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【書籍化決定】シドはC級冒険者『ランクアップは遠慮する』~稀少なスキルを持つ男は、目立たず静かに暮らしたい~  作者: 盛嵜 柊 @ 書籍化進行中
【第三章】共に生きる者

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42. レステの街

一方、ウェヌスの街を出発したシドとリュウは、街道を北上していた。


「北部領は、南部領とは雰囲気が少し違うんだね」

歩きながらリュウは話す。


「そうだな。北部は冬に雪も多く降るから、街道の造りも少し違うな」

そう言ってシドは歩いている道を指さす。


「南部の街道は、敷き詰められている石畳の1つ1つが、大きい物だったろう?」

「大きい物が隙間なく、敷き詰めてあったね」

「だが、北部では大雪が降る。雪が解けた後に水分が速く土に浸透する様、北部では少しだけ隙間を空けて、小さめのレンガを敷き詰めて道を造っているんだ。だから街道一つ取っても、北部と南部では印象が異なるのだろう」

「そっか。そういう工夫もされているんだね」


「家の作りも雪の対策の為に、少し造りが違うと思う。微々たる差だがな」

「へー。気が付かなかったよ」

「ぱっと見で気付く者は少ないだろうな。本当に少しの差だ」


「そうなんだね。兄さんは北部にも詳しいね」

今、この街道にはすれ違う者もいないが、リュウの“兄弟設定”の練習の為に“兄”と言っているのである。


「一応、生まれがこっちの方だからな」

「そっか」

そう言いつつ、リュウはキョロキョロと周りを見ている。ここには道以外は何もないが、他の違いを探しているらしい。


「そう言われると、木の種類も違うね」

少しの違いに気付いた様で、リュウは嬉しそうにそう言った。


「そうだな。旅をする時にそんな事を考えながら見ると、割と感心するんだ。街々で違った特徴があったりするからな」

「なるほどね。僕はまだまだ知らない事が多いや」

「これからいくらでも、知る事が出来るぞ。と言っても、知る必要のない事かも知れないがな」


シドはそう言ってリュウの頭を一つ撫でる。


「もー子供扱いしないでよ」

プクリと頬を膨らませたリュウが、上目遣いにシドを睨め付ける。


「ははは。弟だからな」

シドはそう言ってから、口角をニッと上げた。



2人は急ぐ訳でもない為、こうしてのんびりと景色を見ながら歩いている。

多少変装している事で、又森の中を歩く必要もないのだ。


「次の街で、先にギルドに寄ってみる?」

「そうだな。ギルドを見てから宿を決めてもいいな」


次に寄る予定の街はリーウット領の北、“レステ”だ。シドも訪れた事がない街である。


「兄さんは、リーウット領に詳しい?」

「詳しくはない。今までリーウットには来た事がない」


「兄さんはこっちの方の、出身だったよね?」

「ああ。だが子どもの頃はファイゼル領を出た事が無かったからな。冒険者になってからは、移動する中で色々な領地へは行っているが、こちら側には来なかった」


「そっか。兄さんにも知らない事があるんだね?」

「俺を何だと思っている…」

眉間に皺を寄せるシドを見て、リュウが笑う。

「ふふふ。面白い」

笑った口調が、微妙にリュシアンだった。



-----



夏になり陽も長くなってきている為、昼過ぎにウェヌスを出発しても、レステには明るいうちに到着する距離である。途中でのんびり休憩をはさみつつ、2人はレステの街に到着した。


この街も、大きい街ではない。東門から西門に繋がる1本の道を中心にして構成されている街で、門から門までは歩いて40分程。メインの通りが商業地域となっている様で、初めて訪れる者にも分かり易い街の造りである。


冒険者ギルドは、そのメイン通りの1本北寄りの奥にあった。まずは様子見で、2人はギルドの扉を開けて入って行った。


まだ早目の夕方である為、若い冒険者達の依頼報告時間の様だ。まだまだ元気そうな者達が多い。

シドとリュウはギルド内の様子を確認しつつ、依頼の貼ってある掲示板を覗く。


残念な事に、ここもどうやらD級の依頼が少ない様だ。シドがリュウの顔を見てみれば、リュウは眉をハの字にして掲示板を見ていた。


「ここもだね」

「その様だな…」


2人は顔を見合わせると、ギルドを出ようと踵を返す。

だがその時、中にいる者よりも少しランクが高そうな冒険者達が、ぞろぞろと戻ってきた処だった。


(D級からC級の冒険者達か?)


戻ってきた者達は、続々と受付に並び始める。


「街の規模の割に、ここも冒険者が多いね」

隣にいるリュウが小声で話す。

「そうだな」


一つ前のウェヌスも、D級の依頼が殆ど掃ける程D級冒険者が居たし、ここも冒険者が多い。

「何だろうな…」


その時近くにいた冒険者達の会話が聞こえてきた。


「<ボズ>には皆、いつまで居るんだろうな。俺達も潜りたいのに、C級が幅を利かせているから嫌になる」

「ああ<ボズ>に入りたいのは、皆一緒だってーの。C級の奴ら、威張り腐りやがって…」


ここでも<ボズ>の話だ。

<ボズ>は大人気だなぁと、シドはあらぬ方向に考えていた。


「兄さん、一旦出ようよ」

「ああ。そうだな」


2人は混み合うギルドを出て、道を歩き出す。


「ここの街も変な感じだね」

リュウはこれでも、元B級冒険者だ。経験者の勘とでも言うのか、何かが引っかかる様だ。


「ここも、どの道依頼はなさそうだな。今日はここに泊まって、明日また移動するか」

「うん。その方が良さそうだね」

2人共同意見だった様で、明日また移動する事になった。


「宿を探さなきゃね」

「そうだな。さっきの具合を見た限り、宿が残っていればいいが…」


定住している冒険者でもない限り、大体はみな宿を取って依頼を受けているのである。先程見た感じでは、宿が取れない可能性も出てきている。しかし今“もしも”の事を考えても仕方がないので、2人は取り敢えず宿を探す事にした。



