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【書籍化決定】シドはC級冒険者『ランクアップは遠慮する』~稀少なスキルを持つ男は、目立たず静かに暮らしたい~  作者: 盛嵜 柊 @ 書籍化進行中
【第三章】共に生きる者

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49. 好々爺

「まぁそう言う事で、君達には迷惑をかけたな。あいつ等にはきつく言っておくから、許してやって欲しい」

そう言ってテイラーは、頭を下げる。


「別に、謝ってもらわなくても良い。俺達は特に気にしてもいないし、それにモリセットの情報も聞けたからな」

シドがそう言うと、テイラーは頭を上げた。


「悪いな。それで、これはポーション代だ。こっちはあいつ等に請求するから、これは受け取っておいてくれ」

そう言うと、銀貨2枚をテーブルに出した。


シドとリュウは、そこで顔を見合わせた。

シドが、ポーションは1本銀貨1枚のはずだが?と思っていると、一応詫びも入っているからとテイラーに言われ、流す為にもそれを受け取る事にした。

「分かった。受け取らせてもらう」


テーブルに出ていた銀貨をしまったシドは、もう一度テイラーに視線を戻す。

「一つ気になる事がある。聞いても良いか?」

「ああ、良いぞ」

テイラーが頷いたのをみて、シドは尋ねる。


「“束の間の休息”に泊まると、何で問題ないんだ?」

それを聞いたテイラーは“おや?”っと驚いた顔をしてシドを見返した。


「良く聴いていたな…。まぁ、これは余り知っている者がいないので、公にはしないで貰いたいんだが」

と、そう前置きしてから一度シドとリュウの顔を見ると、また話し出した。


「13年前までは、そこの店主がここのギルマスをしていたんだよ。引退して、それからは色々と俺の相談役の様な事をしてもらっている御仁でな。あの人は人を見る目もある。だから宿に泊める者は、あの人のお眼鏡にかなった人しか泊まれないんだ。そういう意味であそこに泊まれるのならば、人として悪い者ではないと判断できる。という事だな」


