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【書籍化決定】シドはC級冒険者『ランクアップは遠慮する』~稀少なスキルを持つ男は、目立たず静かに暮らしたい~  作者: 盛嵜 柊 @ 書籍化進行中
【第三章】共に生きる者

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56. 対価の意味

やっとモリセットの街に到着しました。この辺り、小休止的なお話となっています。

お付き合いの程よろしくお願いいたします。

「これは魔道具との事です。これを押すと家の中の者に、来訪者がある事を知らせるらしいのですよ」


“凄いですねぇ”とカトリスは、皆に説明している。

言われてみればここでノックをしても、家の中までは聞こえないのだろう。確かに凄い道具である。


少しすれば中から門が開き、女性が顔を出した。

その女性は、肩までの長さのふわふわした柑色(こうじいろ)の髪に、茶色のクリッとした眼をした30歳位の、可愛らしい感じの女性だった。


「やぁパティ。今回も世話になるよ、よろしく」

カトリスは先程までと違い、砕けた口調で話し始める。


「カトリス、いらっしゃい。今回もお世話させて貰うわね」

そう言い合って、2人は笑う。


「ああ、こちらの方々は、私の護衛をしてもらっている冒険者達で、7人居るんだ。大丈夫だろう?」

「ええ。部屋は足りるけど、今回は随分と大所帯なのね」

「そうなんだ、色々とあってね。それは又後で話すよ」


カトリスはそう話すと、冒険者達を振り返る。


「彼女は、私の友人の奥さんで、私と幼馴染の“パティ”」

そう言われて紹介された者は、皆に“よろしくね”とお辞儀をする。

皆も、それぞれが自己紹介をしてから、門の中へ通された。


門を潜ると広い庭が目の前にあって、その奥に大きな家とそれよりは小さな建物が、隣に並んで建っていた。


馬車は、店の従業員らしき者に引き渡され、建物の奥へ消えて行く。シド達はパティに連れられて、小さな建物へ向かって歩いて行った。


「ここは、店の従業員用で使っている建物なの。今は使っている者はいないから、貴方達に使ってもらうつもりよ」

そう説明すると、パティは扉を開けて、建物に入る。

「どうぞ」

皆は促され、パティの後ろに続く。


「手前が2人部屋、一番奥が大部屋と、その間にある部屋が1人部屋ね」

と説明しながら廊下を歩く。それを聞き、エリオンが声を出す。


「俺達は大部屋で構いません。5人居ますから」

「あら?全員一緒ではないの?」

とパティが不思議がる。


「パティ、後ろの彼らは別のパーティで兄弟なんだよ。だから2人部屋の方が良いと思う」

カトリスが間に入って、説明してくれた。

リュウもいる事であるし、部屋を分けてくれるなら有難い。


「あら、そうなのね。ではそうしてもらって構わないわよ。お2人は、そちら側の部屋を使ってね」

パティはそう言うと、入口近くの部屋を差した。


「ありがとうございます」

リュウがペコリとお辞儀をして、シドが会釈した。


「あらっ可愛い子ね。ふふふ」

「おい、パティ。若人に色目を使うんじゃないぞ、“インギィ”に言いつけるからな?」

「あらやだ、ただ愛でているだけじゃないの。愛してるのはインギィだけよ?」

何だか2人で楽しそうである。


「あら、ごめんなさいね。部屋はこれで良いわね。カトリスは、この後はどうするの?何か用事はあるのかしら?」


「私とこちらのお2人は、これから冒険者ギルドに行ってくるから、その間に彼らを少し休ませてあげて欲しい。寝ていない様だから疲れていると思う」

そう言ってカトリスは蒼い炎のメンバーを見た。


「わかったわ。では夕食は部屋に持って行きますね。それまでは休んでもらっていて構わないわ。カトリスと2人は、これから出かけるのよね?では2人の夕食は、戻ってからで良いかしら?」


「いえ、僕達はギルドの後、少し外を歩いてきます。その間に夕食は済ませてきますので、お気遣いなく」


「そうなのね、わかったわ。では後はよろしくね、カトリス」

「ありがとう、パティ。また後で」

そう話すとパティは離れを出て行き、カトリスは冒険者達を振り返った。


「では、エリオンさん達は奥で休んでいて下さい。夕食は運んでくれる様なので、それまでごゆっくり。私はこちらには泊まりませんが、何かあれば母屋まで来てくださいね。明日は8時頃に出発しますので、朝までは自由にしていて下さって構いません」