-----



「やっぱり宿も無いな…」

「街が小さいからね。宿の数も少ないみたいだし。どうする?」


道を歩いている途中リュウにそう問いかけられ、シドは空を見上げる。空は夕陽に染まり赤い時間(とき)を迎えていた。


「どうしたね。道の真ん中に突っ立って」


ここは街の中心から少し外れているとは言え、立っている場所は道の真ん中だった。通行人の邪魔になってしまったのかと、2人は声の主を振り返る。


見れば、40歳位で小ざっぱりとした、赤い髪を1つに括り橙黄色の眼をした女性が、呆れた顔でそこに立っていた。


「往来のお邪魔をして、すみません」

リュウがすかさず、馬鹿丁寧に謝る。


「ははっ、良い子だね。それで、そんな所に突っ立って、どうしたんだい?」


その問いかけに、シドとリュウは顔を見合わせた。


「俺達は今日この街に着いた冒険者なんだが、宿がどこも一杯だった。それでここに立ち止まってしまっていた」

「ごめんなさい。少し話し込んでいたから、お邪魔してしまいました」


シドとリュウはそう話すと、道の脇に移動しようと歩き出す。するとその女性が、又声を掛けてきた。


「うちに泊まるかい?部屋はあるから泊まっていきなよ」

思わぬ申し出に2人は顔を見合わせる。


「うちは宿屋じゃないからもてなせないが、それでも良ければ来ると良いよ。あぁうちは薬屋だから、少し匂うがね」

そう言って女性は笑う。

為人を見る限り悪い人ではなさそうで、2人はお言葉に甘える事にする。


「良いんですか?」

「いいともさ」

「ではお願いしたい」

女性は一つ頷くと、ついてくる様にうながした。



女性の家は店舗と兼用らしく、メイン通りから1本奥の通りにある薬屋へ入って行った。扉を開ければ薬草の香りが吹き抜け、ある意味フレグランスな空間だった。


「この匂いは平気かい?」

「大丈夫です」

リュウが答え、シドが頷く。


「では問題ないね。入っておいで」

「おじゃまします…」


リュウを先頭に店に入る。店内は所狭しと薬瓶が並び、少しだけ見える奥の部屋には、大鍋や撹拌機などの備品が置いてあった。


「2階に部屋があるんだ。用意するから少しここで待っててくれるかい?」

「はい」

リュウが元気よく答える。それを笑顔で一つ頷いて、女性は2階に上がって行った。


「助かったね…」

「そうだな」

そう話しながら、リュウは店内の様子に気が行っている様だ。

「たくさんあるね」

「薬屋だからな」

「もーそう言う風に言わないで欲しいんだけど…」

「ははっ」


2人はすっかりくつろいで、そんな会話をしていた。

すると1階の奥から、藍色の髪をお下げにし、青い眼をした、まだ二十歳前の若い女性が顔を出した。


「あら?お客様でしたか?」

「いいえ、僕達は今一緒に…」

リュウが言いかけたところで、2階から降りてきた人物が口をはさむ。


「客じゃないよ。今日、うちに泊めてやる2人なんだ」

「…ナンナさん、大丈夫ですか?」

「大丈夫だよね?」

聞かれたナンナは、今度はシド達に振った。


シドとリュウは顔を見合わせて苦笑すると、リュウが返答する。

「ご迷惑は、掛けない様にします」

「ほらね?大丈夫だってさ」


何ともあっけらかんとした返しを、若い女性にしたナンナである。

「も~ナンナさんってば…」

「ははは。いつも真面目だねぇキャルは」


2人の会話を聞いていたシドは、自分達の自己紹介もまだだったと、切り出す。


「俺は“シド”で、こっちが弟の“リュウ”。2人共冒険者だ。今日はよろしく頼む」

リュウが隣でペコリとお辞儀をした。


「ああ、私も名乗ってなかったね。私は“ナンナ”で、こっちが助手の“キャル”だよ」

キャルもナンナの隣でペコリとお辞儀を返す。


こうして2人は、今日の宿を無事に確保したのだった。


次話の更新は10月17日です。

引き続きお付き合いの程、よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「兄さんはこっちの方の、出身だったよね?」 兄さんは と言ってるってことは人に聞かれても良いようにってことなんだと思うけど 普通弟は兄さんの出身知ってるはず(一緒なのだから) 聞い…
[一言] 凄い面白かったのに無意味な男装化で興味が薄れてきてる 元はヒロインとして魅力あったので残念
[一言] ソロ探索してるのを楽しんでいたら普通にパーティ組み始めたのは残念だった 持ち味を捨てたな……
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