表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化決定】シドはC級冒険者『ランクアップは遠慮する』~稀少なスキルを持つ男は、目立たず静かに暮らしたい~  作者: 盛嵜 柊 @ 書籍化進行中
【第四章】この途の行方

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

66/108

66. 不意打ち

シドとリュウは、昼食を摂ってからも少しここに留まっている。リュウは崖に背を預け眼下の景色を見ながら、のんびりとお茶を飲んでいた。


「あの大きな建物が、領主の館だよね?手前にあるから、街の北側という事だね」

「そうみたいだな。この街は北側が居住地区らしいぞ」


先程チラリと見た街の地図には、そう描いてあったのだ。

こうして話しながらゆったり景色を眺めていると、突然崖の上から突風が吹き降りた。


「きゃっ」

一声上げて、リュウは体を竦ませる。その風は、間もなく冬になると言う合図の様な、冷たい風であった。

「寒くなってきたね…」


リュウの言葉にシドは、亜空間保存(アイテムボックス)から外套を取り出すと、リュウへ覆いかぶさる様にして、それを肩に掛けてやった。


「ありがとう…」

リュウはそう言って顔を上げると、2人の顔は触れ合いそうな程に近かった。


視線を合わせていたリュウが瞼を閉じる。

シドは崖に手を付くと、リュウに顔を近付け…。



しかしその瞬間、2人の姿はそこから消えたのだった。



2人は浮遊感を感じて固まった。そして次には、薄暗い空間の中に居たのだった。

座っていた2人は立ち上がると、白いモヤがシド達の前に現れる。


「ダンジョン…か?」


シドの声にリュウが身じろぎする。

「ダンジョン…」


リュウの声に答えたかのように、シドの頭の中に声が響く。

≪我は“迷宮(ガニメテ)”≫

「<ガニメテ>…」


≪然様<ガニメテ>じゃ。おぬしは再生者じゃの?≫

「ああ。再生者だ」


≪では我の(のぞ)みは叶うと…≫

そう言ってモヤが揺れる。


「その(のぞ)みとは?」

≪我はただ“迷宮(ダンジョン)”として、全うしたいのじゃ≫

「……」


≪我は900年程ここにおる。昔は人間も立ち入ってくれておったが、700年前に大きな岩が上から落ちてきた事で、我の入口は無くなってしもうた≫

「人間は、掘り出してくれなかったのか?」


≪うむ。我と同じく、近くの人間の住処も一緒に埋もれてしもうた。そちらの方が人間には大事(おおごと)だったらしくてな。人の命は短い故、そして迷宮(ワレ)を忘れてしもうた様じゃ≫


