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【書籍化決定】シドはC級冒険者『ランクアップは遠慮する』~稀少なスキルを持つ男は、目立たず静かに暮らしたい~  作者: 盛嵜 柊 @ 書籍化進行中
【第四章】この途の行方

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68. 少年

「やっぱり、今日の結果はこれだったね…」

店主がポツリと言った。


シドとリュウはその言葉を拾い、何の事か分からずに顔を見合わせた。

すると店主は、カウンターに置かれた布から視線を移して、2人の顔を見る。


「私はね、占いもやっているの。毎朝、今日の出来事を占う様にしているのよ」

そう言って微笑む。


「今朝の占いは“希望”と出た。そしてそれと“出会い”も絡んでいたの。占いなんて、それが出ただけでは意味が分からないでしょう?だから私は、その日の行動から意味を探す事にしているのよ」

と2人を真っすぐに見る。


「今日は今まで、店には顔見知りしか来ていないの。そして先程手紙が届いた後に、初めて見掛ける人達が入ってきたの。だから私は、貴方達が希望(ソレ)ではないかと思って、手紙の事を話したのよ」

ここで店主は一つ、頷く。


「私はいつもあんな風に、知らない人にホイホイと業界の話しはしないのよ…謂わば“賭け”ね」

「賭け…」

リュウが小さな声で繰り返す。


「そう。私は自分の占いを疑っていない。だから自分の直感を信じたの。この人達なんだろうなって」

店主は布に包まれている物に、視線を向ける。


「中を見なくても、これはその“種”だと判る。占いには“希望”と出ていたからね」

そう言うと店主は視線を2人に戻して、晴れやかに笑った。


「買い取らせて貰うわ。金貨30枚ね?それで良いの?」

「ああ。これを王都に送るにも費用が掛かるだろうし、あんたにも取り分は必要だろう。これは“商売”だからな」

そう言ってシドは口角を上げた。


「ほほほっ。真っ当な人だねぇ。私は貴方みたいな人は嫌いじゃないよ」

と店主は笑う。


「それで、渡す前に一つ伝えておく。コレは取り扱いに注意してくれ。とても危険な物の様だ」

「そうね、何だか嫌な感じがするものね…承知したわ」

店主は頷く。


「それと、俺達から買った事は言わないで欲しい。だから俺達は名乗らない。別にコレは盗品でもないから、そこは安心してくれ」

「良いのかな?名前を出せば、冒険者としての名前が、王家にまで伝わるのよ?」


そこでシドは渋面を作る。

「……絶対に、出さないでくれ……」

「ほほほ。その条件で飲むわ。では買い取らせて貰うわね」

そう言うと、店主は奥に一度引っ込んでから、袋に入った少し重そうな物を持ってきた。


「40枚入っているはずよ、これ受け取って。今日は何かあるかも知れないと、手元に置いておいたのよ」

「…俺は30と…」

「いいのよ。数えるのも面倒だし、私はただ物を流すだけなんだからね」

そう言って人好きのする笑みを浮かべた。


シドとリュウは顔を見合わせて苦笑する。10枚抜けば良いだけなのに、どうやらここにも“お人好し”がいるらしい。


「分かった。心遣いに感謝する。だがこちらの中身を、本当に確認しなくて良いのか?コレが偽物なら、カモにされているという事だぞ」


「これで騙されれば自分のせいよ。それに、後でちゃんと中は見るわよ。一度布の中を確認したら私は多分、そこから目を離せなくなるの…集中し過ぎてしまうタイプなのは、自分で理解しているからね。ほほほ」

そう言って店主は高らかに笑った。


やはり薬師だけあって素材には興味深々だが、集中し過ぎて周りに人がいる事も忘れてしまうのだろう。

では、後で存分に観察してもらおう。


「それに貴方も、この袋の中身を数えなくて良いのかしら?」

「ああ、俺も騙されていたら“自己責任”だな」


そう言って、シドは有難く金貨の入った袋を受け取ると、リュウと視線を合わせて頷き合った。

「では、後の事はよろしく頼む。くれぐれも俺達の事は、内密にしてくれると有難い」


「承知したわ。後は私が手配しておくわね。これで王都も落ち着くでしょう。貴方達のお陰ね」

そう言って店主は、2人を真っすぐに見る。


「私が言うのも変だけど、薬師の一員としてお礼を言わせてもらうわね。ありがとう」

そう言って頭を下げた人物に、シドとリュウも頭を下げた。


そして2人は店の扉に向かうと、ベルを鳴らして扉を潜った。

“カララ~ン”

