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【書籍化決定】シドはC級冒険者『ランクアップは遠慮する』~稀少なスキルを持つ男は、目立たず静かに暮らしたい~  作者: 盛嵜 柊 @ 書籍化進行中
【第四章】この途の行方

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71. 我が道を行く

「ごめん!」

少しすれば、しっかりと服を着たリュウが浴室から出て、声を発する。


「体は大丈夫なのか?」

シドは体調をまず確認する。


「体は何ともないよ。昨日は、お風呂で寝てしまっていたんだね…」

「ああ。長い時間出てこないから見に行けば…寝ていた様だな。危ない所だったぞ」


「うう…ごめん。…それで、見た?」

「何を、だ?」

「えっと…体…」

「体はいつも、見ているぞ?」

「違うよ…はだか…よぅ」

音量を下げつつ、でリュウが呟く。


「まぁ見ない訳にもいかないからな。有難く拝見させてもらったぞ?」

そう言って口角を上げる。

「大丈夫だ。それ以上は何もしていないから、安心してくれ」


シドがそう伝えると、リュウは複雑そうな顔をする。

「私って魅力がないのかしら…」

そう呟いて、もっと色々と育てないと駄目なのかも知れないわね。と、違う方向に向かうリュウは、やはりリュシアンなのである。


それが聴こえていないシドは、話を続ける。

「リュウは依頼の疲れも出たんだろうし、今日は休みにしよう。一日のんびりしていて良いぞ?その間に俺は、ギルドに依頼の報告へ行ってくる」


そう言ってリュウの顔をしっかりと見る。

「この街には少し長居をし過ぎたようだ。それで、そろそろ移動しようと思うが、良いか?」

シドの真剣な顔を見て、リュウはしっかりと頷く。


「いいよ。ここのお風呂は、眠りこけてしまう可能性も出てきたしね」

そう言い訳して、ニッコリと笑う。

「はは。では俺が戻ったら、打合せをしよう。それまで部屋で休んでいてくれ」

「分かった。帰りに甘い物を買って来てね」

「ああ、了解だ」


2人はそこまで話してから、宿の朝食を摂りに食堂へ行く。

朝食は白く柔らかいパン、崩してふわふわにまとめてある卵と、茶色のスープにサラダである。

茶色のスープを一口飲んでみれば、澄んだスープからは想像以上の奥行きと、ほんのりとした甘みを含んだホッとする味で、口の中から鼻に抜ける香りが、何とも食欲を誘う。


「旨いな…」

「美味しいね」

2人は顔を見合わせてから、ゆっくりと美味しい宿の朝食を楽しんだのだった。



-----



その後、シドは1人で冒険者ギルドへやってきた。冒険者ギルドの使い古した重厚な扉を開け、中へと入る。

今日は、朝の混雑時間を疾うに過ぎた為、今は人も疎らとなっていた。シドはそのまま受付へ直行する。

すると受付の女性が、シドへ笑顔を向けた。

今日はどうやらソフィーではないらしい。


「おはようございます」

「おはよう。すまないが、依頼の完了報告に来た。手続きを頼む、D級のグリフォンの嘴という者だ」


シドがそう告げると、受付けの女性はパラパラと書類を捲った後、該当書類をカウンターの上に出した。

「こちらですね」

そう言って、書類へ視線を向けている。


「今朝、依頼主から依頼終了報告があり、C級ケルベロスの尾からは既に昨日、報告を受けていますが…」

そう言って受付職員は、眉を下げる。


「どうも、“依頼主”と“ケルベロス”の報告とでは、少々食い違いがある様で、“グリフォン”の報告を待って精査する様にと、ギルマスから指示がでています」

そう言ってシドの顔を見た。


「最初の報告は“ケルベロス”で、完遂報告だったのですが、今朝届いた依頼主からの連絡では、“ケルベロス”は減額、そして“グリフォン”に対しては…討伐した魔物を売ったお金から出た取り分を加算する、との事で、一人当たり事前の報酬である銀貨3に、銀貨3枚を足される事となっている様です」

そこで一度、ため息を吐いた。


「それに追記で、“ケルベロス”にはもう依頼を受けさせないでくれとまで、書かれていまして、“ケルベロス”と“依頼主”との内容を見比べても意味が良く分からず…。何かお分りですか?」


