61. 道々を往く 【登場人物まとめ・地図】
お休みを頂き、ありがとうございました。
本日から第四章を、まったりスタートいたします。
引き続き、お付合いの程よろしくお願いいたします。
※下部に追加の登場人物などのまとめと、略地図があります。
シド達がモリセットの街を発って、一ヶ月半が経過した。
<ボズ>ダンジョンの事は、流石にあの次の日には“おかしい”と感知する者が現れ、それから数日の後“ドロップラッシュ”の終了が、モリセットの冒険者ギルドから宣言された。
その事に、そこに集まっていた者達の落胆たるや気の毒になる程で、暫くすればモリセットの街から冒険者達の殆どがいなくなっていた。
その後、その話を聞いたリーウット領に集まっていた冒険者達が大移動を始めると、オデュッセとトニーヤの間にあった<マーキュリー>ダンジョンが発見され、今度はそれが話題となり、冒険者達は又活気付いた。
その<マーキュリー>ダンジョンの管理管轄はその位置が中間であった為に、メインを“オデュッセ”とし、補助として“トニーヤ”があたる事となったらしい。ダンジョン発見の通達は、オデュッセから出されていた。
そしてそれから又少し経ってから、オロンジェ領のパルテの町に匿名で一通の手紙が届き、その内容を確認する為、オロンジェ領にある冒険者ギルドと協力して調査すれば、又新しいダンジョン<イーリス>が発見されたという事である。
発見して後、パルテの町にも冒険者ギルドが新設され、宿屋も増やす為に町を整備したりと、色々とあったという事だ。
それらも順調に進み、冒険者達の受け入れが可能となってからは、リーウット領に集まっていた冒険者達も各地へと分散する事となり、元々モリセットにいた冒険者達も、無事にモリセットへと戻って来る事が出来た様で、その時には<ボズ>は既に通常運転となっていた。
こうした一連の動きを見ていると、人間達はある意味ダンジョンに振り回されているんだな、と感じる。
人とはいつの時代も、愚かなものである。
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ここはそんな話からは、然程影響を受けていないアトラス国の南部。スワース領の“コンサルヴァ”にある、冒険者ギルドの執務室である。
ソファーに座っているギルドマスターの“アーロン”は、カチャリとテーブルのソーサーへカップを置くと、一つ息を吐いた。
「俺がギルマスを辞めた後は、お前さんに跡を任せたい。頼めないか?」
そう言ってアーロンは、対面のソファーに座っている相手を見る。
「何を言っているんだ。俺がこの領内のギルマスって訳にも行かないだろう…。それに、あんたには未だ暫くは、ギルマスを続けて貰わないとダメだろう?」
問われた相手はそう言うと、音一つ立てずに、手にしていたカップをテーブルへと戻した。
「俺の退任については、確かに今すぐにと言う訳では無い。だが俺もいつ何時、何があるか分からねぇからな。次の候補だけでも決めておきたいのさ。それに、お前さんがここのギルマスをやる事については、スワース伯に確認済みで問題は無いから、安心してくれ」
「いや、安心してくれと言われても…。第一、それにまだ俺は、冒険者でいたいからな。当分冒険者は辞めないぞ」
「お?お前さん、結婚するらしいという噂を聞いたんだが…。相手もそれで納得してるのか?」
アーロンに言われた者は、こんな所にまで噂になっているのかと、苦虫を噛み潰したような顔をした。
「…まぁ、それについては問題はない。俺はまだ結婚もしないしな」
それを聞いたアーロンは“おや?”という顔をする。それに気付いた者は、あっけらかんと話した。
「あー。その件は断られて立ち消えになった。まさかこんな所にまで、その話が入って来ているとは思わなかった」
「何だ、リュシアンに振られたのか。可哀そうに…」
「フラれたとか言わないでくれないか。親が勝手に話を進めようとして、断られただけだ。…ん?それもフラれたと言うのか…?」
そう言って考え込んでしまった“ジョージク”から視線を外し、アーロンは窓から覗く空を見上げた。
今日も平和なコンサルヴァであった。
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シドとリュウはモリセットの街を出発してから、ファイゼル領の西、“ギュスター領”を経由して、その北側にある“バーネット領”へと移動した。
<ボズ>とは“迷宮に逢いに行く”と言う話をしてあるが、今のところは国内の名の知れたダンジョンで不具合が起きているという噂も聞かない。その為、バーネット領にある少し大きめの街“ラウカン”へ着くと、そこで長期に宿を取ったのだ。
実はこのラウカンと言う街を知った時、それと一緒に “熱いお湯”が湧き出している街であり、各宿にはそれを引き入れて風呂で温まれる様になっている、という話を仕入れたからというのもある。
これから少しずつ寒くなるし、その設備を利用したいと、長期で入ったのであった。
ラウカンの北側には山がありそこに森が広がっていて、それを越えた先には国境がある。南へ下れば小さな湖もあり、自然豊かでのどかな街であった。
