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【書籍化決定】シドはC級冒険者『ランクアップは遠慮する』~稀少なスキルを持つ男は、目立たず静かに暮らしたい~  作者: 盛嵜 柊 @ 書籍化進行中
【第三章】共に生きる者

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47. トニーヤの町

街道へ戻る為に又森の中を歩く2人は、戦闘の疲れも見せず足取りも軽い。

リュウはシドの顔を振り仰ぐと、目を合わせて聞く。


「さっき、あの人達には、僕の階級はわざと伏せたんだね?」

「そうだ。リザードマンの討伐は、基本C級以上。その上、リュウの戦闘も見られている。F級にあの動きは出来ないから、F級なんて言おうものなら大変な騒ぎになるだろう?」

シドは口角を上げ、リュウを見る。


「言い訳が面倒だもんね。あの言い方だと向こうが勝手に想像してくれたから、正解だね」

リュウもニヤリと口角を上げた。


「兄さんと一緒にいると、悪知恵が勉強になるよ」

「おい、それは失礼だろう?せめて“世渡り上手”と言ってくれないか」

「え?兄さんは上手なの?」


「……言葉を間違えた様だな」

シドも自分が世渡り下手だと、自覚はあるらしい。変に素直なシドであった。


「せっかくあそこで、美味しいお菓子でも食べながら休憩しようと思ったのに。全く、台無しだよ」

言ったリュウの顔を見れば、口をへの字に曲げている。


「そうだな。綺麗な景色だったから、暫く休憩しても良かったんだが…。魔物が落ちている場所では、情緒もないしな」

シドも苦笑して同意する。


「兄さんは今まで、リザードマンの討伐に参加した事はあったの?」

「ないな」

「そっか。僕も知識としては名前を知っていたけど、南部では見た事がなかったよ」


「リュウの拠点にしていたニールの街の近くには、大きな河もなかったしな。リザードマンは海には出ないものらしい」

「そっか。淡水なんだね。もしかして、しょっぱい水が嫌いとか?」

「そうみたいだな」

2人は笑い、嫌な記憶を塗りつぶす様に話しながら、トニーヤへ向けて街道を目指し歩いて行った。



-----



夕陽の影が長くなった頃、シドとリュウはトニーヤの町へ到着する。

町中の道にもちらほらと明かりが灯り始め、これから開く店や店じまいの支度を始める店で、賑わっている。


トニーヤの町の大きさはレステの街と同じ位だが、町の外側で畑を営む人が多く、町の中はのんびりとした雰囲気を滲ませていた。


(ここに、本当に冒険者ギルドがあるのだろうか…)


