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【書籍化決定】シドはC級冒険者『ランクアップは遠慮する』~稀少なスキルを持つ男は、目立たず静かに暮らしたい~  作者: 盛嵜 柊 @ 書籍化進行中
【第四章】この途の行方

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69.ベテラン冒険者

翌朝7時半。本日はラウカンへ戻る日だ。

シドとリュウは雇い主から言われた指示通り、ウィルコックの東門の前に来ていた。今日も一日、強行で戻る事になるのだろう。


2人は馬車が来るのをしばし待っていたが、やがて街の中から件の馬車が見えてきた。この馬車は、往きに比べて少し重そうで、仕入れた物を積んでいるのだろうと思われた。

そして馬車が2人の脇に停まると、上から声が降って来る。


「ああ、ちゃんと居ましたね。それでは出発しましょう」


カルナイはそう言うと、手綱を振ってガラガラと進んで行く。それを、往きと同じように見送ってから、シドとリュウもその後に続いた。


前方にいる2人の冒険者とカルナイは、何かを話しながら進んでいる。楽しそうに笑い声を上げている様子は、シドとリュウには向けられない物である。


≪あいつは人見知りなのか?≫


独り言を言う事も憚られ、リュウに精神感応(コネクト)で伝えると、聴こえたリュウは小さな肩を上下させた。何とも面倒臭い、雇い主である。


そして途中の町で食事を摂り、あと半分の距離となる。“後5時間の辛抱だ”と2人は心の中で思った。


その後、歩きながら前方の冒険者達は楽し気に、仕事の話をカルナイにして聞かせている様であった。

「この前もデカイ魔物と遭遇しましてね」

「ほう!」

カルナイが相槌を打つ。


「でも俺達は逃げずに、そいつを相手に戦ったんです。いや~大変でしたが、何とか痛めつけるのに成功して、そいつは怯えて逃げて行きましたよ」

2人の冒険者は、交互に話しを繋いている様だ。


「それは殺さなかったのか?」


「俺達は逃げ出した魔物を追いかける程、暇では無かったのです。だからそのまま放置しました。まあ、そいつも飛べなくなった翼を抱えて、その辺で野垂れ死にするでしょう」

「ほう!翼があったのか、その魔物は!」


「そいつは獰猛な“グリフォン”という魔物で、翼を広げると10m位ありました。滅多に見ない程、大きかったですね」

「ああ!それは私でも聞いた事のある魔物だぞ。何でも、頭は鳥で体は獣だとかいう奴かな?」


「ええ、カルナイさんは物知りですね!それがラウカン傍の湖近くに出たんです。俺達も初めに見た時はビックリしましたが、俺達の手にかかれば、有名な魔物も逃げて行きますよ。だから街までの道中も、安心して俺達に任せて下さいね」

「おお!それは頼もしいな。頼りにしている」

「お任せください!」


馬車の後方にいるシドとリュウは、聞きたくないのに今の話が聴こえてしまい、正直うんざりした。

リュウは内心で「お前達があの子の翼を折ったのか!」と、怒り狂っていた程だ。


しかも、話を誇張している様で、2~3mのものを10mと言っている辺り、突っ込み処が満載だ。

あのグリフォンは、人を襲う意思が全く無かった個体であるし、聴こえた話から想像するに、グリフォンが彼らから距離を取ろうとした所に、剣を叩きつけて翼を折ったのだろうと思えた。


