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【書籍化決定】シドはC級冒険者『ランクアップは遠慮する』~稀少なスキルを持つ男は、目立たず静かに暮らしたい~  作者: 盛嵜 柊 @ 書籍化進行中
【第三章】共に生きる者

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50. それぞれの想い

シドは2本の剣を取り出し、1本ずつ丁寧に手入れを始めた。今日も良く働いてくれたので、しっかりと労ってやる。そしてシドは、思考に沈む。


先程ギルマスの話を聞いた事で、依頼が少ない事や冒険者達が多い理由は判明した。


もし<イーリス>の準備が整っていたならば、そちらの情報を開示して、冒険者達を誘導する事も出来たかも知れないが、あれからまだ1週間も経っていない為、時期尚早なのだ。

流石にまだ<イーリス>の情報は伝えられないと、残念にも思う。


だが<ボズ>ダンジョンは“ドロップラッシュ”だと言う。

シドは初めて聞いた言葉だが、言い得て妙とはこの事か。その言葉を聴けば、皆が行きたくなるのも当然と言えば当然だろう。

仮令<イーリス>の事が明るみに出たとしても、<ボズ>が平常に戻らない限り、冒険者達の分散は望めそうにはないのかも知れない。


それにしても、ダンジョンのドロップ率が上がるとは、正常な事なのだろうか。

それに付随して、高値の付く物も出ていると聞く。今まではダンジョンマスター位でしか得られなかった物が、それ以外で手に入るとなれば、皆の目の色は変わるだろう。

俺の持っているこの剣も、どうやらそれにあたるらしい。コンサルヴァに行き着いた時期から考えても、その可能性は非常に高いと言える。


やはり<ボズ>には、どうあっても行かねばならない様だと、腹を括る。


しかし、街に泊まる場所もないとは…。


モリセットはそんなに小さな街でもなく、したがって宿屋の数も、少なくはなかったはずである。

元々が、リーウット領から王都までの、物流の中継地点の役割を担う街だった事もあり、商人達の出入りも多い街なのだがその者達も多分、宿に泊まれずに大変な事になっているのかも知れない。


全く質の悪い…。


思考から浮上したシドは、剣の手入れを終えると切れた服を着替え、腹を括ってリュウの眠るベッドの隅に潜り込む。


体を横に出来るだけで多少は疲れが取れる為、リュウに背を向ける様にベッド際に落ち着いた。

そのまま一つ息を吐き、そしてゆっくりと瞼を閉じると、シドは直ぐに暗闇の中に引き込まれていった。




温かくやわらかなものが背中に当たり、シドの意識は浮上する。

少しは眠れた様だ。

ゆっくりと瞼を開けば、どうやらシドの背中には、ピタリとリュウがくっついているらしい。まだ部屋は暗く、窓から入る街灯の薄明かりが室内を照らしていた。


(…参ったな…)


しかもリュウがシドに抱き付くようにして腕を回している事で、リュウ自身の花のような甘い香りも鼻をくすぐる。

上着を脱いでいる為、互いに服は薄い物しか身に着けておらず、背中に神経が集中してしまっているかの如く、意識してしまう。


回している腕の細さ、背中に当たる小さな存在は、温かく柔らかくシドを包み込んでいる。


あらぬ事を考えそうになって、シドはその思考を遮断する。


だめだ。

リュシアンは、シドが気軽に手を出して良い相手ではない。

もしも何かしてしまえば、リュシアンが実家に戻った後に結婚の話が出た時、その事は障害にしかならないだろう。

今のところリュシアンと離れるつもりはないが、いつ何時、何があるか分からないのだから、シドが自分を律するしかないのだ。


「ん…」


声と共にリュウが手を離してくれた。

そこでシドはゆっくりと、ベッドから降りる。

“キシッ”

