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【書籍化決定】シドはC級冒険者『ランクアップは遠慮する』~稀少なスキルを持つ男は、目立たず静かに暮らしたい~  作者: 盛嵜 柊 @ 書籍化進行中
【第四章】この途の行方

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62. 一枚の羽根

指定された湖は、地図を見た限りラウカンの街の真南にあり、到着するまでには林の中を進む事になる。


今回の湖は以前見たリーウットの湖より小振りで、林の中の奥深い場所にある様だ。

2人は東門を出ると街道から逸れ、その湖を目指し、木々の中へ溶け込んで行った。


林の中を暫く進んで行けば、小型な魔物の気配を感知する。この動きからすると“アルミラージ”辺りの物だろう。それらは基本、人には近付かないはずなので問題はない。


この群生林は木々の間にも日差しが届く為、下草も低木も豊富にある。昆虫や小動物などもいて、実り豊かな場所の様だった。

今は夏も終わり雲の形も変わっていて、涼しく爽やかな風が、時折木々の葉を揺らしている。

2人はわざと足音を立てながら、湖の方角へ進む。少しずつ落ちてきている葉を踏むだけで、カサリと音を立てた。


3時間程林を南下すれば、キラキラと光るものが視界に入って来くる。

リュウは機嫌良さそうに、シドの隣で足を進めていた。それを見て、シドは先手を打ってリュウへ釘をさしておく。


「昼までは、依頼の毒草採取だぞ?」

「…わかってるよ…毒草が先だよね…」

リュウからは、元気のない返事が返ってくる。分かり易いリュウなのである。


「それと、<ボズ>の腕輪は着けているな?」

「腕輪はいつも着けてるけど、何かあったっけ?」


「それには<ボズ>の加護がある。万が一、触っただけで微量でも毒の影響を受ける草があった場合は、その加護が有効なはずだ。毒の霧も防いでくれるらしいからな」


「毒草も触っただけで、影響を受ける物があるんだね。微量で気付かないと、手遅れになりそう」

「まぁ全部が全部そうでもないかも知れないが、用心するに越したことはないからな」


「分かった。一応注意もしておくよ」

「そうしてくれ」



シドとリュウはそう話しそのまま歩みを進めていたが、ピタリとシドが立ち止まる。

「どうしたの?」

湖が木々の隙間から見えている辺りで止まったシドに、リュウが問う。


「…何か、居るな…」


リュウは“またですか?”と、内心ゲッソリした。

「ちょっと集中(フォーカス)で探る。少し待ってくれ」

「了解」


シドはその場で集中(フォーカス)を入れると、湖を中心に気配を探る。

すると大きくはない湖の右岸付近に、魔物の反応を捉える。だが様子がおかしい…。

少し大きな魔物が、水の中で暴れている様に視える。溺れているのだろうか…。


そう思い、湖寄りに歩みを進めて見れば、その魔物には翼が生えているのに、水中へ引き込まれそうになっていた。

2人が木々の途切れた辺りまで進んだ時、シドは何か(・・)を感知した。


シドは以前の記憶から、フェンリルの事を思い出して精神感応(コネクト)を入れる。すると、救援を求める様な想いが、頭の中に溢れた。


「リュウ、ちょっと行ってくる」


シドはリュウへそう伝えると、何が起こっているのか全く解からないリュウを置いて、転移(テレポート)でその魔物の傍に移動した。


空中に現れたシドは落下し始めると、足元の水面に向け小規模な水防壁(ウォーターバリア)を張り、その上に降りる。そこで身体強化を入れると藻掻いている魔物を掴み、取って返す様にリュウの居る岸へ転移(テレポート)した。


突然現れたシドと魔物に、リュウは声も出せずにあんぐりと口を開けている。

シドは魔物を地面に下ろすと、一緒に付いて来ていた魚の様な魔物がそれから離れ、ピチピチと地面に跳ねだした。


その魚の様な物は、よく見れば“レモラ”と思われる。頭に吸盤の様な物をつけ大きな口からは鋭い歯が並び、青い鱗を光らせている30cm位のものが十数匹程いた。


そして、それをくっ付けてきた物は…獅子の胴体に鷲の頭と翼をつけた、体長1m程の“グリフォン”に見える。

グリフォンは山岳地帯で活動し、獣や魔物を狩って生息している。滅多に人里には降りてこないはずの魔物だった。シド達のパーティ名でも使わせてもらっている。


取り敢えずは現状を何とかしないとならず、救出した方ではなく跳ねている魔物達に向け魔法を放つ。


礫の風(ストーンブリーズ)


纏めてそれらに石をぶつけて致命傷を与える。至近距離の為、中には体が穴だらけになった個体もいる。

これでレモラは大人しくなった。


シドはグリフォンに顔を向けると、言葉で問いかける

「大丈夫か?」

するとグリフォンからは、安堵の様な感覚が伝わってくる。


5m程近付いて来たリュウが、堪らずシドに声を掛けた。

「何なの?どうなっているの?」

そこでシドは、リュウに何も話していない事を思い出す。


「突然すまなかった。どうやらこのグリフォンが、そこの魚に水の中へ引き込まれていたらしく、救援を求めていた。コイツは精神感応(コネクト)で意思の疎通ができる様だ。フェンリルと同じく」


