6. 護衛依頼
図書館へ行ってから数日後、そろそろ依頼を受けようと、シドは冒険者ギルドへ向かっていた。
コンサルヴァに来てからここ数日、調べ物や街の様子を確認してからの行動である。
「おはよう、ケイシー」
そう言って受付まで行くと、今日もケイシーの笑顔が咲いていた。
「おはようございます、シドさん。今日はどうされましたか?」
「そろそろ依頼を受けようかと思ってな。何か残っているか?」
今日もまた、少し遅い時間にギルドへ着いたシド。
知り合い冒険者も殆どいない為、早朝は皆の依頼受付の邪魔にならぬように、時間をずらして来たのだった。
「依頼をお受けになるのでしたら、丁度ご相談したい事があったので、お時間をいただいてもよろしいでしょうか」
「ああ、大丈夫だ」
「ありがとうございます。商人の依頼で、キリルの街までの護衛依頼というものがありまして。それをC級冒険者パーティが受ける事になっているのですが、もう一人欲しいそうなので、シドさんをご紹介したいのです」
そう言ってケイシーは、1枚の依頼書をカウンターに出した。
【護衛依頼】
『内容:商人の護衛。コンサルヴァからキリルまでの往復。期間は10日程度。
C級以上で、剣士・槍使い・魔術師などを含んだパーティを希望。
報酬:1人銀貨15枚。他は要相談。<ツエリイ商会>』
読了してシドはケイシーに尋ねる。
「受ける予定のC級パーティは、どんな構成だ?」
「えっと、槍使い、魔術師、神官、盗賊で、全員男性です。依頼を受ける際は一時的に、シドさんを入れて臨時のパーティという扱いになります」
「そうか。…わかった。俺の方からは問題ない」
「ありがとうございます。ちょうど今、向こうのテーブル席に座っている冒険者が、依頼を受ける予定のパーティ“竜の翼”です。話をして参ります、少しお待ちいただけますか?」
シドが了承すると、ケイシーはシドを残してギルド奥のテーブルへ向かい、席にいた4人と話し始めた。
メンバーがチラチラと、時々こちらを窺うようにして見ている。
少ししてから戻ってきたケイシーは、パーティと話が付いたと告げた。
「では、出発は明日の朝9時となっていますので、ご準備があれば本日中にお済ませ下さい。移動中の食事は、依頼主の商会が用意されるそうです。明朝は北門に集合との事です。それと、“竜の翼”の方々が、自己紹介等は当日で結構です、と仰っていました」
「了解した。ありがとう」
ケイシーにそう言ってから、シドは奥のテーブルメンバーに向かって会釈し、軽く挨拶を交わすと、その日はギルドを出たのだった。
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翌朝シドは早朝から宿の庭を借り、剣の鍛錬をし調子を確認すると、8時半頃に北門へ着く。まだ少し早いが、すぐに同行するパーティの姿も見えてきた。
「おはようございます。シドさん?でよかったですか?」
「おはよう。ああ、シドだ。今日から暫くよろしく頼む」
「こちらこそよろしくお願いします」
他のメンバーもパラパラと挨拶を返してくる。
「まずは自己紹介ですね。私達はC級パーティの“竜の翼”です。そして私はリーダーのペリン、“槍使い”です」
そう言ったのは、最初に声を掛けてきた人物で、185cm位、程よくバランスの取れた体つきに碧眼、藍色の髪が少し伸びて肩から垂らしている、整った顔立ちの青年だった。
「それで彼が“盗賊のテレンス”、彼が“魔術師のルナレフ”、彼が“神官のミード”です」
そう紹介された各々が会釈した。
盗賊のテレンスは短髪の黒髪に黒い眼、170cm位でこの中では少し小柄であるが、身の熟しがしなやかで体を器用に使いそうな青年だ。
魔術師のルナレフは、ローブを羽織り178cm程の身長、柑子色の眼に赤い髪を肩まで伸ばし、少し表情を固まらせた、こちらも整った顔立ちの青年である。
