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【書籍化決定】シドはC級冒険者『ランクアップは遠慮する』~稀少なスキルを持つ男は、目立たず静かに暮らしたい~  作者: 盛嵜 柊 @ 書籍化進行中
【第三章】共に生きる者

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52. 紹介と娯楽

黒いモヤは揺れる。


≪勿論、構わぬ。今のやり取りを視た限り、その者は魔法での防御を使っておったのじゃろう。魔法での防御は、それなりに魔力を放出して使う物。

だがこの“防楯(エスクード)”は魔力そのものを利用しはするが、少量の利用で、掌の前に自身の大きさ程の防御幕を張る事が出来る。

一度張れば魔力の継続は要らぬ為、その間も魔法を使う事が出来る。まあ、片手は塞がるがな。クックック≫


なるほど。今の説明を聞いたシドは使えるスキルだな、と思う。


≪スキルは入れておいてから、“使う”と言う意志を込めさえすれば、その都度出現し時間の制限もない。消す時はその逆をすれば良い。その者は中々良いスキルを持っておるの≫


「それで掌の前に出るとの事だが、その手を動かせばどうなる?」

≪その手の前に出るもの故、手と一緒に移動はするが。従ってこれは、多方面からの一斉攻撃には向かぬ。余程、その都度に反応すれば別であるが、人の身ではそうも素早く反応する訳にも行かぬであろう≫


「そうなのか。その防楯(エスクード)の防げるものは…物理攻撃だけか?」

≪否。魔法と物理が防げる。部分的な防御ではあるが、魔法での“障壁(シールド)”の効果が得られると思えば、想像しやすかろうて≫


「そうか、解かった。助かった<マーキュリー>」


≪ククッ。これ位は造作もない。今まで知識だけは蓄えてあるからの≫

そう言ってモヤは、シドの傍まで移動する。


≪それではおぬしの番だ。礼として“一撃(ヤーク)”のスキルを追加した。使うと良い≫

<マーキュリー>も唐突である。だがシドも慣れてきたので、気にしない事にした。


「それはどんなスキルだ?」

≪一撃、大きなダメージを与えられるという物だ≫

それは何となくだが解かっていた…。


「そのスキルを入れたまま戦えば、ずっと大ダメージを出せる事になる、という事か?」

≪クックック。おぬしも面白い事を考える。それでは“ズル”ではないか≫

「………」

先程の説明からすれば、そのように考えてもおかしくはないはずだったのだが…。<マーキュリー>の笑いのツボも良く分からないシドである。


「ではその大ダメージとはいつ出るものなんだ?」

≪我にも分からぬ≫

「………」

意味が分からない。


「どう言う事だ?」

≪そのスキルは、決まった法則は無く出現するもの故、我にはいつそれが出るかは分からぬし、知らぬ。スキルを入れていても、一度も出ないかも知れず、はたまた連続して出るかも知れぬ、という物≫


「では、この“一撃(ヤーク)”というスキルは所謂“クリティカルヒット”を発生させるものだが、いつ出るかはその時次第、という事か?」


≪然様。正解だ≫


ふむ、なるほど。そもそも、そのスキル無く今までやってきた事を考えれば、“一撃(ヤーク)”が出れば儲けもの”位で捉えておいた方が良さそうである。使えるスキルかもしれないが、無くても支障はなさそうな…。

そうシドが考えていると、<マーキュリー>の音が頭に響く。


≪身体強化と集中(フォーカス)を併用して使えば、出力も上がるであろう。そうよの…発動すればおぬしの攻撃力は、普段の併用時からの10倍になりうるやもしれん。硬い物も“スッパリ”よ。クックック≫


