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【書籍化決定】シドはC級冒険者『ランクアップは遠慮する』~稀少なスキルを持つ男は、目立たず静かに暮らしたい~  作者: 盛嵜 柊 @ 書籍化進行中
【第三章】共に生きる者

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43. あと ひとつ

「上の部屋に案内するよ。おいで」


そう言ってナンナは又2階へ上がる。

リュウがペコリとキャルにお辞儀をすると、シドとリュウはナンナの後に続いた。


「ここだよ。何もない部屋だから好きに使っておくれ」

「ありがとう」

リュウがニッコリ笑ってお礼を言う。

「可愛くて良い子だねぇ」

そう一言いうと、食事が出来たら呼びに来ると言い残し、戻って行った。


「食事も出してくれるみたいだね…」

「そうだな」

何だか至れり尽くせりで申し訳ないな、と思う。


「明日、少しお金を置いていく?」

「そうするか」

そう話し合い、2人は部屋でのんびりとさせてもらった。


1時間ほどして窓の外が暗くなった頃、キャルが呼びに来た。

コンッ コンッ

「食事が出来ましたよ」

その声に、リュウが扉を開ける。


「色々すみません、ありがとうございます」

「いいのよ。ナンナさん、思ったことをチャチャっとやる人だから、皆ペースに巻き込まれているだけだもの」

そう言って“フフフ”と笑う。


「こっちよ」

「はい」

2人はキャルに連れられて、食堂へ入った。


「空いてる席に座っておくれ」

2人は言われた通り席に座る。テーブルの上にはカルーとサラダが置いてあった。


「カルーだ…」

目を輝かせたリュウが呟く。


「うちのカルーは美味しいよ。沢山食べとくれ」

「「いただきます」」


そして2人は家庭の味がするカルーをご馳走になる。

「旨いな」

「そうだろう?これだけは自信があるんだよ」

そう言ってナンナはニカッと笑った。これは他の料理の事は、触れない方が良さそうである。


「私、向こうで食べさせてきますね」

キャルが台所のトレーに置いてある、おかゆの様な食事を持って出て行った。

2人は不思議に思ったものの、そのまま食事を続ける。すると徐にナンナが話し出した。


「キャルの妹が裏の離れに居るんだ。少々体が悪くてね。あの()がここで働く様になったのも、妹の薬を作りたかったからなんだよ」

本人の居ぬ間に聞いて良いものか…。2人は戸惑うものの言葉をはさむ事はしない。

「ちょっと珍しい病気でね。ここにある薬では効かないから、キャルに申し訳ないと思っているのさ」


「…そんなに珍しい病気なんですか?」

リュウが堪らず聞いた。


「そうだね。文献には載っているんだが、近年には殆ど発症した者がいない。高めの微熱が何年も出続けて眩暈も伴う病で、一般の解熱薬では効かないのさ。そしてその人の体力が無くなれば、そこで尽きてしまうんだ。伝染する訳でも遺伝でもないが、何故か突然発症する病」


「そんな病気に、妹さんが?」

「もう2年も寝たきりでね。キャルも一生懸命に、治してやろうと頑張ってはいるんだが…」


「でも、文献があるという事は、薬もあるんじゃないの?」

「ああ。その病に効く薬の作り方は載っていたさ。でも、材料が揃わないんだよ」


「何だ?世界樹の葉でも使うのか?」

シドも気になった事を聞く。


「違うが…稀有だという意味では、似た様なもんさ」

「そうか…」


「その素材は、ギルドに発注していないの?」

「発注は出してあるよ。2年前にね」

「「………」」

2人は二の句が継げず、黙り込む。


静まり返った部屋には、食事を食べる音だけが響いていた。


もう2年前に発注をだしている素材。それがまだ手に入らないとなると、余程入手が困難な物だろう。


「手に入らない物は1つだけ。それさえあれば薬は作れるんだよ…」


しんみりとした空気に包まれていると、キャルが戻ってきた。

「どうだったね?」

「変わらずです」

「そうかい…」


そこで部屋の空気に気が付いたキャルが、声を発する。

「お聞きになったんですね」

「ああ」

「私に力があれば、妹を助ける事が出来るのに…」

そう言ってキャルは唇を噛む。何も出来ない自分がもどかしいのだろう。


「私達は2人家族なんです。今はナンナさんの所で働かせてもらっていますが、以前は畑仕事を2人でやっていました。でもある日、畑で妹が倒れてしまって…それまで調子が悪いのを、私に隠していたみたいでした」