今まで“町”とつく場所には冒険者ギルドがなかった。

冒険者ギルドがない理由は、住人の数が少ないと言うのもあるのだろうが、冒険者達が逗留する場所も少ないから、と言う事も含まれる。


「本当にギルドはあるの?」

「先程のB級パーティの話だと、ある様な感じで話していたな。探してみるか?」

「先に宿では……」

「そうだな…そっちが先か…」


2人して、気分は急降下だ。

無駄だと分かっていても、野営になるかも知れないという事を考えたくない、シドとリュウなのである。


まずは、宿のあるエリアを探さねばならない。

リュウが、通りに居る女性達をつかまえて、毒気の無い笑顔を使って宿の場所を聴いて回る。

ここでシド一人だったら、情報は得られなかったかも知れないな。と、こっそりシドはリュウに感謝したのだった。


「お待たせ。あっちだって」

「助かった」


「ふふ。兄さんは愛想がないからね。こういうのは僕の担当だよ?」

ニカッと笑いシドを見上げる。

「ああ、頼りにしている」

そう言ってリュウの頭をポンと叩く。


「また子供扱いだし…」

やられたリュウは苦笑いするも、まんざらでもない様だ。ただの2人のじゃれ合いである。


聴き取った事を頼りに宿が集まるエリアに着き、取り敢えずは1軒ずつ入ってみる事にした。



「こんばんは。部屋はありますか?」

リュウが受付に居る女性に話しかける。


「おや?泊りかい?…ごめんよ、今日は一杯だね」

「そうですか…」

「他の宿も似た様なものらしいから、余り期待はしない方が良いかも知れないよ」

「わかりました。ありがとうございます」


2人は又、宿の外へ折り返す。そして扉を閉めると、リュウが肩を落とす。


「ああ言われたが、一応全て廻ってみよう」

「そうだね」


それから2人は5軒の宿屋を訪ねるも、やはり何処も満員だった。



「むぅ…」

リュウが唸った。

シドはリュウの頭をポンと軽く叩いて言う。

「まだもう1軒ある。少し離れるがさっきのおやじが教えてくれた宿だ。穴場かもしれないぞ?」

「…そうだね。それでダメなら野営か…」

そう言って見上げた空には、いつの間にか星が輝いていた。



2人は先程の宿で聴いてきた宿へ向かう為、宿の集まるエリアから少し離れて、町の入口近くまで戻る。

近くには店も少なくなってきていて、灯りの数も乏しくなった頃、その宿の前に到着する。


扉の横にある小さな看板らしき物には、“束の間の休息”とそう書いてあった。

シドがカチャリと扉を開けると、小さな受付が見えた。入ってきた2人に気が付いた者が現れる。


「いらっしゃい。泊りかな?」

そう話す人物はいかにも人の好さそうな、おじいさんだ。


「はい。泊まりたいのですが、部屋はまだありますか?」

リュウが心もとなく尋ねる。


「一晩かな?」

「はい」

「ああ。1部屋なら空いてるよ。でも1人部屋だけど、良いかい?」


シドとリュウは顔を見合わせるも、直ぐに返事を返す。

「それで良いです。お願いします」


言ったのはリュウだ。

(…1人部屋という事は、ベッドも1つではないのか…?)

シドはそう思ったのだが、リュウは気が付かなかったのだろうか。


「はいよ。じゃあ1人部屋だから料金は1人分で良いよ。その代わり食事は別料金にさせてもらうよ」

「はい。大丈夫です」


そう言うが否や、リュウは部屋の代金を支払ってしまった。余程ベッドで眠りたいらしい。


「じゃあ、案内するよ」

そう言って男性は、2人を連れて移動する。


「部屋があって良かったね」

リュウがシドに向けて話す。

「そうだな…」

シドには思うところもあるが、そう答えるに留める。


「あー。やっぱり他の宿は一杯だった様だね」

先頭を歩く男性が、振り返り話しかける。

「はい。他は全滅でした…」

リュウが苦笑して答える。


「うちは大きな宿ではないから、部屋数も少ないし人をみて貸していてね。断っているお客もいるんだよ」

そう言ってニッコリ笑う男性は、ただ優しそうな訳でもない様だ。


「うちは儂と妻と2人で切り盛りしているからね、変な人は泊めたくないんだ。だから大々的には宿として謳っていないんだよ。こうして他の者から教えられた人が泊まりにくる位だね」

君達もだろう?と男性は笑った。


「はい。この先の宿屋で教えてもらったんです」

「そうかい。あぁここだよ」


1階の奥にある部屋の前まで来ると、扉を開けて2人を促した。


「狭いが勘弁して欲しい。食事はどうするかな?」

「これから外に出るつもりだから、今日は何か食べて来る。明日の朝は頼みたい」

「分かったよ。そうしたら、明日は、8時頃には食事を持ってくるからね」

「ああ、頼む」


シドがそう返答すると、鍵を置いて“ごゆっくり”と男性は戻って行った。


案内された部屋には、ベッドとテーブル、イスが置いてあるだけで、後は人が1人通れる位のスペースしかない。本当に1人部屋だ。

それを気にした様子もなく、リュウはベッドに腰かけた。


「ふー疲れた…これは気疲れだよ」

リュウの言にシドは苦笑いする。

「そうだな。今日も色々と大変だったな」


2人で森の中に居た時よりも街に出てきてからの方が、色々と疲れる気がするのは何故だろうか。そんな事を考えながら、シドもイスへ座った。


「何か飲むか?」

リュウがいる方とは反対側に、小さく亜空間保存(アイテムボックス)を開くと、そこから果物のジュースを取り出す。

2人共疲れているので、酸味のある物を選ぶ。


「ありがとう」

そう言って受け取ったリュウは、ごくごくと飲み干す勢いで飲んでいる。余程喉が渇いていたらしい。

「ぷはー。生き返った」

すっかり少年に成りきっているリュウである。


それを眺めながらシドは、チビチビと飲みつつ話しを切り出す。


「これからギルドだな?」

「そうだね…一応見ておかないと、だよね。何だか部屋から出たくなくなったけどね」

眉を下げてリュウはシドを見た。


「…では行くか」

「…うん」


取り敢えず、と重い腰を上げた2人はため息を吐くと、宿を出てギルドへ向かう事にしたのだった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 世渡りの上手い下手の下りで、シドに当てはまる言葉は…口達者!…でしょうかね? [一言] …追いついてしまった…楽しみに待ちます!では!
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