方法とかのチェックだね。僕がサラリとやっちゃって、ちょっとビックリさせちゃったよ」

と笑いながらリュウは話す。


「そうだな。それらはリュウが身につけている事だから、簡単だったろう。C級は、それにもう少し踏み込んだ試験だったはずだが…随分昔の事で、俺は忘れたな」

と、シドは苦笑する。


「兄さんは、いつからC級だっけ?」

「んん…5年位前だったか?もう余り覚えてないな」

「え?カードに書いてなかった?」

「カードも見ないな…そう言えば」

シドが答えると、2人は顔を見合わせて笑う。


「兄さんは、そういう所は無頓着だよね…」

「まあ、人に話す事でもないし、一々見ないだろう?」

「そうだけどね」

と、リュウは呆れた顔をシドに向けた。


シドは自分の強さにも頓着せず、いつも今を全力で生きているのだなと、リュウは心の中で納得したのだった。


そして2人は1軒の店の前で止まる。今日は2人の服を、買い足す予定にしたのである。

この街はメエを飼養している事もあり、“メエの毛”を使った服が多く取り扱われていて、これから寒くなる気候の為、温かい冬服を買う事にしたのであった。


“チリン”と扉についた鈴を鳴らし、2人は中へ入る。

店内を見れば定番の形から、少し変わった物などのディスプレイが目に付いた。色も落ち着いた物から明るい色の物まで様々だ。リュウは目を輝かせて、それらを見ていた。


「好きな物を選んで良いぞ」

シドはそうリュウへ声を掛ける。

「こういう店は久しぶり過ぎて、ちょっと興奮するよ…」

「はは。確かに俺と一緒に居ると、こういう店には入らないからな」


シドは苦笑して、内心で謝っておく。女性は服などにも興味があるのだろうが、今までシドはそこまで気が回っていなかったのである。


「今日は存分に見ていいぞ」

「うん。ありがとう」


リュウはそう言うが否や、早速近くの物に手を伸ばし始める。シドはそれを眺めつつ、男物の厚手のシャツを2枚手に取るとサイズを確認し、それを店員に渡した。

もうシドの分は、コレで終わりである。


「あっちと一緒に支払うから、預かってくれ」

「畏まりました」

店員とそれだけ話し、シドはそれから楽しそうに店内を見て回るリュウを、ずっと眺めていたのだった。



その後店内を隅々まで見て回ったリュウは、男物であるが少し刺繍が入った物に決めた様で、それらを購入し店を出た。そして今はもう、すっかり昼を迎える時間だ。女性の買い物は時間が掛かるのである。


2人は昼食を摂る為、今度は食堂へ入る。町の食堂という雰囲気の、元気なおばちゃんが店内を動き回っている店だ。

2人は席に案内されると“お勧め”を頼み、出てきた料理を楽しんでいる。


今日のお勧めは、メエの肉と大きく切った野菜を焼いて盛りつけた“ジンギス”という料理だ。肉の上から甘酸っぱいソースがたっぷりと掛けてあり、そのしっとりとしたソースがそれらに良く絡んで、奥の深いガッツリとした味となっている。

これは冒険者達も好きそうだなと、シドは思いながら舌鼓を打つ。リュウも美味しそうに食べながら、“メエは初めて食べた”と満足そうである。


こうしてこの街の名物料理を堪能した2人は、街の南門へ再び向かうべく、街中を歩き出した。

だが、先程迄ののんびりとした雰囲気とは異なり、何やら落ち着かない雰囲気が漂っている気がする。道行く人も不安そうな顔をして立ち止まり、数人が集まって話し込んでいた。


シドとリュウは視線を合わせ顔を横に振ると、そのまま屋台の方へ進み2人は菓子屋の前で足を止めた。


目の前には、丸く山の様な形で真ん中に穴が開いている、“シポン”というフカフカした菓子が並び、それを切り分けて売っている屋台がある。リュウの嗅覚が刺激され、ここへ辿り着いたのだった。

リュウはシドを見上げ、何か言いたげである。


「おやじさん、これを4切れもらえるか」

「あいよ、毎度あり」

リュウの嬉しそうな顔に、シドは目を細める。菓子も甘いが、シドもリュウに甘々なのである。


店主は商品を用意しながら、シド達に話しかけた。

「お客さん達は冒険者かい?」

「ああ、そうだ」

「だったら話を聞いてるかな?あの話は本当かい?」


シドとリュウは顔を見合わせる。あの話とはオークの事であろうか…。

シドは確認の為の返事をする。


「何の話だ?」

「ああ、この街の北にある隣町の“ロペス”の事だよ」


先に冒険者だと確認をされた事を考えると、その話は冒険者ギルドへ行っている物なのだろう。だがシドとリュウは先程迄ギルドに居たが、そんな話は聞いていない。


「知らないな」

と、シドは慎重に答える。


「そうかい。さっき話が入ってきたばかりだから、知らないのも当然か…。いや、悪かったね。はい、お待ちどおさま」

そう言って店主は“シポン”をリュウへ手渡した。


「情報を持っていなくて、済まなかったな」

「いいや、いいのさ。また買いに来てな」

そう言った店主に見送られ、2人は再び街中を歩きだした。


シポンを抱えているリュウは、隣のシドを見上げる。

「街の雰囲気もそうだけど、さっきの話は気になるよ…何かあったんだろうね」

「ああ。そうみたいだな」

2人はゆっくりと歩きながら考え込んでいる。そしてシドはリュウを見る。


「気になるなら又、ギルドへ行ってみるか?」

「…寄り道になるけど、良い?」

「ああ。別に急ぐ旅でもないからな。構わないぞ」

「じゃあ、ちょっと寄ってみようよ」

「承知した」


こうして歩いている間も、街の雰囲気は不安が見て取れる。隣町の話で持ち切りなのだろう。

2人は先程来た冒険者ギルドの扉を開け、中へと入った。


朝に居た冒険者達はダンジョンに潜りに行った為に、ギルド内は人も疎らになっている。

受付には、先程リュウに対応してくれた女性職員と、他の職員が立って話し込んでいる。その者達には笑顔はなく、真剣な様子であった。

そして入ってきたシドとリュウを見付けた受付職員は、2人へ心もとない笑顔を向けた。


「D級の“グリフォンの嘴”…お2人はまだ街にいらっしゃったのですね…」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 隣町で何があったのか気になるな シド絡みじゃないよねw ホンデ昇級おめ~ パーティーランクもすぐ上がりそうだw [一言] それほど臭いならオーク肉は食えないなw
[一言] 二人はランク詐欺だしねぇ
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