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【書籍化決定】シドはC級冒険者『ランクアップは遠慮する』~稀少なスキルを持つ男は、目立たず静かに暮らしたい~  作者: 盛嵜 柊 @ 書籍化進行中
【第一章】始まりの迷宮

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7. 野営と夕食

今回、馬車には御者のロニ、マッコリーとデュランが乗り込み、護衛は徒歩移動である。


馬車の移動速度は割とゆっくりで、体力のある冒険者は難なくついて行ける。冒険者の移動の基本は自分の足である為、かえって乗馬が出来る者は殆どいない。冒険者は健脚なのである。


出発して暫くは整備された街道を歩いているのだが、この少し先の路から少々狭くなり分岐がある。その為ペリンが声を上げた。


「テレンス!先に行ってくれ!」

「了解!」


そう言われたテレンスは、走り出してすぐに見えなくなった。

身体強化持ちだろう、速い。


「何かありましたか?」

そう言って馬車の窓から、マッコリーが顔を出す。


「テレンスは偵察を得意としていますので、先に行って状況を確認してもらいます」

「そうなのですね、ありがとうございます。助かります」

ペリンとマッコリーの話を聞きつつ、パーティの安定感を見たシドだった。


コンサルヴァの街からキリルの街までは、歩いて2日程。道中も整備された街道が大半を占めており、所々の難所はあるものの、特に厳しい道のりではないはずだ。


護衛依頼を受けてから地図での道筋確認や迂回ルートなど、慣れた冒険者であれば行っている事なので、予めパーティ間で打合せ済みなのだろうと思えた。



-----



そして所々で休憩をとりつつ、陽も傾いてきた頃。

「今日はこの先で野営としましょう」

マッコリーが馬車の窓から声を掛ける。


「了解しました。少し先の開けた場所にしましょう」

ペリンも目的地を把握していたしマッコリーも商いで何度か通っているのか、野営の場所は決めてあったらしくそんなやり取りをする。


着いた場所は街道沿いから少し林に入った場所で、そこには開けた平地があった。街道も目視できる位置である。

そこで馬車を止めると、御者のロニが馬を外して世話をする。その横でマッコリー達は野営の準備を始めた。




「ペリンさん、少し打合せをしましょう」

マッコリーとペリンは、打合せに入るらしい。


「俺は薪を拾ってくる」

そう言ってテレンスは林へ向かって歩き出す。

「俺も手伝うよ」

ミードが声をあげると、マッコリーから声がした。


「すみません。それではデュランも一緒に、連れて行ってもらえますか?」

「承知しました」

そうミードが返事をすると、デュランがミードに近づく。


「よろしくおねがいします」

「はい。じゃあ行きましょうか」

「はい!」

テレンスと合流し、3人は林の中へ入っていった。


「では俺は水を汲んでくる」

そうシドが言うと、マッコリーが馬車から小振りな甕を出してくれた。それを受け取り川の方へ歩き出すと、ルナレフが「俺も」と言ってついてきた。

この場所も地図での確認はしていたが、耳をそばだて川の音を聞きながら進む。



「なぁシド」

やはり、ルナレフはシドと話したかったようだ。


「何だ?」

「シドは3年前にもコンサルヴァに居たんだろう?」

「ああ、居たな」

「コンサルヴァのギルドには所属しないのか?」

「…俺は、ソロで国中を廻っている方が性に合うらしい。何処かに所属するつもりはないな」

そう答えると、更にルナレフは聞いてくる。


「何故ソロなんだ?パーティで活動した方が良くはないか?」

「……まぁ色々とあって、ソロが楽だからな。状況が変われば、考えるかも知れないが」

「ふ~ん」

そう、とルナレフは言った。



川はすぐ傍にあった。

今日野営する場所は皆が良く利用する場所であるのか、水場も近く一泊するには便利な場所だった。


川へ着くと水を汲み、周りの様子を窺う。

川沿いには林が続いていて見通しは少し悪い。今のところは何の異常もないので大丈夫だろう。


そう一考して馬車方向へ歩き出すと、ルナレフが付いてくる。彼は特に何もしない様だ。

シドは苦笑して話しかける。


「ルナレフは魔術師だったな。属性はなんだ?」

「あー俺は、火と風だよ」

「そうか、2属性か」

「そういうシドも魔力持ちだよね。魔法が使えるんじゃない?」


ある程度の魔力を持つものは相手が魔力持ちかが判る為、そうルナレフが聞いてきたのだ。


「ああ。俺は風だ」

「そっか、俺とひとつ一緒だな」

へへっとルナレフは笑った。


ルナレフとは街を出てからの間、少し話した程度であるが割と砕けた人物の様だ。初対面の時は表情が硬かったが、すぐに打ち解けてくる。慣れてしまえば、少しお調子者タイプなのかも知れない……忙しい奴だな、とシドは心の中で分析していた。