また“熱いお湯”が湧き出ている事で観光に訪れる者も多く、宿も多数あって長期で滞在する者も少なくない為に、街の者達は、外から来た人達に対しても開放的で優しい街だった。
言うなれば“居心地の良い”街なのだ。
シドとリュウも早々に冒険者ギルドに馴染み、依頼の奪い合いも落ち着いてきた事で、日々冒険者ギルドへ通っていたのである。
そんな事でリュウも少しずつD級の依頼を熟し、今はE級に昇級していたのだった。
今日も2人は、朝から冒険者ギルドへ向かう為、ラウカンの街中を歩いている。
「リュウの髪は、少し伸びてきたな」
髪を切った時には肩よりも上の長さだったのだが、今は肩に届くまでとなっている。
「そうかもね。切ってから暫く経つし、髪色位しか気にしてなかったから気付いてなかったよ。切った方が良いかな?」
「いや、毛先だけ整えて行けば十分だろう。リュウの長い髪も、俺は好きだぞ?」
シドが口角を上げてリュウに言えば、リュウは顔を赤くして俯いてしまった。
「じゃぁ…暫くはこのままという事で…」
小声でポツリとリュウが言う。それに笑ってシドは、リュウの頭に手を乗せた。
今日の2人もいつも通りの様である。
冒険者ギルドの使い古した重厚な扉を開けて中へ入ると、直ぐに今日も掲示板を見る。
その掲示板には、先日からパルテの町の<イーリス>の発見も加わり、<ボズ>のドロップラッシュ収束と、オデュッセの<マーキュリー>の公示も一緒に貼り出されている。
2人は何食わぬ顔でそれらを眺めてから、D級依頼書の確認をした。
そして1枚の紙に目を止める。それには『D級依頼・毒草採取』と書かれている。
シドとリュウは同じ紙を見ていた様で互いに顔を見合わせると、リュウがその紙を取る。
「これで良いよね?」
「そうだな」
2人は受付にそれを持って行った。
「おはようございます。今日はコレを受けます」
リュウが受付の女性にそう声を掛けると、言われた女性は満面の笑みをリュウへ向けた。
「おはようございます。リュウさん、シドさん。本日はこちらでよろしいですね?」
シドとリュウは知らない事であるが、ここの冒険者ギルドの女性職員達の間では、この2人は“推し”の上位に挙がっていた。
自分が担当している時に声を掛けられたら、“その日一日幸福になる”とか何とか言われている様である。
その為、本日の受付担当の“ソフィー”も上機嫌な様子であった。
「はい。お願いします」
リュウとシドはその辺りの事は何も気付かず、ここの職員は皆対応が良いな、位に思っている。
「あら?これは場所の指定が出ていますね。南の湖周辺で採れるらしいので、そこへ行くようにと…。それとその辺りは魔物が出る様なので、それでD級依頼になっている様ですが、大丈夫ですか?」
それを聞いたシドとリュウは顔を見合わせる。魔物はどこにでも出るが…と思っての事であったが、何かあるのだろうか。
「ああ、すみません。説明が足りませんでしたね」
そう言って受付のソフィーは2人を見る。
「小さな魔物は普通の薬草採取エリアにも出ますが、ここの湖の傍では最近、少し大きな魔物らしき物の目撃情報がありまして。見た者達は、はっきりと見た訳でもなく、見えてもすぐに隠れる様に姿を消してしまうので、今のところ被害が無い為に討伐対象とはなっていないのです。ただ、そういった物が出る事があるという事で、この依頼は念の為にD級指定になっている様ですね」
なるほど。そう言う事でD級依頼なんだなと、2人は納得する。
確かにもしも大型の魔物と遭遇したら、F級やE級では逃げ切る事も難しいだろう。D級であれば辛うじて対処できると見做して、と言った所か。
「その依頼で問題はない。南の湖で良いんだな?」
「はい。この“トリカブト”という毒草は、その湖の近くで採れるらしいです」
それを聞き、リュウは頭を下げた。
「解かりました、ありがとうございます。では行ってきます」
「はい、お気を付けて下さいね」
2人は受付から依頼の情報を聞くと、ギルドを出て街の東門へ向かった。
湖に行くには、東門からの方が近そうなのである。
「屋台でお昼を仕入れて行こうね。今日は湖でお昼だよ?」
さっきの注意事項を聴いていたはずが、リュウは嬉しそうである。
シドは苦笑しつつも何も言わず、2人は屋台で昼食を仕入れると、ラウカンの街を出発した。
――【追加・登場人物等のまとめ】――
▶主人公「シド(シルフィード)」…頑なにC級冒険者として活動する剣士、189cm、スラリとしているが筋肉質、くすんだ金髪を後ろで束ねている→茶色く染める、切れ長の翠眼、顔半分が髭で覆われている→髭を剃る、23歳、出身ファイゼル領
<魔法=風魔法、スキル=身体強化・迷宮再生・亜空間保存・集中・硬化・走査・精神感応・借受・一撃・転移>
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▶B級冒険者「リュシアン・ブルフォード」…貴族令嬢、シドとはアーマーベア討伐で出会う、21歳、剣士、160cm、新緑色の長髪をサイドで編込んでいる、蒼眼、シドの彼女?