神官のミードは、180cm位で薄茶の長髪、琥珀色の眼、優しい眼差しに品の良さそうな佇まいをした青年だった。
「俺はシドと言う。C級の剣士だ」
シドはそう言ってから“それから”と続ける。
「俺の話し方はこんな感じだから、楽に話してくれ。その方が助かる」
「ああ、わかった。こっちもその方が肩が凝らないから助かる。そう言えばシドさんは、年はいくつなんだ?」
「“さん”もいらない、呼び捨てで呼んでくれ。俺は23だ」
シドがそう言った次の瞬間、周りがシンとした。
状況を読んだシドが、あぁと発する。
「すまないな。俺は“年齢詐欺”と言われているんだ」
そう伝えると、竜の翼のメンバーが噴出した。
一通りの笑いが治まると
「じゃぁシド。今回の依頼は連携してよろしくな」
と、リーダーのペリンが纏めてくれたので、続いて竜の翼メンバーの、年齢の話になった。
ペリンとルナレフは24歳、テレンスは22歳、ミードはシドと同じ23歳なのだそうだ。
シドより年上が居たが、敬語の件は話が付いているのでそのままとなった。
そう自己紹介をしている内に、商人の馬車が到着した。
大き目の馬車は2頭立てで御者が前に座りその後ろに窓がある乗員スペース、その後方が荷台という珍しい造りだ。
シドと竜の翼は商人の馬車へ向き直り、待つ。
少しして窓の付いた扉が開き、栗色の髪に仕立ての良いシャツにベストを着た40歳位の男性と、一人の子供が下りて近づいてきた。
「おはようございます。護衛依頼を受けていただいた方々でよろしかったでしょうか?」
その男性は2mほど離れて止まると、そう声を掛けてきた。
「おはようございます。ツエリイ商会さんの護衛依頼を受けた、冒険者“竜の翼”と臨時メンバーのシドです」
「シド…さん?」
声の場所を見ると、先日図書館で会った少年“デュラン”が居た。
「デュラン?」
デュランの隣にいた男性が訝しがる。
「父さん、この前はなしたシドさんだよ。としょかんであった人」
デュランの答えに男性は表情を変え、ニッコリ笑うとシドを見た。
「そうですか、貴方が。先日は息子を助けていただき、ありがとうございました」
そう言って頭を下げた。
「礼を言われる程の事はしていない。頭を上げてくれ」
シドと男性のやり取りに、ついて来られない“竜の翼”がキョトンと見ていた。
そこで我に返った男性が、冒険者達を見る。
「失礼いたしました。私はツエリイ商会のマッコリー・ツエリイと申します。こちらは私の息子、次男で7歳のデュラン。それからあちらに居る者が御者のロニです」
とマッコリーが挨拶をすると、デュランと、聞こえていたのかロニも頭を下げる。
「今回は息子の修行も兼ねて同行させる予定で、ご迷惑を掛けぬよう言って聞かせております。皆様にはお手間が増えますが、宜しくお願いいたします」
そう丁寧に続けた。
そこからペリンが続けて自己紹介をする。
「こちらの4人が“竜の翼”のメンバーで、私がリーダーのペリン、こちらがルナレフ、テレンス、ミードです。詳細は道中でおいおい。マッコリーさんはシドとはお知り合いですか?」
「いえ。先日こちらの息子が少しお世話になった様でして。私は話を聞いただけなので、お会いするのは今日初めてです」
「そうでしたか。それでは本日から、この5人で護衛をさせていただきます。よろしくお願いします」
「こちらこそ。では、そろそろ出発しますので、馬車の方までお願いできますか?」
そうやり取りをすると、それからすぐにキリルへと出発した。
登場人物の名前、なかなか思い付かないものですね。なので、自分の知っている方の名前を拝借したり、文字ったりさせていただいています。そんな事も気が付いてもらえると嬉しいです。
2023.9.30-誤字の修正をしました。