表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化決定】シドはC級冒険者『ランクアップは遠慮する』~稀少なスキルを持つ男は、目立たず静かに暮らしたい~  作者: 盛嵜 柊 @ 書籍化進行中
【第三章】共に生きる者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/108

51. 暗雲に追われて

宿屋“束の間の休息”を出たシドとリュウは、宿から南門へ行く道すがら、メイン通りの屋台を覗いている。


先程、朝食を食べたにも係わらず腹が鳴りそうな程そそられる、肉の焼ける匂いが辺り一面に漂っていた。

2人は好みの物をそれぞれ買い求め、門から街道へと入った。


「リュウは、菓子が多かったな」

「それはそうでしょう。僕の燃料だからね」

と言ってリュウはカラカラと笑う。野営の不便を紛らわす様に、食事で補おうとする2人だった。



-----



今歩いているこの道は、緩く南下しつつ西へ向いている。この先に行くと、北にあるオデュッセの街から続いている街道と合流し、モリセットの街へと南下する事となる。今日はその合流地点辺りで野営をするつもりだ。そこで野営場所を探す事となる。


2人は順調に歩みを進め、休憩を取りながら歩いている。

今はまだ夕方前。太陽も眩しい時間のはずが、歩いているシド達の影が薄くなっている事に気付いた。


シドは空を見上げる。

千切れた雲が通り過ぎて行くが、南の空から色の濃い雲が近付いている。少し風も出ているし、これは一雨きそうだな、と思うものの、ここは未だ分岐の手前で、周辺は両側2キロ程離れた場所に、林が広がっている位である。要するに、雨宿りできる処が何もないのだ。


「リュウ、雨宿りをするから場所を探す。手伝ってくれ」

「やっぱり降りそう?」

「ザっと来そうだな、これは」

「濡れ鼠だけは、ご免だよね」

「ああ。だから頼むぞ」

「了解」


2人は道から外れ、北側の林へ向かう。北側の林の方が木々が密集しているので、凌ぎやすいかも知れないと思っての事である。

2人を追いかけて来るように、雲が広がって来る。シドとリュウは林に入ると、方向を違えぬ様に確認しつつ、奥へと進んで行った。


暗雲が追い付いてきた。2人は外套を羽織り、足早に歩く。

ポツリポツリと空から雫が零れだした頃、小高くなった傾斜の裾に影を作っている場所を見付け、2人はそこへ向かった。


近付いて確認すれば、人が5人位横並びに入って寝ころべる程の“窪み”と言える穴だった。高さも同じ位しかない。


「ここで少し凌ぐか」

「そうだね。ここなら休憩も出来そうだね」


余り濡れる事なくここへ辿り着いた2人は、腰を下ろしてから亜空間保存(アイテムボックス)の飲み物を出し、休憩を始める。


「ここから西へ進んで、街道に出るんだよね」

「そうだ。今日はその街道まで行った辺りで野営しようと思っていたのだが、この雨の具合にもよるな…」

そう言ってシドは外を見る。

外は既に大粒の雨が降り出していた。


「直ぐに止むといいけど…」

「そうだな…」



「…ねぇ、ここってダンジョンじゃないよね?」

「…何故、それを聞く?」

「だって、シド(・・)の行く所って、ダンジョンの確率が高い気がするから…」

「ぶはっ…」

飲み物が変な所に入った。

否定できないだけに、シドは言葉に詰まる。喉にも詰まったが。


だがここは見るからに奥行きもなく、入口に名前も出ていないので只の“穴”であるとは思うが、そう言われると何だかそんな気がしてくるから、不思議である。


(ちょっと声を掛けてみるか…)