「はい、ありがとうございます。そうさせて貰います」

エリオンが代表して答える。


「では、シドさんとリュウさんは一緒に、冒険者ギルドへ行きましょう」

「はい、お願いします」

リュウが返事をすると、カトリスはエリオン達を部屋に促して、2人を連れて外に出た。


外に出た3人は、カトリスの先導で門の方角ではなく、離れの裏へ回る様にして横に入って行く。その先には小さな門があり、そこから外へと出られるようであった。


「こっちは勝手口になります。出入りは自由になっていますが、扉の閉め忘れには注意してくださいね」

「了解した」

「はい」


2人は返事をしつつ、戻る時はここからなんだなと、心に刻んだのであった。




3人は並んで歩きながら、中央エリアに向かっている。


シドとリュウは、モリセットの冒険者ギルドの場所を知らなかったのだが、カトリスからは何の問いかけもない。そこでシドは、先に伝える事にした。


「俺達は、冒険者ギルドの場所を知らないのだが、大丈夫か?」

「ええ。私はこの街へは何度も来ていますので、大抵の物は分かります。心配は無用ですよ」

そう言ってカトリスはシド達に笑顔を向ける。


「助かる…頼んだ」

「はい。頼まれました」


軽口を叩きつつ、3人はそのまま中央まで出て商業地区に入ると、カトリスが一つの建物を指差した。

「あそこが友人の店です。大きいでしょう?」


カトリスの指す方を見れば、武器屋が4軒は入りそうな大きさの店が、賑わいを見せていた。

基本、シドの基準は武器屋である。


「大きいな…」

「本当」

2人がそう零せば、カトリスはフフフと笑っている。


「元々、家業で商いを営んでいたのですが、友人が継いで倍に成長させたのです。私の扱う商品も、こちらで仕入れて貰っています。そして、私が王都へ行く時には荷物を預かって届けたりもして、お互いに良い関係を築いています」


その大きな店の前を通り過ぎながら、カトリスは嬉しそうに友人の話をする。

カトリスにとっても、その友人にとっても、お互いが大切な存在なのだろうと思えた。



そのまま3人は商業地区を抜けて、北東方面の道を進む。方角的には<ボズ>のある方向なので、利便性で考えればそうなるのだろう。そして重厚な扉の前で、カトリスが止まる。


「ここです」

そう言ってカトリスは、先に扉を開けて入って行く。2人はそれに続き扉を抜けた。


真っ直ぐに受付へと向かうカトリスを見付けた受付の女性が、それに笑顔を向ける。


「こんにちは。こちらに顔を出されるのは珍しいですね」

「やぁベリンダ。久しぶりですね。後ろのお2人にここまでの護衛を頼んでいたので、今日はその手続きに来たのですよ」


「では、書面はまだ交わされていない、と言う事ですか?」

「ええ。口頭での依頼でしたので、こちらで書面を作りたいのです」


「承知いたしました。今、ご用意いたしますね」

そう言って2人はどんどん進めて行く。シドとリュウはただ後ろで、それを苦笑しつつ眺めていた。


「では後ろのお2人も、こちらへお名前をご記入下さい」

カトリスとの書類を整えた受付の女性は、シドとリュウへ記入を促す。

2人は言われた通り書類の前に来ると、内容を確認した。



『オデュッセからモリセット間の片道の護衛を、D級パーティ“グリフォンの嘴(グリフォンのくちばし)”へ依頼。依頼報酬は銀貨10枚とする。カトリス・リーフリン』



それを読んだシドが、カトリスへ慌てて声を掛ける。

「いくら何でも、これは拙いだろう…」

「おや?少なかったですか?」

「いや、その逆だ。多すぎると言っている」


たった1日の、それも安全な道を一緒に歩いてきただけで、この金額は破格と言っても良い。


「いいえ。これは妥当な金額ですよ。

昨夜の事もありますが、その他にも“先行投資”が入っています。

あなた方は、オデュッセの冒険者達に道を示してくれました。それを受けて、彼らはこれからどんどん強くなっていくでしょう。そしてその彼らに護衛を頼むのは、私達商人です。延いては我々商人の為にもなっておりますので、その分とお思い下さい」


カトリスはそう言って、ニッコリと笑う。これからの彼らには期待をしている、という事らしい。

カトリスも商人だけあって、口の立つ人物であるなと感心する。シドとリュウは再度顔を見合わせると、互いに縦に首を振った。


シドはカトリスと視線を合わせると、一つ頭を下げてから話す。


「では有難く、心遣いを受け取らせてもらう」

「ええ。是非そうして下さい」


そう言ってカトリスは、爽やかな笑顔をシドとリュウへ向けたのだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] カトリスのおっちゃん 奮発したのか いよっ太っ腹w [一言] 結局二人部屋かw
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