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【書籍化決定】シドはC級冒険者『ランクアップは遠慮する』~稀少なスキルを持つ男は、目立たず静かに暮らしたい~  作者: 盛嵜 柊 @ 書籍化進行中
【第三章】共に生きる者

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44. 拾いモノ

ナンナに連れられた3人は、店の勝手戸を抜けた先の裏庭へ出る。


そこは庭の所々に明かりが灯り足元も見易くなっていて、広さも剣の素振りが出来る程十分に広い庭だった。そしてその奥には小さな建物が一つ建っている。多分、妹がいる建物だろう。


「ここで良いよ。出してごらん」


ナンナに促され、シドは亜空間保存(アイテムボックス)を開く。そこへ手を入れるとズルリとソレを出して、目の前に置いた。


“ズサッ”


重たい音と共に気味の悪い魔物が出てきた。

「ひっ…」キャルは一目見て悲鳴を上げると、1歩後ずさりする。ナンナは平気だった様だ。


「……本で見るより気持ちが悪いね……」

これの姿はお世辞にも、褒められたものではない。


「どうだ?」

「ああ。マンイーターだね」

「では使えるな?」

「ああ。だがこれを燃やすにも、燃やす手段がないね…どうするか」


「誰か火魔法を使える人は、居ないの?」

リュウが疑問をぶつける。

魔法であれば火力も問題ないはずだ。


「私が火魔法を使えるわ…でも私は魔力が殆ど無くて、焚火の火種位にしかならないの。こんなに大きな物を燃やす事は出来ないわ…」

悔しそうにキャルが言う。


「では問題ないな」

そうシドが話し、それを聞いたリュウも一つ頷いた。


「何か良い方法でもあるのかな?」

ナンナがニヤリと笑い、シドを見た。


「ああ。問題ない」

「…そうかい。まぁ分からないが任せるよ」

呆れた顔でナンナが付け加える。

「ここでやって良いのか?」


今は日も暮れて、辺りは暗くなっている。今からやるのか?という意味も含め、シドは聞く。


「お願いします!」

それに答えたのはナンナではなく、キャルであった。確かに、目の前に妹を治せる材料があるのだ。それをお預けにされるのも酷である。


シドがナンナの顔を見れば、困った様に目じりを下げて頷いた。


「何かあったらリュウ、火を消してくれ」

「わかった」

それだけ言うと、シドは皆を壁際に下がらせてから、詠唱する。


炎踊(ファイヤー)


シドは火魔法を使った事がない。だが、人の放った火魔法を見た事はある為、詠唱は知っていた。

シドの放った炎は魔物を一瞬で包み、赤く踊っている。


「すごい…」

見ていたキャルが思わず、といった風に呟いた。


「火力はこれ位で良いか?」

「そうだね。これ位ならすぐに灰になりそうだね。というか、火魔法を使えたのかい?」

「いいや。俺は風魔法しか持っていない」


シドとナンナは普通に事務的な会話をしているが、他の2人はその火の行方を見つめている。


「これでやっと、お薬が作れるのね…」

キャルがポツリと言う。


確かに、必要な材料としてマンイーターが入っていた事は不幸だっただろう。シドもリュウも何年も冒険者をしていて、初めて見た魔物であるし、フェンリルの事でもなければ、気が付きもしなかっただろう。

