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【書籍化決定】シドはC級冒険者『ランクアップは遠慮する』~稀少なスキルを持つ男は、目立たず静かに暮らしたい~  作者: 盛嵜 柊 @ 書籍化進行中
【第四章】この途の行方

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72. 落としどころ

いつも拙作をお読みいただきありがとうございます。

この辺りはサクッと進めたいので、本日は2話を投稿予定です。

次話は、本日の20時過ぎの更新となります。

お付き合いの程よろしくお願いいたします。

シドと別れたケルベロスの尾の2人は、足取りも軽く冒険者ギルドの扉を開くと、中に入って行った。

ロバートとコナーは、昨日報告した依頼の入金を確認する為に来たのである。

2人は笑顔を浮かべて、受付に行く。


「やあ、俺達の報酬を貰いに来たんだが、“ケルベロスの尾”の金額は確定しているかい?」

ロバートはそう受付に話す。

それを聞いた受付職員は、即座に浮かべていた笑顔を消した。


「お二人には、ギルドマスターからお話があるとの事ですので、どうぞご一緒に来て下さい」

そう言って歩き出した職員の後ろを、ニヤニヤしながら2人は付いて行く。


コンッ コンッ

「おう、入れ」


ギルドマスターの執務室に案内された2人は、ソファーへ促されそこへ座る。


「C級“ケルベロスの尾”のロバートとコナーだな」


ギルマスの声に嬉しそうに2人は返事をする。

「はい。今日は報酬を貰いに来たのですが、わざわざ執務室にまで通して貰えるとは、思ってもいませんでした。そんなに喜んで貰えたんですか?」

ロバートはそう言って両手を揉んでいる。


だが、ギルマスには笑顔は一つもない。どう思ったらそんな勘違いが出来るのかと、ギルマスは頭を振った。


「今日は、賛辞の為に呼んだ訳ではない、その逆だ」

「はい?逆とは何ですか?」

「…お前さん達の行動を、改める為に呼んだと言っている」

「えーと…意味が分からないのですが…」

ロバートの隣でコナーが声を出す。


「お前達は、今回の依頼主に対して失態を演じた。その為、依頼主はもうお前達には金輪際、仕事を依頼したくないそうだ」

「はえ?何でです?俺達は任務を真面目に果たしました!」


「本当に無自覚なんだな。いいか良く聴けよ?帰りに出た魔物は、お前達は1匹も倒していない。その魔物はヘルハウンドらしいから、元々がお前達C級では無理な魔物だったんだろう。だが、あろう事かD級パーティに始末をさせたらしいじゃないか。お前達はC級パーティなのに何をしていたんだ?」


怒るでもなく怒鳴るでもなく、ギルマスに淡々と言われる言葉は、普通は心に染みるはずである。

が、しかし。


「俺達護衛全員で対処したんです。4人で対応した事に間違いはありません」

そう言い切る2人だった。


ギルマスは、これは何を言っても無駄であると即時に判断し、説明を止めた。


「お前達は普段から、酒を飲むと問題を起こしていた。そして今回は、他人の手柄を自分達の物にしようとしている事が分かった。従って、C級“ケルベロスの尾”はD級へ降格する。そして今回の報酬の金は、依頼主からの希望で、一人銀貨5枚から3枚へ減額して振り込まれるから、後日確認する様に」


「「は?!」」

2人はギルマスの言葉で固まった。


「あのD級の2人が何か言ったんだな?俺達の手柄を横取りしようとして…」

ロバートがポツリという。


「いい加減にしろ!あの2人はそんな事はしていない。これは今までにも同じ事があったと判断し、他の者達への聞き取りをした結果と、今回の依頼主からの話を吟味しての事。他の冒険者に因縁をつけるのはやめろ、これはお前達の行いの結果にすぎん。他人をどうこう言う前に、自分達の行動をしっかり考える事だ」