ベルの音が止んでも薬屋の店主は、暫くそのまま扉を眺めていたのだった。



薬屋を出た2人は、又街の中を歩き出す。

歩きながらの会話は、今はない。2人は考え事をするように、黙って並んで歩いていたのだった。


「あっ!!」


そこへリュウが一声上げる。

「何だ?」

シドが怪訝に思い問うと、リュウから返事が返ってきた。


「ポーション買うの、忘れちゃった…」

2人は顔を見合わせると、やや間があって噴き出す。


“プッ”


「次でいいかー」

「ああ。次な」


そう話して明かりの灯り始めた店の通りを、2人は楽しそうに歩いて行ったのだった。



-----



やっと日も暮れて、冒険者達も今日の報告に戻って来る時間となった。

街中を歩く者達に冒険者達の姿もチラホラみられる様になると、食堂や飲み屋等も賑わいを見せ始める。冒険者達は一日の疲れと満足感を醸しながら、それらの店に入って行くのだ。


「俺達もそろそろ飯だな」

「そうだね、お腹も空いてきたね。ねえ、帰りに甘いものを買っても良い?」

「食後に腹に入るなら、良いぞ?」


シドとリュウは、賑わっている1軒の食堂を見付けて入る。ここは街人や冒険者達で殆どの席も埋まり、繁盛している様だ。

そしてそこで夕食を摂ると、後から覗きに来る人達の為、早々に店を出たのだった。


結局2人は、屋台で甘い物を買う。

小麦粉に砂糖等を加えて焼いた、手のひらサイズのサクサクとした“ビケット”と呼ばれる物に、リュウの目が釘付けになっていたからである。

それを袋に入れてもらい抱きしめているリュウに、シドは目を細める。リュウは宿に帰ってから食べるのだと、嬉しそうである。


シドは街中に視線を戻すと、シド達が向かう宿の方向から、今回の同行者である2人の冒険者達がこちらへ向かって来ているのが見えた。

よく見れば、今日の護衛任務は終わったのか、顔を赤らめ足元もおぼつかない歩き方をしている。まだ夕方なのにいつから飲んでいたのかと、聞きたくなるシドである。


シドは咄嗟にリュウへ伝える。

≪リュウ、左脇の道に入ってくれ≫


その言葉を受けたリュウは、するりと細い脇道へ身を滑らせる。そしてそれに続いて、シドも入って行った。

ここは店々の間にある路地裏の様な道で、店で出たゴミを入れる箱や、空の木箱などが積んであって少々薄暗い道だ。少し奥へ進んでから、リュウは振り返った。


「何かあった?」

「今の道の先に、同行の冒険者達がいた。リュウ、この依頼を受ける時にした話を、覚えているか?」

「あれね…“夜は接触禁止”というやつだね?」


「ああ。しかも今、彼らは酒を飲んでいる様だから、俺も会いたくない。見付かれば、騒ぎは起こさないまでも、酒に付き合わされそうだしな」

「ははは…確かに。でもいつ通り過ぎるか分からないよね?近くの店に入ったら、通り掛かって見つかるかも…」


「そうだな…では上から帰るか?」

「え?上って何?」

「上は、上だな」

そう言ってシドは指を上へ向ける。


「え?屋根しか見えないけど…」

「そう。屋根だ」


そう言ってシドはリュウを抱き上げると、浮遊(リビテーション)を入れてゆっくりと上昇する。

この道には誰もいない為、これを見られる事はない。


「は~?」

リュウが気の抜けた声を出す。ビックリしているらしく、目を見開いている。


「屋根から行こう」

シドはそう言って、屋根の上に降り立った。この建物の屋根から見える景色も中々だな、とシドは思っていたが、リュウはシドの首に掴まったまま、固まっていた。


「シドは“ビックリ箱”よね…」

リュウが小声で言った言葉は、シドにもしっかりと聞こえていた。

「はははっ」

シドは一つ笑うと、リュウに伝える。


「宿屋まで転移(テレポート)する。掴まっていてくれ」

そう声を掛けた途端、2人はそこから消えた。


建物の上には障害物もなく、宿屋の赤い屋根の色を覚えていたシドは、その赤色の屋根まで転移する。そしてそのまま身体強化を掛け宿屋の脇の路地へと降り立つと、リュウを地に下ろした。


「着いたぞ」

「何だかな…もう…」

とリュウは呆れた顔をして、シドを見上げた。


「彼らを回避できたし、浮遊(リビテーション)も使えそうだ。感覚はつかめたぞ」

と満足げに話すシドを見て、リュウは一つ息を吐く。

「心臓がいくつあっても足りないわね、これは」


男はいくつになっても少年の様だと、少し中身が崩れてしまった袋を抱きしめながら、リュウは呆れた様に笑った。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 占い師だつたか かなり腕は良さそうだな ボーション買う時間はあるのだろうか?w また出てきそうだなこの人はw [一言] さて 夜が来るわけだが・・・
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