≪何だか、普段でも余り素行が良くないみたいだな、あの2人。あれでは酒癖云々なくとも、永遠にB級は無理だろうな…≫

シドの言に、リュウは深々と頷いたのだった。


それから1時間ほど歩く間も、前方では魔物の話等をしながら進んでいる。今まであんな物を倒しただの、どうやって戦っただのと、笑い声を上げながら話していた。


後ろの2人はそれを聴かない様に、周辺の気配を探ったり景色を見ながら進んでいる。時々上に羽織った外套が、風にはためいていた。



シドとリュウは同時に顔を見合わせる。互いに一つ頷くと、リュウは外套の隙間から剣に手を置いた。

シドは集中(フォーカス)を入れて探る。

すると、左の森の方角から複数の気配を捉えた。


「左、1キロ先、数は6」

「了解」

2人はそこで会話を止めると、馬車の御者席に追いつく。


「魔物が来る。馬車を停めてくれ」

シドがカルナイに声を掛けた。


「何?何処にもいないじゃないか」

「左の森の中にいる。こちらへ向かっているから、あんたは馬車を降りて、右へ行け」


「何だって?おい、君達は判るのか?」

カルナイはロバートとコナーに確認をするも、2人は顔を横に振った。

「どういう事だ!!」

カルナイがそう怒鳴った時には、左の森からガサガサと音が聴こえてきた所だった。


「チッ、遅かったか」

シドは舌打ちして馬車から左へ向き直ると、リュウと並んで剣を抜いた。すると左前方の森の中から、魔物が飛び出してきたのである。


「ヒィイイー!!」

後ろでカルナイの悲鳴が聞こえる。続けてドタバタと音がするので、やっと馬車を降りたのだろう。馬の興奮した嘶きも聞こえてきた。


シドは集中(フォーカス)を切り、身体強化と風衣(フロー)を掛けて現れた魔物に向かって走り出すと、リュウもそれに続く。

「ヘルハウンドだね」

「ああ。速いぞ」

「わかった」

シドとリュウはそれを合図に、魔物に突っ込んで行った。


現れたヘルハウンドは、犬に似た姿をしており群れで行動する魔物である。体は黒い毛に覆われ体長は2m程、割と知能も高く身の熟しも素早い。鋭い牙と足の爪で人や獣を襲い、時々村や町に出てくる事もあって、討伐依頼書で見掛ける事のある魔物である。そしてその依頼は、B級扱いであった。


シドとリュウに遅れて、後ろにいた2人の冒険者も戦闘に加わった。だがその2人は動作も大きく、ただ剣を振り回しているだけに見える。


「とりゃー!」

「あっち行け!」

何とも可愛らしい掛け声が飛んでいた。


シドとリュウはそれらには構わずに、魔物が馬車へ近付かない様に誘導しながら、間合いを取りつつ往なして行く。


「うぁああ!!」

冒険者の一人が声を上げた。

「コナー!」


何かあったのかとチラリとそちらを見れば、コナーが腕を押さえて倒れ込んでいた。

「コナー!コナー!」

叫んでいるロバートは、自分に向かって来る魔物で手一杯らしく、コナーの傍に近付けない様だ。


≪リュウ、ここは任せる≫

シドの言葉にリュウは頷くと、それを見たシドはコナーの傍へ向かう。

コナーは地面に尻を付けたまま、動く方の腕で懸命に剣を振り続けていた。

その怪我を見れば、左腕を肩から切り裂かれている。


シドはコナーに近付くと、コナーに襲い掛かっている魔物へ横薙ぎに剣を振った。


『キャンッ』

声を上げて飛ばされたヘルハウンドは、5m先に倒れた。


「大丈夫か?」

「痛い…痛い…」

シドに対する返事は無いが、喋れるのなら大丈夫だろう。後でポーションでも飲めば、傷は治るのだから。


シドはコナーから魔物へ視線を戻すと、残りはあと3匹となっていた。リュウも頑張ってくれている様である。


シドは新たに向かって来る魔物へ視線を戻すと、腰をかがめて両手の剣を逆袈裟斬りにする。

『ギャンッ!』

そう一声上げて、ヘルハウンドはその場に沈む。そして、その後ろから続いて来ていた物も、続けざまに袈裟切りに裂く。

『ギャウンッ!』


その鳴き声を最後に、辺りは静かになる。振りむけばロバートがコナーにポーションを飲ませていた。


「はあ…助かった…」

コナーがため息と共に呟く。

リュウがシドの隣にまで来ると、シドはそこへ向かって声を掛けた。

「大丈夫か?」


「…ああ。何とかなったな…」

そう言ったのはロバートだが、その言い方は違うのではないかと思うのは、気にし過ぎだろうか。


「…そうだな…」

シドは敢えてそこには触れず、思う。先程の話も大体こんな感じの事を、脚色して話していたんだろうなと。


そこへ隠れていたカルナイが近付いて来た。

「…もう大丈夫なのか?」


「はい。魔物は殲滅しました。コナーが少し怪我をしましたが、大した事はありませんでした。俺達に掛かれば、ザっとこんなもんですよ」


と、ロバートが言った。


いつも拙作をお読みいただきありがとうございます。

誤字報告も、重ねて感謝申し上げます。


本日、総合評価が“50,000pt”を超えました旨、皆様へご報告をさせていただきます。

これは、お読み下さる皆様にお力添えを頂きましたお陰と、深く感謝申し上げます。


いつもシドにお付合い頂き、本当にありがとうございます。

また、“ブックマーク・☆☆☆☆☆・いいね”を頂きます事、モチベーション維持に繋がりとても感謝しております。


いつも皆さまが応援して下さって、こうして続ける事が出来ております。

まだまだ未熟な筆者ではございますが、これからもシドにお付合い下さいますと幸いです。

盛嵜 柊

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― 新着の感想 ―
[気になる点] (ドクズ…) [一言] ドクズ。クズ・オブ・クズ。キング・オブ・クズ この作品初のクズじゃないかな(1章の野盗は別 依頼主の商人もクズっぽいし、この章のテーマは気持ちのいい連中だけじゃ…
[気になる点] 14話でヘルハウンドはa級と書いてありましたが、どっちが正しいんですか? [一言] 一気に読みました めっちゃ面白いです!
[一言] 酷い仕事ぶりだな。 護衛なのに周りに注意も払わず自慢話、 いざ襲撃されれば慌てふためいてまともに動けず 挙げ句の果に手柄泥棒かよ。
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