「…そうか。ただの好々爺ではないとは思っていたが、そう言う事か」


「お?何だ、気が付いていたか。一見ただの優しそうな爺さんに見えるから、騙される奴は多いんだがな。ははっ、あの人の目はやはり“確か”だという事の証左だな」

テイラーは口角を上げて、シドとリュウを見たのだった。



-----



それから2人は、テイラーの執務室を出てギルドの受付に戻ったが、そこにはまだあの者達は、戻ってきていない様子だった。

多分、こってりと絞られているのだろう。

そのままそこを通り過ぎると、ギルドの重い扉を開けて、夜の町へ出たのだった。


「も~お腹が空き過ぎて、グーグー鳴りそうなのをずっと耐えてたよ…」

やっとギルドから解放された2人は、もう飲み屋位しか開いていない時間に、夕食の話をしている。


「どこか、食べるところを探さないとな。無ければ無いで、アレに入っている物で済ませるという手もあるが…」

「ん~。折角色んな街を廻っているのに、その街のご飯を食べられないとか、不幸だよ…」


言ったリュウの顔を見れば、しおれたワンコの様になっていた。食事の事には手を緩めないリュウは、やっぱりリュシアンなのである。


こうして宿までの道のりを、町の中心部へ向かって歩いていると、良い匂いが漂ってきた。リュウはその匂いに気付くと、目を輝かせて辺りを見回している。


その匂いの出所は多分、外にまでテーブルが置いてある店だろう。広く取ってある窓からは、美味しそうな匂いと共に笑い声も聞こえてくる。

シドはその店の前まで来てから、店内の様子を見る。殆どは酒を飲んでいる様だが、店内の雰囲気は悪くない。


「リュウ、ここでも良いか?」

「うん!」

リュウは返事の後に、“早く早く”と付け加えそうな勢いで、シドを見ている。


シドは苦笑して一つ頷くと、一歩店内に入る。

だが見たところ、店内は満員だ。


「いらっしゃいませ。外の席でも良いですか?」


給仕の女性がシド達に気付き、声を掛けた。

それに、シドがリュウを確認すれば、頷いている。


「ああ。ではこっちに座っても良いか?」

シドは店の前に出ている、今見えているテーブルを差して言う。

「はい大丈夫です。今メニューをお持ちしますね」


それを聞き、シドとリュウは入口近くにある席に座った。直ぐにメニューを持ってやってきた女性に、シドが聞く。


「食事がしたい。何かあるか?」

「では、揚げたお肉を、卵でとじた物がお勧めですね」

シドはリュウに目線を向ける。


「リュウ、いいか?」

「うん」

「ではそれを2つと、サラダも頼む」

「畏まりました。エールは飲まれますか?」

「いや、アルコールは止めておく」

「では、お茶をお持ちしますね~」

「頼む」

注文を取った女性は、チラチラと振り返りながら店の中に戻って行く。


それを見送った後、リュウが息を吐いた。

「はー。本当に今日は踏んだり蹴ったりだったね」

やっとギルマスから解放されて、リュウは零す。


「昼はリザードマン、そして宿探しに夜はアレでしょう?」

そう言ってリュウは、上目遣いにシドを見る。


「兄さんってもしかして、何か引き寄せてる?」

「…その言い方は、止めて欲しいのだが…」


あながち否定出来ない、シドなのであった。



暫くすれば、女性のお勧め“ブウ綴じメシ”が出てきた。

「お待たせしました~」

そう言ってシドとリュウの目の前に、器にこんもりと盛られた、黄色い美味しそうな湯気を上げている料理と、サラダが並んだ。それは見るからに、大盛りに見える。


「えっと…大盛は頼んで無かったんだけど…」

リュウが困ったような顔で、給仕の女性を見上げる。

「あの…大盛はサービスなので、良かったら食べて下さい」

女性は、はにかんだ笑みを浮かべてリュウとシドを見た。


「ありがとう。では遠慮なく、いただきます」

毒気の抜かれた満面の笑みを浮かべ、リュウはお礼を伝える。

「いえ…ごゆっくりどうぞ」

と、真っ赤な顔で店内に引っ込んで行った女性を見送り、シドは思う。


リュウは“レディーキラー”なんだな、と。



-----



やっと夕食を終えたシドとリュウは、星を見ながら宿へ戻る。

「明日は出発するんだよね?」

「ああ。この町にいても色々と不都合があるから、移動した方が良いだろうな」


シドは、この先に待っている己の境遇を考え、そう呟いた。

それが聞こえたリュウは、納得したらしく同意する。

「そうだよね。食事は美味しかったけど、依頼も無いし宿も狭いからね」

一人、コクコクと頷いている。

「そうだな…」

それに、元気のない返事をするシドであった。



2人が宿に戻ると受付け近くには、店主がいた。

「お帰り。遅かったねえ」

「ただいま戻りました。ちょっとゴタゴタして、遅くなりました」


苦笑して話すリュウから、シドへ視線を向けた店主は尋ねる。

「何かあったのかい?」

シドは自分への問いと理解し、話す。

「冒険者ギルドで少し絡まれた。それでギルマスに捕まっていた」


「…そうかい。それは面倒だったね。ああ、だから服が切れているんだね?」

「まぁ、そんな処だな」

「…全く、最近は色々と物騒だね。早く以前の穏やかな町に戻ると良いんだけど、こればかりは遺跡まかせだからねえ」


色々と詳しそうな様子を見れば、やはりギルマスとは親密なのだろうと窺えた。


「ああ、疲れているところを話し込んでしまってすまないね。狭いがゆっくり休んでおくれ」

「はい、そうさせてもらいます」


3人はそこで別れ、シドとリュウは部屋へ戻る。

入って早々、リュウはベッドの端に腰かけると、そのままパタリと横に倒れた。


「ふぅ…もう眠いよ…」

「そうだな。疲れているから、もう寝るか」

「そうだね。…僕が奥で良い?多分コロコロするから、端だと落ちちゃいそうなんだよね」


そう言ってリュウは、上着を脱ぐと壁際に行って布団へ潜る。そしてシドに顔を向けて、屈託なく笑う。


「ヘヘへ。もう取っちゃったから、兄さんはこっちね」

パンパンと自分の横を叩きながら笑っている。


「…ああ。俺は構わないから、好きにして良いぞ」

シドが承諾すると、リュウはそのままあくびをした。


「じゃあ、お休み」

「ああ、お休み」

そう言ってすぐにリュウは目を閉じた。

少しすれば、規則正しい呼吸が聴こえてくる。リュウは寝つきも早いのである。


それを眺めつつ、シドは椅子へ座る。

「……」

シドも今日は少々疲れてはいるが、これでは翌日までその疲れを持ち越しそうである。

「はぁ…」


切ない溜息を吐いて、シドの長い夜はスタートしたのだった。


いつも拙作をお読みいただき、ありがとうございます。

誤字報告も併せて感謝申し上げます。

本日“活動報告”にも記載いたしましたが、お話の『章』を設定いたしました。

少しは見易くなりましたでしょうか。


また、“ブックマーク・☆☆☆☆☆・いいね”を頂きます事、モチベーション維持に繋がりとても感謝しております。


明日も更新いたします。

これからも冒険者シドにお付き合いの程、よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 理不尽に絡まれて斬りつけられてもポーション代で済まされるならそりゃ治安も悪くなるわ
[一言] 人を見る目がある元ギルマスが『1人部屋だけどいいかい』と言ったんだと思うと、もしかして気づいてるんじゃないかと…
[一言] 漂ってくる香りで眠れなくなるなこりゃw
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