本当は近くにいるかも知れないが見えない魔物とは、とても厄介な奴である。


「これを灰にしたものは、今回の事で全て使い切るのか?」

シドはナンナに尋ねる。

「いいや。これは10人分位あるだろうさ。だから全部は使い切らないね」

「残った分はどうするんだ?」

「時間停止がついた収納箱に入れとくよ。又何かあるといけないからね」

それを聞いてシドは頷いた。



火をつけてから20分程で火は消え、足元には大量の灰が出来上がった。


「キャル、回収するよ」

「はい!!」


ナンナとキャルは大切そうに、マンイーターの灰を回収していく。それをただ、シドとリュウは眺めていた。


-----


家に入ると、シド達の前を歩いていたナンナが振り返る。

「あんた達はもう休んどくれ。後は薬師の仕事になるからね」

そう言って一つウインクする。


その申し出を有難く受け、シドとリュウは2階の部屋へ入る。


「お薬、ちゃんと出来ると良いね」

「ああ。あの2人なら問題ないだろう。だがあれは、徹夜覚悟だな」

シドはニヤリと口角を上げる。


「少しでも早く、飲ませてあげたいもんね」

「そうだな」


今日彼女たちは、薬が出来上がるまでは眠らないのだろう。薬師の仕事の詳細は良く分からないが、少しの分量も間違えてはならず、神経をすり減らす作業となる。


そんな2人を案じつつ、シドとリュウは就寝したのだった。



-----



翌日シドは、早朝に目を覚ます。リュシアンはまだ眠っている。起こさない様に身支度を整えると部屋を出て、階段を下りた。


店舗から続く奥の作業場らしき所では、まだ人の気配がする。本当に徹夜で作業していた様だ。

シドは足音を消して、扉の無いその部屋の入口まで行った。


「ふー終わったね…」

「はい、出来ました…」


中の人達の顔を見れば、2人共目の下に隈が出来ている事が分かる。

そこでシドが居る事に気付いたナンナが、声を掛けた。


「おはよう。よく眠れたかい?」

「ああ。お陰様で」


2人が作業している間に眠らせてもらった為、何だか申し訳ない気がする。それを分かったかの様に、ナンナが明るい声を上げる。


「そうかい、それは良かった。こっちも今しがた、薬が出来たところなんだよ」

パチリとナンナが、ウインクを付け加える。そして隣でソワソワしているキャルを見て、声を掛けた。


「1日3回、朝昼晩。食後に飲ますんだよ」

「はい!!」


言われたキャルは1包の薬を掴むと、台所の方へ消えていった。


「大変だったな」

「いいや平気さ、これ位はね。そうだ、朝食は昨日作ったカルーで良いかい?」

「疲れているだろう?構わないでくれ」

「だが、私もお腹が空いているし、温めるだけだから手間じゃないよ」

「そうか。では頼む」

「素直でよろしい」


シドとナンナの会話が続いて居た所へ、起きてきたリュウが下りてきて、顔を出す。

「おはようございます。薬はどうなりましたか?」

「ああ、さっき出来たから、キャルがもう飲ませに行っているよ」


疲れは見られるが、ナンナはそう言って爽やかな笑顔をリュウへ向ける。


「良かったですね」

「ああ。お前さん達のお陰だね、ありがとう」

「いいえ。こちらこそ拾って頂いて感謝してるんです。兄と2人、途方に暮れてましたから…」

リュウは苦笑する。


こうして朝の清々しい風と共に、薬屋の時間は過ぎて行った。



その後4人で朝食を摂り、部屋にこっそり銀貨2枚を置いてきた2人は、これから次の街に出発する。


「お世話になりました」

シドが会釈し、ペコリとリュウが頭を下げる。

「こちらこそ、本当に感謝している。お前さん達に会えて良かったよ」

ナンナは爽やかな笑みを浮かべ、2人を見る。


「妹さん、早く良くなるといいですね」

リュウはキャルに視線を向け、笑顔を見せる。


「貴方達のお陰で、妹もこれから元気になるわ。本当にありがとうございました。…あの。コレは少ないのですけど、今用意できるお金です。足りなければまた取りに来てください…」


キャルがリュウに、お金の入った袋を差し出した。

それを見たリュウが困った様にシドを見上げると、シドが代わりにキャルに話しかける。


「あれは拾ったものだから、金は要らない。それは、妹さんの為に使ってくれ」


キャルの目が大きく見開かれる。

「そんな…あれはとても高価な物で…」

「拾ったものだから、俺達に価値は判らないな」

シドはそう言うと口角を上げた。


キャルの横で見ていたナンナが、呆れた様に笑う。

「ははっ拾ったものね…。確かにそう言っていたね。では何の礼も出来ないが、これを持って行っておくれ」

そう言って魔力ポーションを10本程出した。


「こんなに貰えないよ」

リュウが声を出す。いくら薬屋だからと言えど、これは1本銀貨5枚だ。それが10本だと銀貨50枚分にもなる。


「なぁに、うちは薬屋だから、売るほどあるからね」

そう言ってナンナがウインクする。


リュウはシドを見上げると、シドが頷きそれを受け取った。

「有り難くいただく」

「そうしてくれるかい?その方が、私も気が楽になるからね」

ナンナが気を遣って言ってくれている様だ。無下にはできない。


「ああ」

「では、本当にお世話になりました」

そう言ってペコリとリュウがお辞儀する。


「いいや、色々世話になったのはこちらもさ。気を付けて行きなさい」

「はい。ありがとうございます」

シドも会釈を返すと、2人は街の中を歩き出した。


その2人の背中に、キャルはいつまでも深々と頭を下げていたのだった。



いつも拙作をお読みいただきありがとうございます。


応援して下さる皆様に、少しでも楽しんでいただけますように、

来週の平日(月~金)は、毎日投稿をしたいと考えております。

その後は一日置きに戻す予定ですが、お付合いいただけますと幸いです。

次話の更新は、10月21日です。


引き続き、“シドはC級冒険者”をよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 燃やしてる時点ではまだ無償と分かってない状況なのにナンナさんが10人分の薬を手元に置こうとしてる発言があるところ とても高価な物だからお金は善意を当てにしてるとしてもキャルさんが払えそ…
[良い点] 古き良きファンタジーの香りを感じる所 見ていて素直に読みつづけられて、見つけて1日でここまで拝読させていただきました。 キャラクター性や物語に無理や破綻がなく また、好意抱くにたるサッパ…
[良い点] 人助けをするのは良いんだけど… [気になる点] 善人かどうか分からない出会ったばかりの人に無償で貴重な素材を渡すのを良しとするのが受け入れられませんでした [一言] 今まで楽しかったです。…
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