当時の人達は何十年も街の復興に注力した為に、ダンジョンの存在すら忘れてしまったようだ。


「それからは、ずっと気付かれなかったんだな…」

≪然様。ここにも人間は来るが、我がここに或るとは思わなんだろう。直ぐに皆、居なくなるでの≫


“来る”とは多分、杣人(そまびと)の事だと思われる。彼らは休憩などで、ここにも良く来るのだろう。

「そうか…」


≪我は再び迷宮(ダンジョン)として或りたいと(のぞ)む。我の願いを叶えてはくれぬか?≫


<ガニメテ>にはそう言われたが、それは入口の岩を退かすという事だろう。入口の岩を退かす事は、シドの力だけでは出来ないだろうと思える。


迷宮再生(ダンジョンリペア)で、入口は現れるか?」

≪否。入口には干渉せんはずである。スキルで取り除く事は無理であろう≫

「そうか…」


≪下の人間達へ、迷宮(ワレ)の事を伝えてはくれぬか?できればそれらに、復元を頼みたい。或る事が分かればきっと動くであろう程に≫


「それだけで良いのか?」

≪良い。我は人間に直接伝える術を持たぬ故、再生者へ伝える事が出来ただけでも、僥倖である≫


「そういう事か…では迷宮(ガニメテ)の事は、下の街のウィルコックに伝えておく。それで良いか?」

≪うむ。頼むぞ≫


「分かった…リュシアン、俺は街に戻ったら、ギルドに迷宮(ガニメテ)の事を伝える約束をした。一緒に同行を頼めるか?」

シドは目線で、リュシアンを見る。

「ええ。勿論よ」


≪リュシアンとは聴いた名だ。再生者の番だったか…。その者にもよろしく伝えておいてくれ≫

「承知した」

シドはそう言うとリュシアンに向き直る。


「リュシアンも頼まれたらしいぞ。<ガニメテ>がよろしくと」

そう言ってシドは笑う。とリュシアンも笑った。

「はい。頼まれました」


そこへ<ガニメテ>が声を掛ける。

≪では伝言の礼をせねばなるまいて。“浮遊(リビテーション)”を付与する。使うと良かろう≫


浮遊(リビテーション)…助かる」

またスキルが増えてしまったらしい…シドはリュシアンに向けて、苦笑する。


「それで、その浮遊(リビテーション)とはどう言うものだ?」

言葉の通りなら“浮かぶ”という事であるが。


浮遊(リビテーション)とは、足場がなくとも自身を一定時間、空中に留まらせる事ができる、という物≫

「一定時間とは?」

≪約20秒≫

結構長いなとシドは思う。


「その間は、空中で動けるのか?上昇したり下降したり、左右へ移動するといった事は?」

≪可≫


「連続で使うと、浮いたままという事か?」

≪それは不可能。一度使えば次は5分程、発動が出来なくなる故に≫

なるほど。インターバルがあるから連続使用は出来ないと。


「ではそれを発動する時の条件は?」


≪魔力を補助として使っているもの。故に魔力がない時は発動せぬ≫

これも魔力を使うらしい。


「魔力消費は?」

≪微量≫

「そうか…わかった。礼を言う」


≪大した物でなくて済まぬ。我は人間が来ぬ間内部を拡張しておった故、今はこれ以上のものを出す事は叶わぬのじゃ≫

<ガニメテ>の言葉に何か引っかかるシドである。


「内部を拡張していた?」

≪然様。何時か又、人間が来た時に楽しんで貰えるよう、横も縦も広げておったのじゃ。ほほほ≫


「因みに…今は何階層だ?」

≪ふむ。今は24階層になるの≫


それは<ヘルメス>程の上位の大型である。随分と広げていた様だとシドは思った。


「そうか。では皆が又潜れる様になったら、探索も大変そうだな」

≪ほほほ。そうかもしれぬな≫

そう言ってモヤは揺れる。


≪では表まで送ろう。先程おぬし達が居た場所が、我の入口となる。その辺りの植物を退ければ、入口の形が判るであろう≫


「了解した。ではな<ガニメテ>」

≪うむ。頼んだぞよ≫




ガニメテの言葉が終ると、シドとリュウは先程座っていた場所に戻っていた。ここが迷宮(ダンジョン)の入口という事なので、先程シドが触った事で<ガニメテ>が反応したのだろうと思えた。