<魔法=治癒魔法・水魔法、スキル=軽量化・防楯>
★後→F級(今はE級)冒険者「リュウ」と名乗りシドと行動を共にする、茶色く染めたショートカット、16歳の男の子設定、シドとのパーティはD級“グリフォンの嘴”
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●パルテの町(迷宮<イーリス>) オロンジェ領の北部
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●ウェヌスの街 リーウット領の東
○冒険者
・C級冒険者「シェンカー」…20歳代後半位、黒髪で紺色の眼、トワの依頼書と6年前の噂をシド達に伝える
〇街(森)人
・住人「トワ」…森の中で16年前からフェンリルと生活をしている、60歳位、精神感応持ち
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●レステの街 リーウット領の北東
○街人
・薬屋「ナンナ」…実は有名な薬師、40歳位、赤い髪を1つに括る、橙黄色の眼、165cm、割と自由人
・薬屋「キャル」…ナンナの助手、19歳、藍色の髪のお下げ、青い眼、163cm、妹はリラ・16歳
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●レステ南の湖 リーウット領
○オデュッセの冒険者
・B級冒険者「グレッグ」…B級パーティ不死鳥の羽のリーダー、剣士、銀髪に紫色の眼、シドと同じ位の体格、28歳
・B級冒険者「ネルソン」…不死鳥の羽メンバー、弓使い、碧色の長髪で紅い眼、180cm、27歳
・B級冒険者「ビトー」…不死鳥の羽メンバー、魔術師、黒髪で黒眼、175cm、28歳
・B級冒険者「ミック」…不死鳥の羽メンバー、剣士、茶色の短髪に褐色の眼、195cm、26歳
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●トニーヤの町 リーウット領の中心付近
○街人
・宿屋-束の間の休息「サンボラ」…宿屋の店主、元ギルドマスター、好々爺、78歳、一癖ある老人
○冒険者ギルド
・ギルドマスター「テイラー」…55歳位、2m近い身長、苦労人?
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●オデュッセとトニーヤの間の林(迷宮<マーキュリー>) リーウット領
○オデュッセの街人
・商人「カトリス・リーフリン」…32歳、艶やかな栗色の髪に琥珀色の眼、情に厚く面倒見が良い
○オデュッセの冒険者
・D級冒険者「エリオン」…D級パーティ“蒼の炎”のリーダー、斧使い、蒼色の短髪に水色の眼、180cm、18歳、A級冒険者ディーコンに憧れている
・D級冒険者「ユング」…“蒼の炎”メンバー、魔術師、橙色の髪で茶色の眼、178cm、18歳
・D級冒険者「ジョエル」…“蒼の炎”メンバー、魔術師、淡い金髪に薄茶色の眼、175cm、19歳
・D級冒険者「ロジャー」…“蒼の炎”メンバー、槍使い、黒眼に焦げ茶色の長髪、180cm、19歳、A級冒険者ケディッシュ(*)に憧れている(*下記に記載)
・D級冒険者「プラント」…“蒼の炎”メンバー、盾使い、黒髪で黒眼、185cm、18歳
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●モリセットの街(迷宮<ボズ>) ファイゼル領北部
○街人
・商人の妻「パティ」…カトリスの友人“インギィ”の妻、カトリスとは幼馴染、柑色の髪に茶色のクリッとした眼、30歳位、158cm
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(*)A級冒険者「ケディッシュ」…A級パーティ“ユニコーンの角”のリーダー、槍使い、イケメン
▼シド達の現在地は、地図北部“バーネット領”の北東「ラウカン」です▼
(見え辛くてすみません)
◇今更ですが細かな裏設定です◇
ギルド登録時は魔法属性とスキルの記載がある程度任意なので、申告していない人も中にはいます。
(しかし、確実に魔力があるのに「魔法が使えない」申告は「何?」となりますけど)
スキルは気が付いていない人もいますし、リュウは再登録後、治癒魔法を申告していません。
治癒魔法は公にすると、あてにされたり色々と面倒なので水魔法のみで登録しています。
と言っても、冒険者同士でギルドカードの見せ合いはしないのですが。
そしてシドの増えたスキルは、今のところリュウ以外知る人はいません。
という設定がこっそりあったります。お伝え処がなかったので、こちらに記載致しました。
遅くなってすみません。よろしくお願いいたします。