シドはどうした物かと思いつつも、帰りにあった出来事をそのまま伝える事にした。


シドからの話を聞いた受付職員は、渋面を作った。

「大筋は理解いたしました。そういう経緯で依頼主からの話に繋がるのですね…。この件は上に報告して対応させていただきます。ですが、“グリフォンの嘴”の方への報酬は、この依頼主の内容のまま進むと思いますので、後日こちらへ入金させていただきますね」


「わかった。よろしく頼む」



こうして報告を終えたシドは冒険者ギルドを出ると、リュウから頼まれている“甘い物”を探すために、南側の商店通りを歩いて行った。


暫く歩くと甘い匂いが何処からともなく漂ってくる。

シド自身は甘い物も嫌いではないが、1つか2つ摘まむ程度しか食べない物の為、この匂いだけで腹がいっぱいになりそうだなと、眉を下げて笑った。


そして人が並んでいる様子の、1軒の店に入る。

シドはこういう類の店に詳しくない為、人の多さを見て入店したのである。


ここの店内のケースには丸い物が沢山並び、その前に立つ店員は買い求める為に並ぶ女性達を、次々と手際よくさばいて行く。

多少人は並んでいるが、この様子では然程時間は掛からなそうだなと、シドはその列の後ろに並んだ。


すると1人の店員が近付いて来た。

「いらっしゃいませ。お客様には先にお品書きをお渡しておりますので、この紙の中から選んでお待ちになって下さい」


シドは、その手渡された紙を見た。

するとケースの中の丸い物の、種類や味の説明がされている紙だと分かった。

なるほど。並ぶ人達の流れが速いのは、この紙を見て先に買う物を決めているからなのかと、感心したシドであった。


その紙を読んでみれば、この店の商品は全て“シクリーム”という物らしい。

同じ形でも色々と味がある様で、“プレーン”に始まり、“チーピ”・“ストベリ”・“ナババ”・“チヨコ”の5種類があると書いてあった。


“プレーン”は、手の平サイズの丸い物に白いクリームが挟んであり、他はそれぞれ、そのプレーンにカットされた果物が一緒に挟んであるらしい。“チヨコ味”には“おとなの味”と書いてあったので、シドはコレを自分用に一つ多く買おうと心に決めたのだった。


結局シドは全種類の味と自分用を一つ買い、四角い紙の箱に入れて持って帰っている。

何だかんだ言いつつも、リュウに甘いシドであった。


シドは宿屋へ戻る為、北へ向かって歩いている。すると前方から昨日見た2人組の冒険者が、こちらへ向かって歩いてくる姿が見えた。シドは嫌な予感がしたが、既に向こうも気付いたらしく薄ら笑いを浮かべている。

顔を合わせたくはなかったが、ここはこのまま進む事にした。


「やあ、奇遇だね」

そう言ってコナーはシドへ声を掛けた。やはり話しかけられてしまった様だ。

仕方なくシドは会釈をする。


「あぁそれでね。昨日の魔物の代金を貰える場合は、俺達に入れる様にギルドに伝えてあるから、そのつもりでね。俺達皆で倒したんだから、先輩に譲るのは当たり前だろう?」


言われた言葉の意味が良く分からないシドは、そのまま黙っている。

「聴いているのか?」

「ああ」


「全く最近の若い者は口の利き方もなってない。まあ、俺達は器が広いから、怒りはしないけどな」

そう言ってロバートが笑う。


2人は絶妙な加減で、交互に話している。

この2人は随分と長い付き合いなのだろうなと、シドは全く関係ない事を考えていた。


「じゃあ俺達は、これからギルドに入金を確認しに行く所だから、忙しいんだ。また一緒に仕事をしような」

そうコナーが言うとシドの返事も待たずに、2人は脇をすり抜けて冒険者ギルドの方へ去って行った。


「何だったんだ?」

シドは頭を傾けつつ、大事そうに箱を抱えてリュウの待つ宿へと戻ったのだった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 転生日本人がいたら「千代子味?」とかなってそうだ [一言] 奴らが気づく前に宿を引き払うんだ!
[一言] もう一波乱ありそうな予感…… さっさと立ち去るに限りますね!
[良い点] あーコイツらダメだw 早いとこ逃げたほうが良さそう 絶対文句言いに来るよな 減額は・・・どうなんだろ? [気になる点] リュシアンてスレンダータイプだったっけ? [一言] リュシアンがん…
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