そう言ってギルマスは、目の前の2人を睨め付ける。

「それから当分お前達には、護衛依頼は無いと思え。信用を回復させてからでないと、受ける事は出来ん。以上だ」


「そんなぁ…待って下さい!」

「以上だ、と言っている」


ギルマスの念押しに困惑しつつも、2人はギルマスの執務室を後にした。

扉が閉まった音を拾ったギルマスは、ソファーの背もたれに背中を預けて一つ息を吐く。


「はーーーー。めんどくせー」


重い声と一緒に一気に脱力する。


ギルマスは、今朝受け取った依頼主からの連絡を受けて矛盾に気付き、数組の冒険者へ聞き取りを行っていたのであった。朝一から今まで、とても頑張っていたのである。


そして“ああ”と言って

「あのD級には、ちゃんと詫びを入れなきゃいかんな…」

と呟き、項垂れたのだった。


どうやらここのギルマスも、相当な苦労人の様である。



-----



シドは甘味を片手に、リュウの待つ“雀のお宿”へ戻る。


コンコン

「はーい」

「俺だ」

カチャリと扉が開き、リュウが顔を出す。


「おかえり」

「ただいま」

何だかこのやり取りは、新鮮である。


「どうだった?」

「報告は済ませたから問題ない」

シドが返事をすれば、リュウの目線はシドの手に向けられていた。シドは一つ笑うと、その箱をリュウへ渡す。


「頼まれていた甘味だぞ。“シクリーム”だ」

「わー!可愛い名前、ありがとう!」

もしリュウに尻尾があれば、今頃はブンブンと振っていただろう。満面の笑みを浮かべたリュウは、“超”が付くほどご機嫌に見える。


「食べて良い?」

「ああ。その為に買ってきた」

シドの答えにテーブル席へつくと、早速箱の中身を覗き込む。


「あっ、お茶を入れなきゃね。兄さんも座って」

リュウはそう言うと、テーブルの上のポットから、お茶を2人分注いだ。


シドはリュウの前に座ると、それを有難く受け取り飲む。リュウを見れば箱の中から1つ、丸い菓子を取り出していた。


「プレーンと果物、それとチヨコと言う大人の味がある」

「ほぉ、チヨコもあるんだね。楽しみ」

流石にリュウは名前だけで、味のイメージが付いた様だ。そして、その手に持っている丸い物に一口齧りついた。


「んん~!おいひぃ!」

どうやらリュウの口に合った様で、何よりである。


「これはチーピが入ってるよ。香りが良いね」

リュウは菓子に夢中だが、シドはそこへ声を掛けた。


「リュウ、もう体調は問題ないか?」

「ん、らいじょうぶ」


もぐもぐと小さな口を動かしながら、リュウは返事をする。

それを、目を細めて見ながらシドは話す。


「急だが、今日の夕方までにはここを出る予定にするが、良いか?」

シドの言葉に、リュウは顔を上げた。


「それは急だね…」

「ああ、すまない。本当は“後数日は”と考えていたんだが、例の冒険者達とギルドの帰りに又会った。奴らとは遭遇率が高い気がして気が休まらない。出来ればもう会いたくないタイプの人間だ」


「そう言う事ね。その気持ちは解るよ…。この街の人達も大変だね。今まで良く一緒にやってきたよ…」

リュウの言葉にシドは苦笑する。


「まあ、そう言う事で出発したいんだが、良いか?」

「いいよ。少し早目に出て、買い出しだね?」

「はは。そうしよう」


2人は甘味で小腹を満たすと、借りていた部屋を片付けて、荷造りをした。


「では行くか」

「うん」


こうして、少しの間滞在していたラウカンの街を、後にしたのだった。



-----



シドとリュウは西へ向かって歩いていた。昨日歩いたばかりの道である。

その道なりにある隣町は、歩いて約5時間であった事から、それを踏まえてリュウはシドに尋ねる。


「今日は野営になる?」


リュウはシドを見上げて首をかしげている。確かにまだ陽は出ているが、後5時間も経てば、すっかり夜の帳が下りているだろう。


「いや、今日も宿に泊まるぞ。リュウも、体調が万全ではないしな」

シドの言葉にリュウは瞬きをする。

「道の途中に、宿ってあったっけ?」

リュウは昨日の道中の事を思い出しているらしく、難しい顔をしている。


「そんなに考える事でもないだろう?“飛べば”良いんだからな」

「大丈夫なの?魔力量とか、まだ長距離の確認はしていないんでしょう?」

シドの言葉にリュウは顔を上げるが、心配そうな顔である。


「ああ。だが今まで使ってみた感じで、何となくだが魔力量と距離の感覚は掴めたみたいだ」

そう言って、リュウに微笑みかけた。


「街中での転移であれば、俺の魔力量の1/5程。先日の<ガニメテ>からの転移は1/3位の使用量だった。だから集中(フォーカス)を掛ければ、街2つ分程の距離は約1/2の魔力使用量になると思う」


シドは今まで何度か使った転移(テレポート)で、その度に使用魔力の量を確認していた。大凡の目安としては、そんな感じになるはずだと、そう考えている。


「ほ~。やっぱり魔力量が多いと、出来る事が多くなるんだね…」


そう言ったリュウの魔力量は、シドの見立てではシドの魔力量の約6割の保有量と見ている。魔力保持者全体の平均に近い値であるが、貴族の中で見ると本人の言う通り、確かに少ないのかも知れない。


シドはリュウに顔を向けて伝える。

「この先の林に入ってから、転移(テレポート)しよう。転移(テレポート)先を先日のウィルコックの森の麓にすれば、人にも会わずに済むしな」


「わかった。じゃあ今日は、ウィルコックに泊まるんだね?」

それを聞き、シドは口角を上げる。


「ああ。また同じ宿に泊まるか?」

「え?昨日の朝、発ったばかりの人が又来たら、変じゃない?」

「当然、ビックリするだろうな」

「そうだよね~」


2人は何でもない事の様に普通に会話をしているが、もしこれを人に聞かれでもすれば、きっととんでもない話に聞こえる事は間違いないだろう。


だがシドとリュウには、それは些細な事なのである。


追記:ヘルハウンドの設定について

14話(報告と報酬)に登場していたヘルハウンドが、今回では若干設定が異なっておりましたので、69話(ベテラン冒険者)と14話の設定を統一し、ヘルハウンドは「B級討伐対象・外見は犬に似た姿」とさせて頂きました。

こちらをお借りして、お詫びと訂正をさせていただきます。

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― 新着の感想 ―
[一言] ケルベロスコンビは、多分死ぬまで理解できないだろうなぁ
[一言] >ケルベロスの尾 あー、小説をはじめ創作で出てくることは稀ですが、現実にはたまに居ますね、こういった斜め上の自己中心的人物。 本人には(たぶん)悪意や害意は無く、それでいて何でもかんでも自分…
[一言] 転移持ちだと逃げるのも楽そうですね。魔力コストの計算が必要ですけど ケルベロベロスの酔いどれオジサンたちはちゃんと理解できたんですかね?商会にイチャモンつけに行ったりしてないといいのですが…
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