小さな音を立てて苦行を抜ければ、リュウは無防備な顔で眠っていた。


「……」


シドは自分が乱した物をリュウに掛け直すと、そっと小さな唇に一度触れた。

そして指の背で柔らかな頬をひと撫でしてから、椅子に座りそこで瞼を閉じると、ゆっくりと眠りに引き込まれていった。


シドがそこで眠りについた頃、ベッドの中の者が薄く目を開く。それから少しの間、暗闇を見つめていたが、またゆっくりと瞼を閉じたのだった。



-----



部屋の中が明るくなった頃、ベッドで眠っていたリュウが目を覚ました。リュウが視線をテーブルへ向ければ、シドは座ってお茶を飲んでいる。


「おはよう」

そう言ってゆっくりと体を起こしたリュウは、そこで大きく伸びをする。


「おはよう。よく眠れたか?」

「ええ。お陰様でぐっすりよ」


口調の戻っている事に苦笑して、シドは一つ頷く。

「そうか。まだ朝食には間があるから、ゆっくりしていても良いぞ」

「いいえ。もう起きるわ」


そう言ってベッドから出ると、その端に座り直す。この部屋には椅子が1つしかないのである。


「何か飲むか?」

「お水が欲しいわね」

「了解」


シドは亜空間保存(アイテムボックス)を小さく開くと、中から水差しとコップを出し、注いだ。


「ありがとう」

リュウはそれを受け取って一気に飲み干すと、コップをテーブルに戻した。

「まだ飲むか?」

「いいえ。もう大丈夫よ、ありがとう」

そう言ってニッコリ笑う。


シドはここで、少しの違いに気付く。

何故かリュシアンの機嫌が、少し悪いのではないかと。だが、ここでそれを口にすれば逆効果になりそうな気がして、シドはそのまま気付かない振りをしたのだった。多分、それが正解である。


そしてすかさず、話を切り替える。


「今日からの事だが、少し良いか?」

「ええ」


「この町を出れば、次の街はモリセットになる。モリセット迄は約2日。朝にここを出れば、次の日の夜までには到着する。

だが、宿が無い事を踏まえると、モリセットの手前でもう1泊して、明後日の朝からモリセットへ行く事も選択肢として出てくる。

まぁどっち道、街へ着いても野営になる事にはなると思うが、リュシアン(・・・・・)はどうしたい?」


「……。まだ考え中。先に聞くけど、兄さんは<ボズ>に潜る予定?」


シドの問いかけに、何かに気が付いたリュウが、口調を戻して答える。

多分本人は、自分の変化に気付いていなかったのだろう。それを聞いたシドはニヤリと一つ笑ってから返答する。


「俺は、昼間には入らない予定だ」

「え?じゃあ、いつ潜るの?夜間は封鎖してあるって聞いたけど」


「そうだな。俺の勘が間違っていなければ、何とかなるはずだ。まぁ行ってみないと判らないが、一応<ボズ>の確認はするつもりだ」

「…わからないけど、分かったよ。兄さんの動きに合わせるから、選択肢は任せる。食料をこの町でも補充しておけば、後はどうとでもなるからね」


「そうだな。では今日は、食料の買い出しをしたら、直ぐに出発する。明日の夜までにはモリセットに入って、先に街の下見だ。その後は又考えよう」

「わかった」


2人がこれからの予定の話を終えた頃、扉がノックされた。

コンッ コンッ

「食事を持ってきたけど、良いかい?」


その声にリュウが扉を開けた。

「おはようございます。お願いします」

リュウは言ってからベッドの脇に戻ると、入ってきた店主は、今日も人好きのする笑みを浮かべている。


「おはよう。よく眠れたかな?」

そう言って店主は、トレーに乗せたままの朝食を、テーブルへ置く。

「はい。よく眠れました」

リュウの返事に店主は一つ頷くと、笑みを浮かべたまま告げる。


「狭いからこのまま置いておくよ。食べ終わったら、このまま置いておいて良いからね」

ニコリと笑みを浮かべ、店主は戻って行った。


出された料理は、狭い部屋でも食べ易い様にだろうか、パンに肉や野菜がぎっしりと挟んである物と、カップに入ったクリーム色のとろみのあるスープだった。

2人は有り難くそれらをいただくと、荷物を持って部屋を出る。


今の時間にはもう、屋台などの店は開いているはずだ。受付まで行って食事代を支払うと、シドとリュウは店主に向き直る。


「お世話になりました。又トニーヤに来たら、寄らせてもらいます」

リュウが敬意をこめて伝える。


「今度来た時は、ちゃんとベッドを2つ用意するからね。又おいで」

「はい」

「気を付けて行くんだよ」

「ありがとう」

リュウが笑みを浮かべ、シドは会釈をする。

店主はそれに、にっこり笑って一つ頷く。


踵を返して宿屋の扉を開ると、シドとリュウはゆっくりと町の中へ消えていった。


「彼らは何かを抱えているようだね…」



真顔に戻り独り言をつぶやいた“サンボラ”は、閉まった扉をしばらく眺めていたのだった。


★更新についてのお知らせ★

また継続して更新が出来そうなので、明日からも引き続き毎日更新をいたします。

日にちが空く様になりましたら、またお伝えいたします。

引き続きお付き合い下います様、よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 50/103 50. それぞれの想い ページ真ん中ら辺 まぁどっち道、街へ着いても野営になる事にはなると思うが、リュシアン・・・・・はどうしたい?」 「……。まだ考え中。先に聞く…
[一言] いまは、なろうでの貴重なファンタジー?として、いつも楽しみに読んでいます。 更新回数は多いにこしたことないですが、定期的に更新していただけるだけありがたいことだと思っています。 感謝を伝えた…
[良い点] わりとあっさり寝ちゃったな もっとモンモンするのかとw 「意気地無し・・・」て言うかと思ったw [一言] 元ギルマス 只者ではないな
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