そう言って両掌を、祈る様に組み合わせる。


「色んな人に診てもらっても原因が分からなくて、それでもずっと熱が続いてて。それで薬師として有名なナンナさんの所まで来たら、やっと原因は分かったのに…」

「「………」」


重い空気に包まれる。何も出来ないという自責の念に、この人はもう2年も耐えているのだろう。もし、妹さんが居なくなれば、この人の気力も尽きてしまいそうだ。


シドとリュウは顔を見合わせる。

2人に手伝える事があれば良かったのだが、しかし、そんなに入手困難な物を“手に入れて来る”とは気安くも言えず、リュウはしょんぼりと下を向いてしまった。


「マンイーター」

その時ポツリとキャルが言った。


その声を聞いたリュウが、勢いよく顔を上げてシドを見た。シドはそれに頷き、声を発する。


「それは、その手に入らない素材の事か?」

キャルがその問いに答える。

「ええ。マンイーターなの。残り一つの材料は…」


それを聞き、シドは念の為に聞く。シドもソレの外見を見た事がなかったので、確証がないからだ。


「それはどんな物だ?」

「植物の魔物だと、文献には載っていたね。だが姿を見る事は稀で、数十年に一度しか発見されていないらしい。文献にもそれを入手するまでに、10年掛かったと書いてあった」

「そんなには待てないわ。妹はもう随分と弱ってしまっているもの…」


シドとリュウは顔を見合わせ1つ頷く。


「因みに、その魔物があったらどうするんだ?」

「それの本体が手に入れば、それを燃やして灰にする。その灰を使って薬を作るのさ」

「体液を使う、とかでは無いのだな?」

「そう。灰だけでいいんだ。だから魔物を倒して回収してこないとならないね。私も調べてみたんだが、その魔物は認識阻害の能力を持っているらしく、見付ける事自体が困難で、見付かったとしても毒を持っていて厄介な魔物だと。だからA級の討伐対象らしいんだよ」


それを聞いたリュウが、あらぬ方を見ている。A級の討伐対象と聞いて、いとも簡単に倒してしまった事に、戸惑っているらしい。

話は解かった。であれば、する事は一つである。


「あるぞ」

「ん?何だい?」

「あるぞ、と言った」

「それは聞こえたさ。何があるんだい?」

「マンイーターだ」


「はあ?何を言っているのさ。妙な期待をさせないでおくれよ」

「本当だ…」

「お前さん、マンイーターの灰を持っているのかい?」

「いいや、魔物本体だ」

「「……」」


一瞬にして辺りが静まり返る。

それはそうだろう。“何言ってんだ?コイツ”という心境にもなろう。


「何処にあるんだい?」

亜空間保存(アイテムボックス)

「…本当に持っているのかい?」

「ああ」

「どうやって入手した?」

「…拾った」


シドは嘘を言ってはいない。一度自分達で倒した物を放置して、それを後から拾って帰ったので、嘘ではない。…のだが、少々無理がある事も否めなかった。


「それが“マンイーター”だと判って拾ったのかい?」


その聞かれ方だと、ボロが出るからマズイ。

“マンイーター”だと認識するならば確証を得ての事。魔物が、認識阻害させる能力を使う場面を見ている者にしか、確証は得られない。ただポロリと落ちていただけでは、その魔物の能力を知る事は出来ないのである。


「………」


「まぁいいさ。私は文献でその魔物の特徴を知っているからね」

シドとナンナが話を続けていると、我慢できなくなったキャルが入ってきた。


「それを売ってください、お願いします!お金は、何年かかっても払いますから!どうかお願いします!!」

必死にシドとリュウを見て、キャルは頭を下げる。


シドはリュウを見て、無言で呼びかける。

≪リュウ?≫

リュウはコクリと頷く。


「まずはソレを、確認してもらってからだな」

ナンナはシドの言に一つ頷き

「そうだね。確認しないと判らないからね。今から外に出よう」


ナンナはそう言って皆を外へ促し、4人は席を立った。


いつも拙作をお読みいただき、ありがとうございます。

誤字報告も併せて感謝申し上げます。

また、“ブックマーク・☆☆☆☆☆・いいね”を頂きます事、モチベーション維持に繋がりとても感謝しております。


次話の更新は10月19日を予定しております。

これからも引き続き、C級冒険者シドを見守って下さると幸いです。

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[一言] いろいろやらかしますネ〜❗️ もっと、いろいろやかして下さい‼️
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