「この辺りのツタを退かせば、入口の形が見えるらしい。リュウも手伝ってくれるか?」

「了解」


2人は崖に這うツタを切り、少しずつ剥がして行く。入口と思われる場所はツタが絡まり易かったのか、密集している箇所もあった。

そのツタを剥がして行くと、明かに崖の物とは異なる材質の岩が見えた。それが崖の中に食い込む様に嵌っている。


「これか…。これは土魔法で処理してもらわないと駄目だな。人の力では掘り出せないし、他の魔法を当てると周りまで崩す可能性もあるからな」


「そうだね。やっぱり土魔法も便利だね…」

無い物ねだりの独り言を言っている、リュウである。


シドは地図の現在地に×印を付けておく。これをギルドに見せれば、場所も判り易いだろう。


「リュウ。麓まで転移(テレポート)で戻ろう。手を出してくれ」

そう言ってシドは左手をリュウへ向けた。

「わかった」

リュウは右手を出してそれに乗せたが、“クン”とシドに引っ張られ、シドの胸にぶつかった。


驚いてシドを見上げれば、リュウの唇に触れる物があった。

何が起きたのか気付いたリュウは、赤くなったり口をパクパクさせている。


「ははは。では移動するぞ」

そう言ってシドはリュウを胸に抱いたまま、森の入口まで転移したのであった。


転移した先でも、リュウはまだ固まっていた。

シドは腕の中からリュウを出すと、リュウの顔を見てから顔を寄せる。


「さっきは邪魔が入ったからな」

そうリュウの耳元で囁くと、踵を返して街へ向かって歩き出す。それを一拍遅れてリュウは、後を追った。


「もー。何か狡いんだから…」

リュウは何かを抗議したいようだが、言葉が見付からないらしい。


「早くギルドへ戻らないと、報告できないぞ?」

シドは振り返りニヤリと口角を上げると、いたずらが成功した者の様な顔をする。


今は未だ夕方前で、本来2人が戻って来るには少し早い時間であったが、2人はそれには気付かぬ様に、街へと向かって帰って行ったのだった。



シドとリュウは東門からウィルコックへ入ると、そのまま西へ進む。

先程、街の地図を見てギルドの場所も覚えた為、今度は人の後ろに付いて行く事なく辿り着いたのであった。


冒険者ギルドの扉を開けて中へ入ると、まだ報告の時間には早い為に、人は疎らである。2人はそのまま、受付へ向かった。


そこには今朝対応してくれた職員がいたので、その人物の前に立つ。

「完了報告に来た」

シドはそう言って、鞄からキラービーの羽根を出す。


職員は、今朝見た2人を覚えているらしく、シド達が受けた書類を出した。


「はい。今朝の方達ですね。キラービー討伐でこちらを確認いたしました。ではこれで完了となります。因みに巣はありましたか?」

「ああ。巣も一応は火を入れてきたので、殲滅できたと思う」


「そうですか、それはありがとうございます。これで依頼主も、安心して仕事が出来そうですね。ではこちらの報酬は、銀貨2枚となりますので、後程ギルドから振り込みをさせていただきます。ご苦労様でした」


受付職員は、そう言って話を締め括ろうとしたのだが、そこへシドが話しだした。


「すまないが後一つ報告がある。大きな声は出せないが…これを見てくれ」

そう言って印をつけた森の地図を、受付台へ出した。

「今朝お渡しした地図ですね…これは?」

そう言って、少し声を落として話してくれる職員は、やはり有能なようだ。


「俺は以前、本でこの地にもダンジョンがあったと書いてある物を、読んだ事がある。今日はその辺りへ行ったついでに確認してみたが、この印の所にその入口らしき物を見付けた」


シドの言葉には一部に作り話が混じっているが、穏便に進める為の作り話だ。

それを聞いた者はシドの顔を、驚きを持って見返した。


「本当ですか?」

「ああ。だが入口までの事だし大きな声では言えない。事実を確認をしてもらう必要もあるからな」


シドの言葉に一つ頷いた職員は、それで?と促す。

「入口が岩で塞がっているので、今まで気付く者はいなかったのだろう。あれは魔法で対処しないと、どうにもならなそうだった。だから確認に行く時は、土属性の者を連れて行った方が良いだろう」


シドの話を聴いた職員は、シドとリュウを一度見ると話を続ける。


「そうでしたか…解りました。貴方達が嘘の情報を言っている様にも見えませんし、直ぐに上へ報告を入れます。その調査次第では貴方達へ情報料が出ますので、先程の所へ振り込みをさせていただきます。まずは貴重な情報を、ありがとうございました」


そう言って職員は、しっかりと2人へ頭を下げた。


この情報が確かならば、今後この街は更に人々が集まり、発展するだろう。

バーネット領全体でも今までダンジョンは発見されていなかったので、これで又領内も併せて賑やかになるはずだ。


「いや、今日受けた依頼のついでだったからな。後は任せる」

「はい。ありがとうございます」


シドとリュウはその職員へ会釈すると、踵を返してギルドの扉を開け街の中へ溶け込んで行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 有能! 多くの先品の大半が受付嬢で、男性受付自体が少ないから(職員はいる)なおさら際立つ
[気になる点] 崖の上から巻き上げる様な突風がなんか違和感…
[気になる点] 貴族令嬢っぽいなと思ったから手出しするのは怖い、とか考えてたような。その辺ふっきれて手ぇ出す気になったんか [一言] とりあえず棚上げして見ないことに決めて、いい雰囲気だし流されていい…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