シドはそこまで話すと、途中からグリフォンに向けていた視線をリュウに向ける。


「それで転移(テレポート)をしたのだが、移動先が水の上だったから水面に水防壁(ウォーターバリア)を張って足場を作って降りてから、コイツを掴まえて戻ってきた」


いつの間にかシドは、リュウが使っている水防壁(ウォーターバリア)を見て覚えた様だった。


そこまで説明されたリュウは、何となくだが大筋は解ったらしく、少し落ち着きを取り戻すが、グリフォンから離れた場所からは動かない。

そしてシドのやる事に、突っ込む事を諦めたリュウである。水面に水防壁(ウォーターバリア)って何よそれ、と。


「それで…そのグリフォンは、私達を襲わないの?」


シドはリュウの言葉にグリフォンを見るも、畳まれた翼の片翼が折れていて一部が変な方向に向き、足回りには噛みつかれた為か、何箇所もえぐれて血を流している状態だった。


“否”


そんな感情がシドに伝えられる。

どうやらグリフォンが、リュウの問いに答えたらしい。


「襲わない、と言っているらしい」

「…そうなのね…。よく見ればその子、ボロボロね…」


“その子”と言う言葉は、強ち間違いでもないのかも知れない。

グリフォンは成体になると、胴体だけでも長さが2mには成るらしいので、この個体はその半分程であるから、まだ子供なのかと思えた。


「治癒は必要か?」

シドの問いに、グリフォンは一つ瞬きすると “是” と返ってくる。シドは一つ頷いてからリュウへ向き直った。


「リュウ、悪いがコイツを治癒してやってくれないか?」

「触っても大丈夫なの?」


リュウの言葉に “可” と返ってきた。

「ああ、大丈夫との事だ」


そうシドに言われて、リュウは恐る恐ると言った風にゆっくりとグリフォンに近付くと、首元に手を添えて撫でた。


本来ならここでリュウの魔法を借りて、シドが全てを終わらせる事もできるのだが、それではリュウを一人だけ蚊帳の外に出している気がして、シドはリュウに治癒を任せる事にしたのだ。


「大丈夫みたいね、わかったわ。今治すからね」

最後の一言はグリフォンへ向けて、リュウは話す。その言葉に、グリフォンは目を閉じた。


リュウは撫でていた手を止めて目を瞑ると、詠唱する。


全回復(パーフェクトヒール)


リュウが発した言葉に、グリフォンを光が包み込む。光が体全体に染み込む様に消えてから、リュウは目を開けた。

グリフォンを見れば折れた翼と体の傷が治り、綺麗な姿に戻っている。


「もう痛いところはない?」

リュウがグリフォンに問うと、グリフォンからは“嬉しい”と伝わってきた。


「もう大丈夫らしいぞ」

「そうなのね、良かったわ」

リュウはニコニコと笑顔を浮かべて、グリフォンの首元を撫でている。


そこへシドが、声を掛けた。


「何故お前ほどの魔物が、こんな所にいるかは不明だが…最近、この辺りでうろうろと姿を現していたのは、お前だな?」


シドの問いにグリフォンが視線を合わせ “是” と返事をする。

「お前の住処はここではないのだろう?」

するとまた “是” と返ってくる。


ではなぜ帰らなかったのだろうか…そう思っていると、リュウも、返事が聴こえないながらも同じことを考えていたらしく、リュウが声を上げる。


「もしかして、先に翼が折れていた事で、帰れなくなっていた…とか?」

リュウの声にグリフォンから “是” と流れてくる。


「…そう言う事らしいぞ」

「そっか…」

2人は苦笑する。


「ではそこから推測するに、腹が減って食べ物を求めて水辺にいたら、あいつらに捕まってしまった…という所か…?」

これにも又 “是” と返ってくる。


案外グリフォンという魔物も抜けているなと、失礼な事を考えているシドである。

するとグリフォンから“拗ねている”様な気持ちが入ってきた。恐らく、今のシドの考えを読み取られてしまっての反応だろう。どうやら凹ませてしまったらしい。


「じゃあ、もうこれで住処に帰れるね?」

それを知らないリュウから、明るい声がする。

その声に『クゥ』と鳴いて “可” と、嬉しそうな気持ちが流れてきた。


「帰れるのなら、もう帰った方が良いだろう。ここには人間も良く来るらしいから、お前ほどの魔物が目撃されれば、街は大混乱になるからな」

シドの声に “是” と返事があった。


シドの言葉に、リュウはグリフォンを撫でていた手を止めて、シドの下へと移動した。


リュウがグリフォンから距離を取った事で、グリフォンはゆっくりと立ち上がると、翼を広げ怪我が治った事を確認するかの様に、それを揺らした。


まだ小さい個体であるこのグリフォンだが、それでも片翼は1m以上あり、両方の翼を広げれば中々に見応えのある美しい姿だった。


グリフォンは満足した様に2人を見てから、『クゥー』と小さく鳴いて翼をはためかせると、頭上へ舞い上がった。


「じゃあね、元気でね」

リュウが声を掛けると『クゥ』と又一声上げて、そのまま高度を上げつつ北東へと飛んで行った。


シドとリュウはそれが見えなくなるまで見送って、同時に息を吐きだした。

「「はー」」


そして足元を見れば、グリフォンの翼の羽根が一枚落ちていた。

それをリュウが拾って、顔を見合わせてからクスリと笑うと、毒草採取に向かう為また木々の中へと戻って行ったのだった。


作中で魔物から伝わる感情を、文章表現の都合上、一部文字に置き換えて記載しています。ご了承下さい。

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― 新着の感想 ―
[一言] D級パーティー“グリフォンの嘴”がグリフォンと出会った! しかしなにもおこらなかった! ドロップ品・グリフォンの羽(抜け毛)を手に入れた!
[気になる点] お腹すいてるって言ってんたから、お魚あげれば良いのに。
[一言] 魚は放置? ・・・せめてグリフォンに持って帰ってもらうとか。
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