馬車まで戻るとすでに、薪を拾いに行った者達も戻っていた。

3人で拾ったので、割とあっという間だったのかもしれない。


「お帰り」

声を掛けてきたのはペリンだ。

「ただいま」

シドとルナレフが返して、近づいて行く。


馬車から少し離した場所に薪や小枝が積んであり、隣ではすでに火を熾してあった。もうすっかり空も暗くなっている。


「では食事にしましょう」

そうマッコリーが声を掛けるも、食事の用意はまだ出来ていない。ペリン以外が不思議そうな顔をして、マッコリーを見ている。


「あぁシドさん、お水はこちらに置いてください」

「承知した」

マッコリーの指示を受けシドも動く。

「皆さん、火の周りにお座り下さい」


「父さん、おなかすいた…」

マッコリーの隣に座ったデュランが、ポツリと呟いた。

デュランの今日初めての自己主張である。マッコリーの言い付けを守り、今まで大人しくしていたのだ。

因みに今回は、言葉の刃は振り回していない。


「では」

マッコリーは微笑んでから続ける。




亜空間保存アイテムボックス




わざわざ口に出して詠唱したのは、周りを驚かせない為であろう。

急に空間に穴が開いたら、皆が驚いてしまう訳で。


「「「「おぉーー!」」」」


続々と空間から出てくる料理に、野太い歓声が上がる。

「今夜は野営予定だったので、予め妻に、用意してもらっていました。妻の料理は美味しいのですよ」

そうニッコリと笑ってマッコリーが話す。


出てきた料理は、トマトベースに肉や野菜がたっぷりと入った汁物と、パンに薄切り肉や野菜が挟んである物、豆が和えてあるサラダや果物だった。


熱々の物には湯気が立っている。出来立てを収納していたのだろう、温め直す必要もない。

予め用意してあったテーブルの上に大量の大皿料理が置かれ、視覚的にも破壊力は抜群である。


「取り皿はこちらです。皆さんで好きなだけ装って食べてください。どうぞ」


言った途端にデュランが行く。そうとう腹ペコだったらしい。

「こらデュラン…」

とマッコリーがあきれた声を出した。


「ははは。良いですよ、マッコリーさん。デュラン君も今日は動いてお腹がすいているでしょうしね」

皆が微笑ましく見守る中、気の利くペリンがフォローする。流石リーダーである。


その会話にデュランがマッコリーの顔をチラリと仰ぎ見ると、苦笑しつつも肯定の頷きに笑顔を見せた。


「外で食べると余計に美味しくなるぞ。沢山食べろよ」

「うん!」

ルナレフが言えば、デュランは嬉しそうに頷いた。


そして皆が食事を持ち、焚火の前で食べ始める。


「マッコリーさんは“亜空間保存アイテムボックス”持ちだったのですね」

マッコリーの隣に座っているミードが、徐に話し出す。


「はい。しかし私の容量は下位なので、持てる量は他の方と比べると少ないのですが、それでも買付や納品に便利なので重宝しています」

「あぁ、だから今回の馬車の荷もさほど多くない、という事ですか」


今回一緒に移動している馬車は、他の商人の馬車に比べ、荷を積む部分が小さい。

初め見た時は、少ない荷物を運ぶのか?と思ったが、なるほど。マッコリーが持ちきれなかった荷物を、馬車に積んでいたらしい。


「高価な物や重量のある物、かさばる物を私が持ち、残りを馬車に積んでいます。商人なのに、全く馬車に荷を積んでいないのも“あからさま”という事もありまして、馬車にも荷は積む様にしているのです」

そうマッコリーが説明した。


「やはり亜空間保存アイテムボックスは便利ですね。商人なら尚の事ですが私たち冒険者も保持していれば、いつも外で美味しい食事が食べられますね。…携帯食ばかりだと、地味に精神的に削られるんで…」

話に加わったペリンが言い、笑いが起きる。

「そうそう。干し肉ばかりで素っ気もないし、顎もつかれるしで…」

ルナレフが続けると、今度はデュランが目を輝かせて聞いてくる。


「ほしにくって、おいしいの?」

「お?デュラン君は食べたいのか?じゃぁ少し食べてみるか?」

ルナレフが面白がってデュランを煽る。

「たべたい~!」

楽しそうにルナレフのもとへ行くデュランに、皆が哄笑する。


ルナレフが干し肉を小さく切って渡す。

「ほらっ」

デュランはかじろうとするも口を離し

「なにこれっカターイ!!」

「旨いか?」

「おいしくないですぅ…」



賑やかになった様子を眺めながら、またペリンが切り出す。


「マッコリーさんの亜空間保存アイテムボックスは、どれ位入るのですか?」

「そうですねぇ。私の場合ですと、普通の荷馬車で2台分位まででしょうか。まだ目一杯入れた事はないのですが、1台半程の量を入れた時に、“もう少し入りそうだ”と思いましたので」

「なるほど。それ位の量を一人で持ち運べれば“大助かり”ですね。実際、馬車を3台手配するところが1台で済む訳ですし」

「ふふふ、そうですね」


聞き役に徹していたシドも“なるほど”と思う。先日調べた内容とも一致している。

便利なんだな、と他人事のように思っているシドは、自分のスキルの容量すら判ってもいないのだった。



遅くなりましたが、ブックマークと☆を入れて頂きお礼申し上げます。

話を続ける為のモチベーションとなり、とても有難く、深く感謝しております。

今後も出来る限り毎日投稿を予定しておりますので、引き続きよろしくお願いいたします。


2023.9.30-誤字の修正をしました。(ご報告ありがとうございます)


10月9日補足:上記文中の「体力のある冒険者は難なくついて行かれる」という記述で“行かれる”の箇所の助動詞にご指摘がございましたが、可能の意味の助動詞「れる」を使う事も間違いではございませんので、そのままにしております。ご連絡を頂きありがとうございます。

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