シドにはもう、意味が分からない。は?10倍?という事は、シド本来の倍の10倍……?。

そこで深く考える事を止めた。

このスキルはランダムに発動し、当たればラッキーという事にしておく。


「何となくだが、イメージは掴めたと思う。助かる、感謝する」

<礼には及ばぬ。我も今までになく“廻る” 魔素(マナ)が心地よいでの。クククッ≫


シドはリュシアンを振り返って見ると、じっとシドを見ている眼差しと交差した。

その意を受けて、壁際に居たリュシアンはシドの隣に立った。


「<マーキュリー>、紹介する。俺の連れの“リュシアン”だ。今後も一緒に旅をする予定なので、よろしく頼む」

紹介されたリュシアンは、何も見えず聴こえもしないが、シドの向いている方を向いて頭を下げた。


≪ふむ。迷宮(ワレラ)と接点はなかろうが、覚えておくとしよう。機会あればまた、姿を視る事もあろう≫

そう言って、モヤは揺れる。


「一つ聞くが<マーキュリー>の事は、皆に知らせた方が良いか?」

≪否。このままで良い。我は少ししてのち活動を始めるが、ここにもよく人間が来るでの。その時に来た人間が驚くのを視るのも、又一興というものよ。クックック≫


100年以上居て、余程娯楽に飢えているのか。シドには良く分からないが、このまま知らない振りをしていて良いらしい。


「分かった。俺達からは特に知らせは出さない」

≪うむ。それで良い。…おや?おぬし達は“雨凌ぎ”で来ておったの。ではもう大丈夫そうだぞ。雨は過ぎた故、出立できるであろう≫


「そうか。休ませてもらって感謝する」

≪礼は無用。では楽しい旅を続けるが良い。また会おうぞ≫


言われた瞬間、シドとリュウは雨宿りをしていた穴の中へ戻っていた。それに又ビックリしたリュウが、一つ大きなため息を零した。

「はぁ…緊張した…」


どうやらずっと気を張っていたらしい。

確かにシドには多少慣れている事ではあるが、リュウは初めてで、しかも相手が見えず声も聴こえない物が目の前には居るのだ。自分の動きで場を乱してはならないと、気を遣ってくれていたのだろう。


「余計に疲れさせて、すまなかったな」

「いいや、これは貴重な体験をさせてもらったと、捉える事だと思うんだよね」


まだ、顔の筋肉が戻っていないリュウが、ぎこちない笑みを浮かべる。

「それに、ダンジョンに僕の事まで紹介してくれて、ありがとう。何だか不思議な気分だったよ」

「そうか。一箇所のダンジョンに話しておけば、他のダンジョンにも情報が共有されるらしいので、これで“リュシアン”も有名人だな?」

口角を上げたシドが、リュウを見る。

「ちょっと…勘弁してよ…」

リュウはそう呟いた。


2人は話しながら手早く荷物を纏めると、雨の上がった外へ出る。

林の中で風は通り抜けるものの、気温も高く湿度を含んでいる為、さっきよりも蒸している気がする。

シドとリュウはゲンナリした顔で互いを見ると、諦めた様に南西へ向かって歩き出したのだった。


そしてポツリとリュウが言った。

「やっぱり高確率だったね…」




シド達が出発したその日の夜半、穴である入口には“マーキュリー”と言う文字が、染み出る様に浮かんできたのだった。



-----



シド達は南西を辿り、元の街道へ出た。

「下草で足元が濡れちゃったね」

「そうだな。でもずぶ濡れになるよりは、ましだがな」

そう言ってシドは、リュウの頭に手を置いた。

リュウは少々グッタリしてしまっている様だ。

「この先で今日は野営だ。湿気は多いが、これも野営だと諦めないとな」


その話の後、一時間程街道を歩いている間に、先程の防楯(エスクード)について、リュウに伝える。それを、目を白黒させながらリュウは聴いていたのだった。

そして空が茜色に染まり始めた頃、道の分岐に到着する。


よく見れば、その道を越えた西側の草地には、1台の馬車が馬を外して停めてある。

そこは草地の奥にある木立の様だ。木立の先には休息できそうな広場も見える。


「あそこに休憩できる広場がありそうだ。行ってみるか」

「うん」


2人がそこの広場へ入ると、先に居た者達が顔を向けた。シドとリュウは会釈をしてそこへ近付く。


「俺達は冒険者だ。今夜はこの広場に泊まっても良いか?」

言われた者達は顔を見合わせ、不安げにしつつも頷いてくれた。


「俺達はあちらの奥にするので、こちらには近付かない様にする」

シドは、その人達から離れた奥を差して話す。


多少なりともシドの気遣いに気付いた者が、声を発した。


「すみませんね。最近の冒険者達は少し殺気立っている様で、こちらとしては少々警戒をしているんですよ。こちらに危害を加えないのなら、好きにしてもらって構わないですから」


そう言った人物は30代位で、どうやら商人の様だ。艶やかな栗色の髪に琥珀色の眼をこちらに向け、ズボンにベストを着用していて冒険者の様な装いではない。

その奥には護衛の為か、D級位の冒険者らしき者達も5人いる様だ。


「そうか。感謝する」


シドはそう言って会釈すると、2人は広場の端に移動して、そこで野営の準備を始めたのだった。


いつも拙作をお読みいただきありがとうございます。

誤字報告も、重ねて感謝申し上げます。


本日、評価者様が2,000人を超えました旨、ご報告をさせていただきます。

少しでも“面白い”と感じてご評価下さいました皆様にも、とても有難い事と深く感謝しております。

いつもこのお話にお付合い頂き、本当にありがとうございます。

いつも皆さまが応援して下さって、こうして続ける事が出来ております。

まだまだ未熟な筆者ではございますが、これからもシドにお付合い下さいますと幸いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 防御の手が増えたのはいいことだ 会心の一撃がバワーアップかなw 馬がいない馬車 罠かな? [一言] さっそく使いどころができたかな?w
[一言] 名前的には銃架や砲塔を守る盾だから実際の使い道も攻撃時の防御になるのかな
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