シドは軽い気持ちで、確認をする事にした。


≪誰かいるのか?≫

精神感応(コネクト)を入れて声を掛ける。



≪ここにおるぞ≫


明かに、シドに対する返事であろう音が、頭の中で響いた。

シドは嫌な予感がして、リュウを覗き込み肩を抱き寄せた。

「ダンジョンだった様だ」

「ええ?!」

シドがリュウにそう告げた時、2人の姿は一瞬にして消えた。



-----



2人は、仄暗く大きくはない空間に出た。

シドはコレに慣れているがリュウは初めての事で、シドにしがみ付いている。2人はゆっくりと立ち上がると、リュウが疑問をぶつける。


「どうなっているの?ここは何処?」

「多分ダンジョンの中だ。空間転移で連れて来られたらしい」


シドの落ち着いた声に、リュウも少し落ち着きを取り戻す。

その頃には、シド達から5m位離れた場所に、黒っぽいモヤの様なものが現れ、シドに話しかけた。


≪おぬし、“再生者”か?≫

「ああ、そうだ」

≪そこの者は、違うようだの≫

「ああ。俺の連れだ」


シドはそう返事をしてリュウを覗き込むと、シドが独りで話し始めた事で、リュウはシドの顔を見ていた。


「目の前に、ダンジョンの意思が具現化した物がいる。リュウは見えているか?」

聞かれたリュウは顔を横に振った。


「そうか。俺はこれからダンジョンと話す。離れてもらっても大丈夫だ」

言われたリュウはしがみ付いていた手を離し、シドの隣に立つ。


「待たせた、俺は“シド”。“再生者”だ」


今はリュウもいる為に精神感応(コネクト)は入れずに話している。


≪うむ。我は“マーキュリー”、迷宮(ダンジョン)である≫

「名が出ていなかったが、あそこも<マーキュリー>の一部なのか?」


≪然様。名は掲げられぬ事情があっての事よ≫

「そうか。俺は何か手伝えるか?」


≪再生者がおれば、(ダンジョン)の不具合は解消するであろう。頼めるか?≫

「ああ。俺はその為に居る様なものだ」


≪クックック。頼もしい事を言ってくれる≫

黒いモヤは揺れる。


≪我が生まれたのは、人間で言う120年前の事だ。だが、今も表には迷宮(ダンジョン)として姿を見せる事は叶わずにおる≫

「何故だ?」


≪我に入る魔素(マナ)の量が、圧倒的に少ない。我が生まれた時からそうであった。故に(ダンジョン)の形を維持する事は出来ても、それ以上の変化をもたらす事が出来ずにおる。活動は出来ぬと、いう事よの≫


モヤは揺れる。


≪なれば、と迷宮(ダンジョン)を地上と切り離し、何とか魔素(マナ)の流れを修正しようとしておったのだが…。そこへおぬしが来たと言う事よ≫

「分かった。であれば、俺に不具合を解消できるかも知れない。実行しても構わないか?」


≪勿論よ。頼むぞ≫

シドは一つ頷くと、リュウに向き直る。


「リュウ。これからこのダンジョンの不具合を治す為に、迷宮再生(ダンジョンリペア)のスキルを使う。この場所に支障は出ないと思うから、少し離れていてくれ」

「…解った」


それを聞いたリュウは、壁際まで後退すると頷いた。


頷き返したシドはモヤへ向き直り、剣を外すと片膝を付き剣を置く。

掌を地につけ目を瞑ると、シドの体から魔力が立ち昇る。


迷宮(マーキュリー)の内部が脳裏に映し出される。13階層の中型の様だが、問題が解消すればこれから少しずつ大きく成長するものなのか…。

それに、言われたから気付く事かも知れないが、確かに魔素(マナ)の量が他の迷宮(ダンジョン)より薄い気もする。

では、迷宮(マーキュリー)が活動できるように、この魔素(マナ)の流入元を改善しないといけない訳だ。理解した。



聖魂快気(スピチュアルアライヴ)



シドは集中(フォーカス)を入れて詠唱する。

迷宮をほぐし攪拌させ、大地との繋がりを正常なものへと変え…戻す。


時間にすればほんの短い間で、シドの纏う魔力が消え、スキルを切る。

シドはゆっくりと剣を手に立ち上がると、黒いモヤを見た。


「流れはどうだ?」

≪流れは潤沢となり滞りなく…感謝する、シドよ≫


シドは一つ頷き、気になる事を先に聞く事にした。

「もし礼があるなら、そこにいるリュシアンに防御系スキルを付与してくれないか?」


それを聞いたリュシアンが身じろぎしたらしく、衣擦れの音がした。


≪再生者よ、それは叶わぬ。迷宮(ワレ)の想いはおぬしにのみ向いている故≫


それを聞いたシドは、落胆を隠せぬ顔でリュシアンを見る。

その表情に気付いたリュシアンは、それを理解した様に一つ頷いて見せた。




≪それにその者は既に、防御スキルを持っているであろう≫


<マーキュリー>のその言に、シドはモヤを振り返る。

「本当か?」

≪我は真実しか言えぬ。その者は“防楯(エスクード)”をもっておろう。おや、気付いておらなんだか?≫

「……」


シドは、リュシアンのスキルの話を詳しく聴いた訳でなく、移動時の軽量化(レウィス)スキルの事を話しただけである。リュシアンを振り返り尋ねる。


「リュシアン、防御系スキルを持っているのか?」

「いいえ。水では使うけれど、スキルでは持っていないわ。私のスキルは軽量化(レウィス)一つしか無いと思うし」


それを聞き、シドは続ける。

「リュシアンにはもう一つ、防御スキルの“防楯(エスクード)”があると言う事だ」

「ええ?!」


リュシアンはビックリしすぎて、声が止まってしまった様である。

その間にシドは<マーキュリー>へ向き直ると、再び問いかける。


「すまないが、その“防楯(エスクード)”の事を教えてもらえるか?」


シドの問いかけに、黒いモヤが肯定する様にゆるりと揺れた。


補足:作中で“リュウ”と“リュシアン”が混同しておりますが、ご了承下さい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] …シドの行く所は、ダンジョンの確率が高い気がする…か… …シドが再生者として自覚した上でダンジョンのモヤと接触したから、そんなオプションが…表示されない能力を得たのかもしれませんね…ス…
[一言] 防御スキルは、持っていた。でも、他にも持っているのかは……www 持ってる気がするね!(聞かれてないから答えなかったw)
[一言] 感想返し感謝致します。 やはり作者さんによって解釈がだいぶ違うのですね。 とある作者さんの後書きによって、感想を出さずに「いいね」ですませるのは手抜きなのかな…?と思い始めていましたので、そ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